再会

夏至一か月後の夜
点滅しはじめた青信号が
糸を引く湿った闇のなか
赤に変わることなく
何かを思い出したように
また 青く灯った

草木の寝息のにおいは
夜の熱がかき混ぜるかげろうと
しめしあわせて
儚くなつかしい像を結んだ
おぼろげな影が呼んできた奇跡
街をゆくすべての光が
時間に逆らいはじめて
この交差点を
時の離れ小島にする

すべての音が
光に置いてけぼりにされた
しずかな横断歩道のむこう
見えるのは誰
さよならを言いたかったのに
言えないまま
泣き顔のまま
夏のはじめに別れたあのひとか

手招きするでもなく
ただただ立ちつくしたまま
見つめるでもなく
じっと青信号に照らされたまま
あいまいな影なのに
心をやんわりと沸き立てる

わたしはそこに
手を伸ばそうとする
手を伸ばした先であのひとの
手にもう一度触れたいと
手の暖かさでまた
通じあいたいと願う

そして体は動かない
夢のように動かない

光と時間しかない
この交差点で
力いっぱいのさけびは
かすかな光となって
過去へと流される
熱を帯びた湿気も
闇に放たれる草いきれすら
いくつもの光の筋となって
道路を河のように流れ
わたしたちを分かつ

あのひともまた
動かなかった
手放してしまった手を身勝手にも
もう一度つかみたいと願うのは
わたしだけかもしれなかった
そのうち
いつものように
涙がでてきた

この涙
あのひとには見えてるだろうか
ぬぐうこともできないまま
ぽろぽろとすっぴんの顔に
むらのある小川をつくる
この涙が

それともわたしは
あのひとにも
かげろうのようにしか
見えてないのだろうか

涙はあごをつたい
質量を光に引きかえて
道路へ
光の筋のひとつへ
いつもスエットやTシャツに
さんざんしみこませてる涙も
こうやって見るときれいだな
そんなことを思って
よけい涙がでた

そしたら
直感のなかで
あのひとが
悲しそうにほほえんだ
そんな気がした
わたしも笑えるかな
一生懸命笑ってみるけど
このくしゃくしゃの笑顔
恥ずかしいけど見えるかな



ふいに
草木のむせかえる芳香
熱い厚い湿り気のはてで
点滅の青がやがて
赤になる
真夜中の信号

消えてしまった
かげろうの跡には
何も残っていない
暗いアスファルトに
流した涙の雫がいくつも
跡を残していた

あのひとの番号も
メアドもLINEも
今はぜんぶぜんぶ
わからなくて
涙をぐいぐい
ぬぐうしかなかった

横断歩道がまた
青に染まるまで
ずっと泣いてた
コンビニに行く
つもりだったのを
すっかり忘れて
あのむこうへ
行けなかったことを
思い出しながら

そしたら
後ろで自転車のブレーキが
小さくさけんだ

おぼろげな影が呼んできた
奇跡

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