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ルイス・キャロルの「アリス」考察

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『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』および関連作品の考察。 作中のパズルを解く記事が中心です。
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#不思議の国のアリス

続・10/6の謎

続・10/6の謎

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』第7章の帽子屋にまつわる私見。

前回の記事はこちら↓

このとき私は「Write in thisはwriting-deskの洒落かも」などと書いていたのですが、何とその先がありました。
···半分冗談のはずだったんですが。



帽子の札に書かれた'In this style 10/6' のthis styleは「この書体」即ち筆記体を指し「10/6を筆記

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第1の証人

第1の証人

『不思議の国のアリス』第11章より、帽子屋が法廷に召喚される場面。

ハートの王
"Call the first witness,"
白兎
"First witness!"
地の文
The first witness was the Hatter.

3度繰り返されるfirst witness。
これもダブルミーニングのようです。

辞書によると、witnessには「証人」の他に「(複数の署名が入

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サムシング・フォー

サムシング・フォー

6月ですね。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の物語の中にsomething fourを見つけたので報告します。



①第5章
『ウィリアム父さん、もう年だ』
"You are old, Father William."
→something old

②第2章
自分の足に新しいブーツをプレゼント
"I'll give them a new pair of boots for Chri

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「10/6」の謎

「10/6」の謎

『不思議の国のアリス』第7章のお茶会の場面で帽子屋がかぶっている帽子には、"In this style 10/6"と書かれた札が付いています。
「10/6」の中で、6だけがやや高めに配置された特徴的なデザイン。
註釈等によると、当時の帽子の売り方で「10シリング6ペンス」という価格を示しているのだとか。

ただ、妙に具体的な数字ということもあり、作者が何かしらの仕掛けを施しているようにも思われます

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アリスの回答、帽子屋の怪答

アリスの回答、帽子屋の怪答

『不思議の国のアリス』のお茶会の場面で帽子屋が出題する謎々は2つ。
私は「カラスと机」の謎かけ"Why is a raven like a writing-desk?" の答がLike a tableで、「小さなコウモリ」Twinkle, twinkle, little bat!…の謎々詩の答がbutterfly in the skyと推定しています。

また新たな気付きがあったので報告。


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『不思議の国のアリス』第6章より
「尖り顎の」公爵夫人

『鏡の国のアリス』白の子猫の名前

『鏡の国のアリス』白の子猫の名前

『鏡の国のアリス』に登場する2匹の子猫のうち白い方の名はSnowdrop。『不思議の国のアリス』に登場したDinahの娘です。

ジョージ・マクドナルドの娘が飼っていた猫の名に由来するというのが定説で、ガードナーの『註釈付きアリス』シリーズなど多くの資料に記載されています。

今回はこの名前についての私説。

実は最近、ヴィクトリア女王が自らの結婚式で使った花束がスノードロップだけで作ったものだと

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『鏡の国のアリス』もう1つのカラスの謎々

『鏡の国のアリス』もう1つのカラスの謎々

(前回の続き)

『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』に姉妹編のパズルがいくつかあることは過去記事で述べましたが、『不思議の国のアリス』第7章で出題される「カラスと書き物机の謎々」に対応するもう1つの「カラスの謎々」が『鏡の国のアリス』第4章に隠れていたことに気付きました。



『鏡の国のアリス』第4章でアリスと双子兄弟の前に現れる巨大な鳥。

トゥイードルダムは「カラスだ!」と叫んでい

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『不思議の国のアリス』帽子屋の謎々のアナグラム②

『不思議の国のアリス』帽子屋の謎々のアナグラム②

帽子屋の謎々についての新たな発見があったので報告します。

前回は文字列を組み換えるアナグラムの話でしたが、今回は単語の組み換えと駄洒落の複合技です。



まず、帽子屋が出題する2つの謎々、
"A RAVEN"と"LITTLE BAT"から
駄洒落を連想します。

A→A.
(A→A.=アリス)
raven→loving
(レィヴン→ラヴィン)
little→Liddell
(リトル→リドル)

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『不思議の国のアリス』帽子屋の謎々のアナグラム

『不思議の国のアリス』帽子屋の謎々のアナグラム

アナグラムは苦手なのですが、今回は大きな収穫があったかもしれません。



『不思議の国のアリス』第7章で帽子屋が出題する2つの謎々の片方。
"Why is a raven like a writing-desk?"
私の回答は"Like a table"なのですが、この文字列を組み替えると"A likeable T"になるのです。



複数の英英辞典を見比べるとlikeableの語義はpl

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『鏡の国のアリス』逆さの箱と「桑の木回ろう」

『フィドルディディーの謎』の続きなので、未読の方はそちらを先に御覧下さい。

逆さの箱白の騎士は初登場時、おかしな形の樅の小箱を逆さに肩にくくりつけています。
箱の蓋は開きっ放し。
原文はa queer-shaped little deal boxです。(dealはここでは「樅」でしょう)

白の騎士はこれを「clothesとsandwichesを入れておくための箱だ」と説明します。

①deal

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『アリス』の謎解きレポートを終えて

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』について、9月9日からnoteに書いていたレポートが終了しました。

「世界一有名な未解決の謎々」とも称される帽子屋の謎々への回答から始めて、1日約1話のペースで70話、よく続いたものです。

来年の2021年が『鏡の国』刊行150年ということで見切り発車気味にスタートしたのですが、予想外に新たな発見が多くて嬉しい悲鳴状態となりました。

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『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』エピローグ

『不思議の国のアリス』が求愛の暗号書、『鏡の国のアリス』が求婚の暗号書だという私の仮説はほぼ説明しました。

「キャロルはアリスに恋愛感情などは抱いていなかった」と主張する方もいるのですが、多くのパズルが相互に繋がって一つの結論に収束していくように見えるのは、決して偶然ではないと思います。

『不思議の国のアリス』の表紙は豚になった赤ん坊を抱いたアリス。
『鏡の国のアリス』の表紙はアリスと話してい

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『不思議の国のアリス』署名の無い手紙⑧

すみません。今頃になって追加です。

第6連別解「署名の無い手紙」第6連に別解、というかもう1つの解釈がありました。
二重ではなく三重の意味だったんです。

第3章のA Caucus-Race and a Long Tale。

この「コーカスレース」自体は
caucus race→caught us, race
「我々を捕って食べてきた種族」
というブラックな洒落だと思いますが。

この章の最後

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