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不登校と中学受験(5)

中学受験がうまくいっても、いかなくても、進学した中学校で不登校になる子ども達が、毎年、必ず一定数います。

私立中学校では、そのことはわかっていると思います。

それは、前回、名前をあげた最難関中学校の先生の方から、毎年、必ずそういう生徒がいるとご家族が言われたとお聞きしました。

学校に通うことができなくなる生徒がいることを、私立中学校側で理解しているのです。


それは、中堅私立校も、国立大学の附属でも同じなのです。

国立大学の附属は、原則、教育学部かそれに近い学部の附属であり、不登校や発達障害の専門家がたくさんいるのに、何も対応はしてはくれていないところが多いのが現状です。


この国私立中学校に受験に合格して進学し、不登校になった子ども達は、とても辛い気持ちを抱えています。


私が出会ってきた子ども達は、自分の思いを言語化することもできないでいるのですが、だんだんフリースクールに通いながら、話ができるようになり、いろいろなことを感じ取れるようになってくると、少しずつ言語化できるようになっていきます。


その時に、子ども達が言うことはこんなことでした。


中学受験なんかしたくなかった
勉強ばっかりなのは嫌
ものすごく勉強したからしばらくしたくない
今の学校に行きたかったわけではない
あんな学校って知らなかった
親の期待に応えられなかったか
親を失望させたかもしれない
もう弟にシフトしてる
僕はもう頑張れない
私は勉強しかしてこなかった
もっと遊びたかった
勉強ができないのが辛い
お母さんは嬉しそうだけど、私は何も嬉しくない
競争、競争、っていつまでやらないといけないの?
お母さんのため息だけは聞きたくない
頑張っても頑張っても終わりがない
僕はダメ人間
お兄さん(お姉さん)よりずっとバカ
こんな学校になってしまったって言われた
もうちょっと頑張ればあの学校に行けたのにって
今度は大学受験で頑張ればいいよ
学校の中でも上位でいろ
最初のテストが肝心
兄弟で僕が一番、ランクが低い
    ・
    ・
    ・
    ・

辛い言葉ばかりです。

合格を喜んで、中学校で、楽しみながらしっかり学んで、充実した学校生活を送るはずが、これでは学校生活が送れないのです。


自己受容も自己肯定感もありません。


ここから読み取れることは、

僕は今の自分を受け止められない
私にとって、何のための受験だったかわからない
自分はどうしてこの学校を受けたのかわからない
いつも兄弟と比較されている
親はどこの学校に行ったかが問題だと、子どもは思っている
親のために子どもが受験をした
親に喜んでほしいから受験した
勉強ができることが最大の価値
もう期待されていない
失望されている
など

こんな子ども達の心の声なのです。


中学受験することが良いか悪いかを言っているのではありません。


私が出会ってきた不登校の子ども達の中には、中学受験に成功しても失敗しても、心に傷を負い、ボロボロになって進学した中学校にさえ通えなくなり、不登校になり、自分を傷つけてしまった子ども達がいるということなのです。


これが事実なのです。


この子ども達に、もう一度自信を取り戻し、一人の人として元気に笑顔で生きていけるようにすることは、簡単なことではないのです。

なぜなら、子ども達の中には、「勉強さえしていれば良いんだろう?」と、辛いことがあれば勉強に逃げてしまう子どももいるのです。

心の傷も大小様々です。それは、ご家族との関係性によっても異なります。


一番問題なのは、ご家族に、

兄弟と比較されてダメだと思われている
もう期待もされていない
ため息をつかれ、はっきりとは言われないけど、ダメな子だと思われている

こんなことを感じていては、子どもにとってみたら、生きていけないくらいに辛いことなのです。

「それでも死んでしまっては何もならない。だけど、死ぬよりも辛いかもしれない。まともに生きることも、死ぬこともできないんですよ。」と言った子どももいました。


このような生徒達の中で、強烈な印象を残してくれた生徒にTくんがいました。

Tくんは、第一志望の関西の最難関中学校の一つに合格できたのですが、中1の終わりくらいから、学校に行きにくくなり、中2で不登校になり、中2の終わりで学校を辞めました。


地元の公立中学に転校することになったのですが、通うことができず、自宅でひきこもってしまいました。


不登校から6年間、自室にひきこもる日々を過ごし、7年目にしてようやく外出できるようになり、弊社をお父様と訪ねてきてくれました。

お父様のことは、有名な臨床心理士の先生を通じて、すでに存じ上げていたので、お父様は安心してお預けくださったのです。


とても礼儀正しく、真面目で実直な青年でした。訪ねてきてくれた時点では20歳になっていたのですから、見かけは立派な青年です。


でも、来てくれた時には、7年も時間も経ち、中学生の英語も数学も何にもできない状態でした。

あの学校に入るためには、どれほどの努力をしたかもわからないくらいなのに、全く勉強がわからない状態だったのです。


彼は私やスタッフとも談笑し、楽しくフリースクール生活を送り始めました。

性格的にも穏やかで、朗らかで、誰にでも好かれる若者でした。
それが証拠に、中学受験の時から同じ塾で同じ中学校に在籍していた友達とは、ひきこもっている間もずっと連絡を取り続け、友達も、皆、彼のことを見捨てずに、自分達が大学生になっても、彼を一人の友達として支えていてくれたのです。


そして、彼は勉強を始めることになったのですが、ものすごい勢いで、猛烈に勉強をし始めました。

さすが、あの私立中学校に合格できただけのことはある、と思ってしまいました。


たった1ヶ月半でこちらから渡した中学校の英語は全てやり終えていました。

理解も十分にできていました。数学も中学生の内容は1ヶ月ほどでした。凄まじい勢いで勉強を始めたのです。


そこまでするのには、彼にはやりたいことが2つあったのです。

一つは大学への進学。
そして、もう一つは、今度は意図的に、自分から再びひきこもることだったのです。


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