(詩)まなつの真実とまみの真夏

まなつとまみは仲がいい
まなつは真夏に生まれたから真夏
冬になったって真夏のまなつ
まみは親の名前を一文字ずつで真実
素直になれないときも真実のまみ

まなつとまみは同じ日生まれ
家ははす向かい
同じ小学校に入り
同じ中学校に入り
高校も同じ
毎日手をつないで
おしゃべりしながら
同じ道を行き帰り
日々のよしなしごとと憂鬱を
ふたりで大事にわけあいながら

まなつには好きな人がいる
まみには言ってない
まだ言ってない

まみには好きな人がいる
まなつには言ってない
まだ言ってない

まなつとまみの夏休み
まなつはまみの家を訪れ
次の日はまみがまなつを訪れ
ふたりでいっしょに勉強
夏休みじゅうそれを繰り返す
まなつは数学が得意
まみは国語が得意
勉強に飽きればお菓子を食べる
そしてふたりの誕生日
まなつとまみの家族は
いっしょに一晩キャンプする

高校三年 ふたりの誕生日
もうすぐ受験だからと断ったのに
たがいの家族はキャンプしたがり
いつものキャンプ場へ
キャンプでもいっしょに勉強
昼時のテントにふたりでねころがり
塩のきいたおにぎり食べながら
まなつはまみに数学を
まみはまなつに古文を
まなつは関西の大学めざし
まみは東京の大学めざし

西日と炭のにおいが
バーベキューの時間をつげて
ふたりと家族たちは非日常に興じる
おなかがいっぱいになれば
つぎは花火
ふたりは家族たちからすこし離れて
ふたりっきりで線香花火
星明かりと天の川
ふたりの手元にもぱちぱちと
ふたつの星

まなつには好きな人がいる
まみには言えない
言えそうもない

まみには好きな人がいる
まなつに言えない
言えそうにない

まなつは
真実を明かせないままなのが
怖かった

まみは
真夏がこのまま過ぎ去るのが
怖かった

こういうときにかぎって
線香花火はいつまでも落ちない

家族たちからは
このふたりが
うっとりと息をのんで
線香花火を眺めているように
見えただろうか


大学に進んだふたりも
夏には里帰り
まなつは帰るたび
どことなく関西人っぽくなり
まみは帰るたび
どことなくあかぬけた感じに
故郷の涼しくて短い夏を
手をつないですごし
あの頃のように
しかし遠いよしなしごとを
ふたりでわけあう
それは大学三年の夏でも
同じだった

ふたりは誕生日に はじめて
ふたりっきりでキャンプへ
ふたりともそこまで慣れてないのに
ふたりで手をとりあうと
ふたり分以上のスムースさ
テントをはって火をおこして
自分たちのつながりがまだ
思いのほか強いことを確認したら
ひとしきり遊んで
日が傾いたら
ふたりは肉を焼きながら
高くもない赤ワインをちびちび
ささいな話題から将来の悩みまで
いつもと違う空気の中で
いつもどおりに

就職先を探せという
革靴の足音が聞こえはじめたふたり
離れていてもやりとりは
いくらでもできるけど
道が違ってももう
さびしくはないけど
同じ火と同じ場所の空を見て
同じ空気を呼吸して
言葉の端々のやわらかなひびきを
ふとした息づかいを感じながら
時間だけがふたりを
行儀よく追いこすのを
見送ることは
もうないだろうか

気づくとあの日のような
星明かり 天の川
ふたりはあおぎ見ていて
知らぬまに会話も火も
下火になっていた

あの夏を思い出していた

まなつには今でも好きな人がいて
まみには言えてない
言えるだろうか

まみには今でも好きな人がいて
まなつに言えてない
言えそうだろうか

みんなあのときのままだ
天の星や天の川のように

いろんなものを見て
いろんなことを知ったのに
あのときのままだ

まなつの大切な真実も
まみの望んだ真夏も
永遠のような顔をして
はかなげにそこにあった

まなつは思った
できすぎたドラマなら
ここで流れ星のひとつでも
流れてくれそうなのに

なら
線香花火で
この手元に
星をたぐりよせよう

まみは思った
ありふれたドラマなら
線香花火はもっともっと
心の距離を近づけるんじゃ

なら
線香花火で
この手元に
心をたぐりよせよう

やがてふたりは顔をみあわせて
そろって花火の袋に手を伸ばし
ひとつの線香花火に
ふたりで火をつけた

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