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3D都市データをOOHで使う

 国土交通省の主導するproject PLATEAU」で、国内の3D都市データがオープンデータとして3月26日に公開されました。5回目のnoteでは、近年注目される3D都市データについて取り上げ、OOHにおける利活用の可能性について考えてみたいと思います。

project PLATEAU(プラトー)とは?

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 project PLATEAU 公式サイトより

 上記公式サイトの内容を要約すると、これまで様々なステークホルダーによってバラバラに保有されていた都市情報を分野横断的に統合管理することで、都市開発や災害対策、パンデミック対策など様々な都市経営の課題を解決するためのプラットフォームをつくるプロジェクトと言えます。国土交通省が主体となり、デベロッパーや通信事業者、コンサルなど30以上の事業者によって運営されています。

 特に、地図や建物などの現実空間のデジタルコピーである3D都市データがそのプロジェクトの中心となっており、今年3月26日にこれが商用利用も含めて利用できるオープンデータとして公開されました。

 少し前になりますが、2019年に発売されたWIRED誌で、建築物の3Dを含む様々な都市情報のデジタルツインを作り出し、現実世界と鏡像の関係となる「ミラーワールド」が特集されました。

 デジタルツインの対象には、実在する建物の地理情報や建物の3Dデータだけでなく、気象情報や人流データ、自動車の走行データ、その他各種センサーで取得されるIoTなどのリアルタイムな動態データも当てはまります。都市の営みを記述するあらゆるデータを取り込み統合することで、これからの都市開発や、自動運転をはじめとする新しい産業など、様々な分野で汎用的に使えるデータを作り出すことをproject PLATEAUでも目指していると言えます。

OOHでの利活用

 このデジタルツインによるミラーワールド構築については、私自身も以前から強い関心を持っており、OOHの領域でも使えると思っていました。しかしながら、国内市場規模約5,000億円程のOOH市場がミラーワールド構築に参入するというのは、「たしかにデータがあれば便利だけど、そこに投資するのはハードルが高そうだ」という印象でした。

 今回のproject PLATEAUのように、そういったデータをオープンデータとして、様々な産業に広く簡単に使いやすくする取り組みは、OOH業界にとっても大きなニュースだと考えます。

 機会があれば、今回の「3D都市データをOOHで使う」というテーマで様々な立場の人とブレストをしてみたいですが、ひとまず思いつく用途を幾つか挙げてみたいと思います。

1.広告の企画

 1つ目の用途としては、OOH広告を提案・実施する際のプランニングやプレゼンテーション、さらに事前の掲出シミュレーションなどが挙げられます。

 OOHは、都市開発や建設工事ほどではないですが、現実空間にリアルな広告物を設置・掲出するため、実施にはそれなりのコストがかかります。そのため、実際に広告を掲出する媒体とその周辺環境の3Dデータがあれば、空間に広告ビジュアルやオブジェクトを配置して、視認性やインパクトを検証しながら企画を作ることが可能です。従来でも提案の際には、実際の風景に広告ビジュアルをはめ込んだり、パースを使ったりすることも多いと思いますが、初めから3Dデータのアセットが揃っていれば臨場感のある動画やVRデバイスを使ったプレゼン等も比較的少ないコストで行なうことができます。

 余談ですが、もし3Dデータがない場合でも、今はSkechupUnityTwinmotionといった低予算で3Dモデル制作やレンダリングの行なえるツールが揃っています。寸法のわかる建築図面や駅図、媒体データなどがあれば、OOHメディアのデジタルツインを作ることはそれほど難しいことではありません。

新宿プロムナードの3Dデータを使用した広告企画イメージ(2020年4月)

