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パスポートと100ドル札と私

僕は今、ホーチミンに向かうバスの中にいる。
さっき起こったトラブルについて書こうと思う。

僕はこの週末、会社の特別休業日に有給を加えて4日間の休みをつくり、2泊4日の弾丸ひとり旅で東南アジアにやってきた。
昨日、羽田からベトナムのホーチミンまで飛行機で行き、そこからバスで6時間かけカンボジアの首都プノンペンまでやって来た。
今日、プノンペンからホーチミンに戻り、明日の深夜便で羽田に戻る工程で、両国とも初めて訪れる国だ。

マニアな旅好きであればご存知だと思うが、日本人がカンボジアに入国する際には、ビザを発効する必要がある。
ビザと言うのは、その国に入国する際にパスポートとは別に必要なもので、アメリカやカナダのようにネット申請で出来るものもあれば、ロシアやカンボジアのように申請しに行ってシールみたいなのをパスポートに貼らなければならないものもある。
カンボジアの場合、そんな難しくはないが、イミグレーション(以下、イミグレ)でパスポートに加え、アメリカ合衆国ドル(以下、米ドル)35ドルと顔写真を渡すことにより、その場でビザを発効してもらえる。
今回、初めてのカンボジア入国だったこともあり不安はあったが、バスの添乗員が取り仕切ってくれたこともありスムーズに入国することが出来た。

プノンペンを満喫して今日、予約していた午後2時のホーチミン行きのバスに乗るために30分前にバスターミナルに着く。カウンターのお姉さんにeチケットを見せ、切符の発券を依頼したところ怪訝な顔をされる。
パスポートを渡して、いろいろ見られた後、「JUST WAIT!!」と言われ裏に消える。
なんなんだよ、と思いちょっとイライラして僕の眉間にシワが寄っていく。
新たにおじさんがやってきておもむろに「ベトナムへの再入国はビザが必要なんですよ。」と言い出す。
急に日本語で言われたことで驚いてしまったが、それ以上にその内容に驚いてしまう。

再入国にビザ…??はて??

眉間のシワが解け、背筋が凍り始めた僕は日本人のそのおじさん(おそらく駐在員?)に前のめりになって話を聞いた。どうやらベトナムは普段はビザを発効する必要はないが、短期間カンボジアなど他国へ行って戻ってくる場合(再入国する場合)に限り、200ドルほどのお金を渡してアライバルビザを発効しないとベトナムに入国できないと言う。
大使館に行けばもっと安くビザが手に入るみたいだが、あいにく今日は土曜日でおやすみ。両国はカンボジアのポル・ポト政権時代から続く(?)対立で隣国ながら関係は良くないみたいで、そんな弊害が起きている。

さぁ、困った困った。
帰りの飛行機もあるし、ここから日本に直で帰るのはイヤだ。プノンペンでもう1泊泊まって明日ホーチミンでトランジットすることも提案されたけど、まだホーチミンを満喫してないしそれもイヤだ。
こんな状況でも自分がやりたいことを優先したいわがままな僕が、脳内をグルグル回して編み出した答えは「お金払うのでベトナムに行きます!

おじさんに高らかに伝えたところ、隣にいたスタッフのお兄さんが電話でイミグレにいろいろ聞いてくれた。そして、実際は120ドルということがわかった。
そんな高くなくて良かったー、とは思ったものの、そんな大金今すぐ手に入るのか??(ちなみに日本円では13,000円くらい)と疑問と焦りが出てくる。

とりあえずカバンの中をあさり、絶対に使わない予定だった一万円札を引っ張り出す。僕は意外に(?)チキンな性格なので、こういうヘソクリがないと落ち着かないのだ。
その一万円札と何枚かの千円札を握りしめ、両替をしに近くの換金所に駆け込む。
換金所のヒマそうなおっちゃんに、一万円札を差し出したら No!!と首を振られた。ちょっと粘ったけど無理だった。
いつもは日本人で良かった!って思ってるけどこの時ばかりは日本という国の存在の小ささに悲しくなった。
それならキャッシング!と、近くにATMがあるかを聞いたけどそれも No!!って言われた。
困った困った困ったちゃん。
バスターミナルがすこし市街地から離れた地域だったこともあり、結局米ドルが手に入らなかった。

