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私的詩手帳

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_人人人人_ > 突然の詩 <  ̄Y^Y^Y^Y^ ̄
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#夏

セコハンの夏

中古屋で買ってきた
すこしさびの浮いたママチャリで
無風の街を走る
前かごに入れた
トートバッグのなかで
図書館に返す本が
がちゃがちゃと騒ぐ

小学生がだんごになって
プールのにおいをさせながら
涼しい顔をしてすれちがう
芋を洗うような学校のプールで
夏休みの午後をやりすごした記憶が
塩素の残り香にひそむ

全ての夏が
全くすばらしいとは
口が裂けても言えないが
夏休みがあるかぎり
どうしようも

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季節

ひとつずつ
ひとつずつ
あなたが置き忘れていったものを
たどって拾って 歩いてゆく季節
日差しの下黒く光る欠片
日焼けしたあなたの背中
視線の先にゆらゆら
かすんでゆく
消えかかる

追いかけるのもままならなくて
追いつくこともかなわなくて
同じ季節のあなたは
ずっと遠いまま
彼方を向いたまま
まるで何かを拒むよう
まだまだそこにいるんだよ
身勝手なことを言われているようで

いや 身勝手なのはあ

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しぐれ

くそあつい部屋で
1.5リットルの
ダイエットコーラを
らっぱ飲み
口の中にしつこくはりつく
甘味料の甘さも気にせずに
夏を通りすぎる

苦労もしないのに
汗をかき汗をかく
生きていれば
多少の汗はかくもので
だからわざわざ
汗をかこうとせんで
いいという話もある

蝉しぐれだけが
おれの味方
かといって
敵などいない
味方がいるから
敵もいるなんて
誰が決めたことだ

くそあつい午後三時
1.5

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夏という坂の

夏はまるで
坂を上るよう
しかし夏という
坂のてっぺんから
下りはじめるときの
さびしさはなんだろう
夏は来年もいつもどおり
やってくると分かってても
さびしいのはなぜなのだろう
              
さびしいとわかってはいても
またきてしまうものなので
さびしさを求めるように
また上りはじめている
てっぺんまでの道を
本来求めてるのに
てっぺんからの
眺めを求めた
はずなのに

さびしさ

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(詩)点描

熱いアスファルトの起こす
上昇気流に逆らって
風はあきらめずに
何度も路面へ吹きつける
かげろうは沸き立つ
二つの流れに身を翻しながら
風もまた熱を得て
上昇気流に呑まれ
やがて入道雲となる

路傍で力尽きた虹色の甲虫
遮るものもない日差しは
硬い殻がとじこめる最期の潤いを
魂をすくうように蒸散させる
しかし 殻の表面がたたえる
静かな極彩色は
太陽に奪えそうになく
むしろその光を奪いながら
やが

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(詩)まなつの真実とまみの真夏

まなつとまみは仲がいい
まなつは真夏に生まれたから真夏
冬になったって真夏のまなつ
まみは親の名前を一文字ずつで真実
素直になれないときも真実のまみ

まなつとまみは同じ日生まれ
家ははす向かい
同じ小学校に入り
同じ中学校に入り
高校も同じ
毎日手をつないで
おしゃべりしながら
同じ道を行き帰り
日々のよしなしごとと憂鬱を
ふたりで大事にわけあいながら

まなつには好きな人がいる
まみには言って

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フリージア

夏はゆく
わたしをとりのこして
永遠の夏がほしいから
わたしには好都合
そうしてひとり夏に背く

かげろうが気だるく
手招きをしても
行くことはできない
ここにとどまるだけ
とどまるだけ

己が心を殺めて
色を手に入れた
ナルキッソス
眠りの夏のなか
自らをおいこしてゆく

終わりなき運動は
終わりなき静止
波うつガラスに
とじこめられた花弁たちは
青緑の感情を片足立ち

バランスを崩したなかに

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あいくるしい あつくるしい

あいくるしい
夏の午前に
あつくるしい
宿題の束
めんどくさい
自由研究
おわらしたい
早いとこ

あいくるしい
かぶとむしたち
あつくるしい
ひと夏の虫かご
めんどくさい
世話をしてても
うごかない
そんな日がくる

あいくるしい
入道雲が
あつくるしい
通り雨
めんどくさい
濡れた服たち
かわかしたい
早いとこ

あいくるしい
露店の金魚
あつくるしい
露店のおっちゃん
めんどくさい
金魚すく

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再会

夏至一か月後の夜
点滅しはじめた青信号が
糸を引く湿った闇のなか
赤に変わることなく
何かを思い出したように
また 青く灯った

草木の寝息のにおいは
夜の熱がかき混ぜるかげろうと
しめしあわせて
儚くなつかしい像を結んだ
おぼろげな影が呼んできた奇跡
街をゆくすべての光が
時間に逆らいはじめて
この交差点を
時の離れ小島にする

すべての音が
光に置いてけぼりにされた
しずかな横断歩道のむこう

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夏の小部屋

ぼくはどこから大人になって
こうなってしまったのか
その境界線を見つけようとする
夏のはじまりの日

檸檬の味のするファーストキスや
はじめてのデートで手をつないだことを
思い出し熱くなる体温
防波堤で毎日あの子と口ずさんだあの歌
大人になる前抱く予定だったせつなさは
予定のまま味わうことなく憧憬どまり

やり残したことばかりが
やれなかったことばかりが
がらくたのように足元にころがって
探す線は

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ひと夏のるつぼ

誰かが言った
この島の家々がもつ
外壁の白さは
しっくいではなく
希望や愛や
原初の欲望といった
夏がもたらすものの凝縮で
できていると

そよ風でふわふわと
舞い飛んでいってしまうほど
つかみどころのない
ささいな奇跡も
この島のひと夏には
両手にあふれるくらいに
降ってくる

ひと夏に一度は訪れる
一瞬のきらめきを求め
ひと夏に一口は味わいたい
儚い蜜の味を求め
一日数往復のフェリーでは
運び

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酷暑の木陰

湿度のかけらもない
無風地帯
未知の形容詞でしか
言い表せないような
やけくそな熱線が
石畳を焼いている

広場の真ん中に
くたびれた大樹
みなそこに
追っ手の大群から身を隠す
ブッチとサンダンスのごとく
熱のこもった体を寄せている

熱気という大海に浮かぶ
難破船の木片のような
狭苦しい木陰のもとで
気候を呪う駄弁りは静寂に
熱気を嘆く沈黙は喧騒に
変換される

気分屋はきょうも
ただただやくざ

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