各3Dデータ作成ツールの連携イメージ

2.媒体の開発

 2つ目は、媒体社が新しくOOHメディアを開発する際の利活用です。基本的には前述の広告企画と同様の使い方になります。媒体開発のプランニングや検証(通行者視点の視認性検証、到達人数推計など)に使うイメージです。
 新しく媒体開発を行う際は、広告制作以上に膨大な設備投資費がかかります。しかしながら、せっかく多くのコストをかけて媒体を作っても、それが「良い媒体」でなければ意味がありません(何をもって良いとするかという議論はありますが)。例えば、既存媒体の売上や稼働率と媒体のスペックやロケーション情報を比較することで「どのような条件であれば、売れる媒体になるか」を多変量解析などの統計的分析によって明らかにするのは比較的実行しやすいやり方です。
 3D都市データを使うのであれば、実際に媒体が設置された際に、どの位置からどの程度視認可能なのかを検証することができます。さらにそこへリアルタイムな人流データを加えることで、どのくらいの人が視認可能なのかを気象データや周辺のイベントデータなど様々な外的要因を変えて検証することもできるでしょう。「体感視認サイズ」や「視認時間」などの指標ごとに接触人数を可視化することも可能です。
 一方で、なかなか数値化できない媒体の良さを検証する必要も出てくるでしょう。媒体が設置された際に、それが「どのくらいインパクトのある広告になるのか?」「周辺環境にどの程度埋もれてしまうか?」といった検証を、VRデバイスなどを使って関係者全員が事前に共有することができます。

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渋谷駅周辺の人流データ(project PLATEAUより)

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PLATEAUを使った媒体視認性検証イメージ(筆者作成)

3.XRとの連動

 3つ目はXR(VR/AR)とOOHメディアの連動です。特にエンタメ分野であれば、デジタルツインやミラーワールドの用途として同様の文脈で語られることも多いと思います。VR(仮想現実)であれば、実際の街が再現された仮想空間に入り込み、そこで非日常的な体験をするというコンテンツが考えられるでしょう。渋谷をはじめ、実在する街や建物を舞台としたマンガや映画作品はとても多いです。作品の世界観をより没入感を高めて表現する手法としてVRは非常に有効です。現実空間にOOHを出しているのであれば、そのままVR上での掲出物と関連性を持たせることもできるでしょう。
 特にOOHと親和性が高いのはAR(拡張現実)です。実際の建物の3Dデータを元にして作られたARコンテンツは、OOHの掲出された実際の風景とシンクロしやすくなります。スマホをかざすと、アニメの主人公が建物を駆け上がっていったり、屋上からジャンプして建物の陰に隠れたりといった表現も可能と思われます。このとき、OOHメディアは街ナカでAR体験を促すためのマーカーとして機能します。他にも、駅にある飲食店の看板にスマホをかざすと、リアルタイムな空き状況やキャンペーン情報が表示され、その場で予約ができるといった使い方なども考えられます。そのまま実店舗にナビゲーションするといったこともできるでしょう。

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渋谷の街が舞台となったマンガ作品の例(『今際の国のアリス』より)

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都市3Dデータを活用した飲食店情報リアルタイム表示イメージ(筆者作成)

まとめ

 以上、大きく3つの方向性で3D都市データの用途を挙げてみました。個人的にもう一つ加えるとすればOOHメディアの販売や配信状況の管理プラットフォームとしても使えるのではと思います。「いつどこでどんな広告が配信されているか?」「どの期間の媒体が空いていて、いくらで販売されているのか?」といった情報を表示するための広告管理業務においても、都市3Dデータを始めとしたデジタルツインデータが連携できる場面は多いのではないでしょうか?

 人流や天候や事故、災害といった3rdパーティーの環境データを取り込むことで、これまで述べたようなシミュレーションに基づく時期や条件ごとのプライシングができるかもしれません。

 また、DOOHの分野では、海外の事業者を中心にダッシュボード上でOOHメディアの情報を管理しているところも多いです。3Dマップと連動して、より直観的に触れるようになると、OOHメディアを使用したい人の裾野が拡がるかもしれません。GoogleEarthのようなUIで、スポットを指定するとリアルタイムな配信情報や媒体情報が得られるとよいと思います。

 今回のnoteでは、私の個人的見解としてOOHにおける3D都市データの有用性を考えてみました。是非これを機に色々な方と意見交換できるとよいなと思っています。正直まだまだ書き足りないこともたくさんあります。デジタルツインやミラーワールド活用の機運がOOH業界でも生まれ、広い意味での「空間メディアのDX」が進んでいくことを願っています。

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