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坊主憎くても袈裟まで憎すな

先日このような記事を見つけました。

川の清掃という慈善活動を行っていた日本にいる中国人グループが、実は自らの母国である中国に批判の立場を取る人たちだったというものです。

日本では日々中国に関する報道を目にしますが、その多くは悪い印象を受けるものです。

共産主義、一党独裁、情報統制、香港・台湾問題、コロナ規制といった日本とは大きく異なる国家の方針に加え、訪日中国人のマナーの悪さが及ぼす実被害などもあります。

そのようなことから、日本では中国を批判する人が多く見られます。

この記事によると、川の清掃を行なっていた中国人グループはそういった日本人の国民感情を理解し、あらゆる政策やマナーの悪い国民のことを思い、中国人ながら中国を批判するという立場を取っているそうです。

中国と一括りに言っても、14億人を擁する世界で最も人口の多い国にはあらゆる感情を抱えた人がいます。

だからそのような母国を批判する立場の人がいるのもおかしくないし、彼らを同じ中国人だからと一括りにして批判することは良いことだとは思いません。

世界には国の単位だけで語れない、いろんな問題が横たわっているのだと改めて感じました。

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僕が今いるジョージアという国はロシアのすぐ南に位置しています。

戦争が行われているウクライナは地図上では近い距離に位置しているものの、実際は1000kmも離れているため(東京から沖縄ほどの距離)、流れ弾が飛んでくるような被害を受けることは全くありません。

しかし、ジョージア国民の間では反ロシアという感情が根深くあります。

その理由として、今から14年前の2008年8月7日、当時はグルジアと呼ばれていたジョージアとロシアは「南オセチア」と言うジョージアの一地域を巡って行われた戦争があります。

そもそもグルジアは南オセチアとアブハシアと言う2つの領土を巡り、ロシアとしばしば対立していたことが背景としてあります。

この日ロシア軍はグルジアに軍事攻撃を行い、戦争が勃発しました。結果的にフランスの仲介によって停戦が合意されたものの、グルジア国民が領土から追放され、14年経った今でも緊張状態は続いています。

そのような経緯から、現在のウクライナ戦争でもウクライナを支援する人は多く、トビリシ市内でも青と黄色の国旗を掲げている民家をしばしば見かけるし、実際に移民として移り住んできたウクライナ人も多くいるそうです。

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そのように反ロシアのスタンスを取るジョージア国民の感情は根強くありますが、この数ヶ月でロシア人は相次いで国境を跨ぎジョージアを訪れています。聞いた話では、黒海沿岸の保養地・バトゥミに来ている観光客は、大半がロシア人だそうです。

僕もトビリシのゲストハウスに滞在していると、ロシア人にはしばしば遭遇します。

戦争の余波を受けて、生活がしづらくなったのはウクライナ人だけでなくロシア人も同じです。

世界各国がロシアに対して経済的制裁を課し、あらゆる生活の支えがロシアに入らなくなっています。そのような理由から、ロシア人もロシアを離れつつあり、隣国ジョージアにも相次いで移民が流入しています。

実際、トビリシ市内の住宅の家賃がこの数ヶ月で一気に上昇したことからも、この状況がよくわかります。

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そんなロシア人ですが、実際にゲストハウスで出会う人たちと話してみると、母国を憎む人が多くいることがわかりました。

皆ロシアが批判の対象になっていることを理解しているし、自らもロシア国家が軍事攻撃を仕掛けていることを是としていなかったのです。

現在ロシア人は自分の国籍を伝えることすらもためらう状況に立たされています。その感情を思うと胸が痛みます。

冒頭の中国人と同じく、ロシア人にも母国を憎み、母国を捨ててきた人がいるということも事実として知るべきことだと思いました。

僕の前職はグローバル企業で、この戦争を機にロシア事業からは撤退しました。もちろん各国が行う経済制裁の一環だから仕方ないとは思うものの、残された社員のことを考えるとつらい感情を抱きます。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」になってはいけません。

政治と市民は切り分けて考える必要があるし、物事は二極化できない根深さがあると言うことを認識するべきだと強く思いました。

海外にいる僕としては、そういった市民の細かい感情を伝えられるようになりたいし、多くの人々に伝えていくことで世界のいろんな側面を知ってもらえたらいいなと思います。


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サムネイルの場所はロシア・ジョージア友好記念碑(グダウリ)

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