フリージア

夏はゆく
わたしをとりのこして
永遠の夏がほしいから
わたしには好都合
そうしてひとり夏に背く

かげろうが気だるく
手招きをしても
行くことはできない
ここにとどまるだけ
とどまるだけ

己が心を殺めて
色を手に入れた
ナルキッソス
眠りの夏のなか
自らをおいこしてゆく

終わりなき運動は
終わりなき静止
波うつガラスに
とじこめられた花弁たちは
青緑の感情を片足立ち

バランスを崩したなかに
たちあらわれるバランス
名づけられたことのない価値は
名前もないまま
かげろうを羽織る

気だるく手招きをする
かげろうをながめ
逃げ水のような期待を手に
生まれたての静止に
名もなき開花を待ちわびる

追わなければ
逃げ水は静止する
偽りと失望でできた結晶でも
身勝手なみずみずしさを
所与のものとして

フレーゼよ フレーゼよ
乱れた空気の彼方からの声
しかしもはやわたしは
何者でもない
わたしをとりのこして夏よゆけ

かげろうよ咲け
逃げ水を糧に
夏よゆけ
花咲くまでの永遠を
とりのこしたままで

花が咲くまで
わたしをとりのこしたままで

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