季節

ひとつずつ
ひとつずつ
あなたが置き忘れていったものを
たどって拾って 歩いてゆく季節
日差しの下黒く光る欠片
日焼けしたあなたの背中
視線の先にゆらゆら
かすんでゆく
消えかかる

追いかけるのもままならなくて
追いつくこともかなわなくて
同じ季節のあなたは
ずっと遠いまま
彼方を向いたまま
まるで何かを拒むよう
まだまだそこにいるんだよ
身勝手なことを言われているようで

いや 身勝手なのはあなたではなく
あなたを呼びよせた神さまだ
なぜ呼ばれたのがあなたなのか
よりによってあなたなのか
一緒にお呼ばれする覚悟くらい
両手にかき集めて持っていけたのに
もしあなたが それはいけないと
拒んだとしても

世界じゅうの図書館に納められた
美醜乾湿善悪貴賤せめぎあう言葉たちを
ひとつ残らず溶かしつくし塊にしても
まだまだ足りない物足りないと思うくらい
呆れるほど乾いていた体たち
呆れるほど飢えていた心たち
飽きないほど時間をむさぼりながら
世界はあなたと二人だけでいい
本気でそう思った

なのにあなたはここにいない
置いてけぼりを食らったまま
季節だけが律儀にめぐってきて
ここから
この季節から
あのときから
わたしはあなたをおってゆく

一歩ずつ
一歩ずつ
あなたが刻めなかった足跡を
ひとり刻む あなたのいない日々が
この季節のあとにやってくる
だからこの季節だけは
あなたが隣にいた記憶の焼きついた
今の この季節だけは
少しだけあなたに
近づけそうな気がして
あなたが置き忘れていったものを
今年も たぶん来年も
もしかしたら再来年も
きっとたどって拾って 歩いてゆく

あなたの背中を
遠くに見ながら
周回遅れのあすを
彼方に見ながら

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