不安から泣いてしまいそうになったが、まだまだ泣いてられないと、強い自分を演出するようにバスターミナルへ戻る。さっきのおじさんに日本円が替えられなかったことを伝えると、「仕方ない」と言って自分の財布から100ドル札を出してくれた。

な、ん、と!!!
ご好意で日本円12,000円と米ドル105ドルを替えてくれたのだ!!ここに神様が存在した。
ちなみに神様の財布には赤ちゃんの写真が貼ってあった。おそらく日本に妻子を残し、単身でカンボジアに来たのだろう。赤ちゃんに伝えたい、あなたのお父さんはとても優しい立派な人だと。

そんな局面を乗り越えてなんとか出発3分前にバスに乗ることが出来た。さっきビザの発効方法を聞いて調べてくれたスタッフのお兄さんはこのバスの添乗員だった。
「イミグレに着いたら俺についてきてくれ」的なことを言われた。なんなんカッコよすぎん?!!
そんな訳で無事にプノンペンを発つことができた。ホッとしたので泣いてしまいそうだったけど、疲れきってたのでそのまま熟睡。

国境を越える時にはバスの乗客みんなが一斉にイミグレを越えるので、バスの中で事前にパスポートを回収される。別途ビザ代の支払いなどがある人はそのタイミングでお金を渡す必要がある。
僕は財布を覗く。ふと気付く。用意しなければならないのは120ドルだが、さっき替えてくれたのは105ドル。もう15ドル多く用意する必要があった。
ベトナムドンにカンボジアリエル、そして日本円と米ドル。4種類のお札が混じりあった財布から見つかった米ドルは1ドル札が11枚。。。

・り・な・い。。。
思えば、あの時は替えてくれたそのことで高まってて実際の金額に足りてないことに気付かなかった。

そんな時、既に一部始終の状況を把握している添乗員のお兄さんは、ポッケからスマホを取り出して計算をし始めた。
そして僕が広げたお金の中から、100ドル札と1ドル札を4枚、次に100,000ベトナムドンを4枚を取り、親指を立ててくれた。
なんというイケメンや!!
僕は恋愛対象は女性だけど「惚れてまうやろー!!」と叫びそうになった(もちろんそんなことはしない)。

足りない分のお金を添乗員のお兄さんが自主的に替えてくれることで補填することができ、とりあえずお金の問題が解決した。旅にトラブルはつきものと言うが、こんなお金のトラブルは初めてだ。

途中、バスのタイヤがパンクして交換するなど、別のトラブルが発生してほんとにどうなるかと思ったが、なんとか国境のイミグレに到着。
添乗員のお兄さんから渡された自分のパスポートにはベトナムのビザが貼ってあり、無事にベトナムに入国。
やった、、やっと乗り越えた、、、泣
長らく張ったままだった緊張の糸が切れた。

今回、僕が運良く乗り越えることができた、ということではあるが、日本人のおじさんと添乗員のお兄さんの優しさのおかげで乗り越えられた、ということでもある。
もし日本円と米ドルを替えてくれなかったら、もし米ドルが足りないままだったら、もし言語の壁から何も伝えられないままバスに乗ってイミグレまで行ってしまったら、、、

仮にそれが仕事であっても、困ってる人を助ける、という行為が、どれほどその人の行先を左右するか、どれほどその人を安心させられるか。異国の地での出来事からいろんなことを考えてみた。
困った人を助けたい、ありきたりな願望かもしれない。でも僕はこれからそんな人間になりたい。強く思った。

これら一連の経験でそれに気づけたのであれば1万数千円も高い金額ではないように思える。

初夏の南国での、苦虫を、いや、ドリアンを噛み潰したような出来事でした(笑うとこです)。

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