フランス語翻訳練習 リルケ『果樹園』40

20220330 日本語訳を訂正しました。いつのまにかメイン文献の詩はいちいち暗唱してますね。2年前は3回音読だったんですね~

メモ

Kommentar
wie eine zweite Ausfertigung (un double)
写し、複製、コピー
avancer (絵) vi 浮き彫りされる、目立つ

cygne (作風の純粋な)詩人

image (鏡・水面などに映る)影、像

仏和大辞典、白水社、1981

白鳥、水、ということで、imageを水影としました。プルーストの『失われた時を求めて』は、邦訳を読んだだけなので全然語れません。リルケの手紙もKAで引用されているものしか読んでないので、研究と翻訳は不十分ですね。

画像1


画像2

フランス語学習の進捗状況ですが、初級文法・初級単語の勉強を終え、『やさしい仏文解釈』というフランス語の初級解釈書をやっています。リルケを読む精度・速度が少し上がったような気がします。
これが終わったら、『新しい仏文解釈法』という分厚い解釈書をやる予定です。気長にやります。

リルケの仏詩は3回音読します(最近は翻訳文体の勉強のために、邦訳とドイツ語訳も)が、この作品もあまりの美しさに溜め息が出ました。読書も興奮して夢中になると、心臓が少しドキドキしますね。深夜ですし、気を付けます。

去年の年末に掃除をしたのですが、河出書房新社版全集が出てきました。昔、古本屋で10万円位で買いました。せっかくなので今後とも参考にさせて頂きます。


原文*1
Vergers, 40

Un cygne avance sur l'eau
tout entouré de lui-même,
comme un glissant tableau;
ainsi à certains instants
un être que l'on aime
est tout un espace mouvant.

Il se rapproche, doublé,
comme ce cygne qui nage,
sur notre âme troublée...
qui à cet être ajoute
la tremblante image
de bonheur et de doute.


日本語訳
果樹園、40

自分自身に丸ごと包まれて、
白鳥が水の上を(浮彫のように目立って)進む、
滑る絵のように。
このように、ある瞬間、
人が愛する存在は
動く空間そのものだ。

存在が近寄ってくる、二重に(写し・複製のように)、
泳ぐ白鳥のように、
私達の波立つ心の上を……
心はこの存在に
幸いと疑いとの
揺らぐ(水)影を付け加える。


*2 研究者によるドイツ語訳
Ein Schwan zieht auf dem Wasser voran, ganz von sich selbst umgeben, wie ein gleitendes Bild; so ist in gewissen Augenblicken ein Wesen, das man liebt, ein ganzer Raum in Bewegung.

Es nähert sich, verdoppelt, wie dieser Schwan, der schwimmt, auf unserer aufgewühlten Seele...die zu diesem Wesen das zitternde Bild von Glück und von Zweifel hinzufügt.


*3 河出書房新社、白井健三郎、吉田加南子訳

40
自分に包まれて
白鳥が水の上を進んでゆく
あたかも一枚の絵がすべって進んでゆくように
このように ある瞬間には
人の愛する生きものは
動く空間そのものとなる

空間が近づいてくる
この泳ぐ白鳥のように二重になって
思い惑う私たちの魂の上を……
そして空間は付け加える この生きものに
幸福と疑いとの
うちふるえるイマージュを


*4 彌生書房、山崎栄治訳

40

一羽の白鳥が水のうえを

かれ自身にとりまかれて、

まるですべる一幅の絵のようにすすんでくる。

ちょうどあのように

わたしたちの愛する人もどうかすると、そのまま

動くひとつの空間にみえることがある。


愛する人は近よってくる、

水に浮くあの白鳥のように、わたしたちの

かきみだされた心のうえで二重になって……

心はそのこいびとに

幸福と疑惑との

ふるえわななく映像をつけくわえる。


解説 *5 によると、白鳥は古代ギリシャからよく使われたモチーフとの事です。ギリシャ神話では、白鳥はアポロとミューズに捧げられます。プラトンによって伝えられた神話のヴァリアントでは、オルフェウスは死後、白鳥に変身します。
象徴主義ではこの伝統は多様に採用されました。例えばボードレール、マラルメです。

河出書房新社訳と独訳で解釈が異なるように思えます。第二連四行目qui等です。皆さんはどうお考えでしょうか?
ご意見、何でもお待ちしています。


*1 Rainer Maria Rilke Werke, Kommentierte Ausgabe in vier Bänden, herausgegeben von Manfred Engel, Ulrich Fülleborn, Horst Nalewski, August Stahl, Supplementband

Gedichte, in französischer Sprache mit deutschen Prosafassungen, herausgegeben von Manfred Engel und Dorothea Lauterbach, Übertragungen von Rätus Luck, Insel Verlag, 2003, S. 52
*2 前掲書、S. 53
*3 リルケ全集第5巻詩集Ⅴ、監修塚越敏、河出書房新社、1991、pp. 482-483
*4 リルケ全集2、詩集Ⅱ、責任編集富士川英郎、彌生書房、1973、pp. 395-396

*5 前掲書、S. 489

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