見出し画像

不登校からの卒業(6)

1)不満期

ここからは、前回までにお話した各段階のご家族の様子をお話したいと思います。

この不満期は、お子さんの行きしぶりが始まり、学校に行ったり行かなかったりすることが多い、不登校の初期の頃のことです。

学校に行きたくない、とお子さんが言い始め、ご家族は体調が悪いならと最初の間は休ませてあげるのです。

ところが、それが何度も出てきて、その内に、特に発熱もなければ、どこも悪くない時にでも、学校に行きたくないと言い出して、「なんで行きたくないの!行かないとダメでしょう!」と無理にでも行かせようとするご家族と、行きたくないというお子さんとの間で、言い合いになってしまうことが出てきます。

以前と違って、最近は、オルタナティブスクールなど学校以外の教育を行うところや、居場所のような通うことができる場所が認知されてきているので、ご家族の中には、早々と学校以外に通える場所を求めて動かれるケースも多々あります。

これは、お子さんのことを考えて、ということも、もちろんありますが、家にじっといることは絶対に良くないし、仕事に行って誰もいないところに置いておきたくないと、ご家族が動かしたいという思いから、ご本人を無理やり連れて見学に行かれることが多いように思います。

私の運営するフリースクールでも、次のようなことがありました。

電話でお問い合わせいただき、見学を兼ねて説明を聞きに来てくださることになりました。

電話でお聞きしたところでは1ヶ月半ほど前から学校に行きにくくなって、ついに先週から行かなくなってしまったということをお母様がおっしゃっていました。すでに、他のフリースクール2つと適応指導教室を見学に行かれたようでした。

当日、お母様とご本人がご一緒にお越しいただきました。

ご挨拶をさせていただき、私も席について、ご本人にも簡単に自己紹介をしました。中学1年生の男の子、Yくん、はおとなしそうな、優しそうな、か細い感じの男の子でした。

私が自己紹介している間、私の顔を見ることもできず、Yくんはうつむいたままでした。

「今は、どんな状態ですか?」とお母様に少し話をお聞きしたところ、

  • とにかく学校に行かない

  • 最初は体調の悪い時もあったが、今は体調に関係なく学校に行きたくない

  • 学校に行きたくない理由を聞いても答えない

  • 朝も起きずにいつまでも布団にいる

  • 無理に起こして、着替えさせようとすると、泣き叫んで怒る

  • ご飯もあまり食べなくなっている

  • 毎日、毎日、学校に休みの連絡を入れないといけない

  • 昼間は誰もいないので、何をしているかわからない

  • 勉強がどんどん遅れていくのに、何もしない

  • 塾にも行かなくなってしまった

と、Yくんのことについて、不満をマシンガンのように30分ほど喋り続けられました。

そこで大きくため息をついて、「こんなことしてて、どうするんですかね!」とおっしゃるので、私もスタッフも、ただお聞きするしかありませんでした。

そこで、お父様はどうおっしゃっているのですか?とお聞きしてみました。

お父様は、最初の頃は「行きたくないって言ってるなら無理に行かせても仕方ないだろう。」と放っておくようにおっしゃっていたようです。

ところが、日が経つにつれ、だんだん、「今日は学校に行ったのか?」「なぜ行かせないのだ?」とお母様に怒るようになって、最近ではお父様自ら、Yくんの部屋に朝から入って、無理やり起こして、行かせようとするとおっしゃっていました。

Yくんが動かないので、結局、時間切れで、お父様は「Y!ちゃんと行けよ」と言い残して、仕事に行かれるようです。

お母様にも「何としても行かせないとあかん」と文句を言うので「お父さんが言っても行かないんだから、私が言ったって行かない!」とお母様もお父様に言い返すとおっしゃっていました。

お母様が話している間、一度も顔を上げずに、Yくんはずっと下を向いたままでした。

お母様の話が一通り終わった時点で、私が、聞いていられなくて、Yくんに「たいへんやな。朝は辛いな。」と本人に語りかけると、小さく首を縦にふって返事をしてくれました。

「しんどい時は、無理して学校に行かなくてもいいよ。」というと、やっと少しだけ顔をあげかけてはくれるのですが、まだ、はっきりと正面を向くところまでもいかず、うつむきかげんのままで、目もあわせてくれません。

この時にお母様が、鬼のような形相で私を睨んでいることに気が付いてはいましたが、知らん顔して、Yくんに「行かなくても大丈夫って他のフリースクールの先生にも言われたやろ?」というと小さくうなずくだけで、声も出せないでいます。

とうとう我慢できなくなったお母様が「学校には行ってもらわないと困ります!行かないなら、せめてこんなとこでもいいから、通ってもらわないと!」と、私の顔を睨みながらおっしゃるのです。

見学に行かれた中では、規模的には私のところが一番小さかったようです。「こんな小さなところに来てしまって、最悪だ」と思っていらっしゃったのかもしれません。

以前、老舗の高卒認定予備校に勤めている時にも、よく塾長先生の面談で、初めてのお母様が「こんなところ」とおっしゃるのを聞いていましたので、私も思わず苦笑いしてしまいました。

そこではたらいている、まして、運営している代表に向かって、「こんなところ」って言うのは、本当に失礼なお母様だなあと思いながら、Yくんの様子を見ていました。

高卒認定予備校の時もそうでしたが、この時のご本人の様子が大切だと思っていたのです。

このYくんも、うつむいていたのですが、右隣に座るお母様の方に少しだけ首を傾けて、ものすごい形相でお母様を睨んでいるのです。もちろん、お母様は気づく様子すらありません。

その時点で「あぁ、この子は大丈夫だ!」と思ったのです。ちゃんとYくんはわかっているんだと言うことがわかりましたから。

お母様には、スタッフが細かく弊社の説明をさせていただき、明日からここに通わせたいというお母様の話を一応聞いた上で、「まだ、彼が動くには少し早いと思いますよ。無理させず、ゆっくりと家にいさせてあげてください。Yくんはそのうち、必ず動き出します。きっと素晴らしいお母様自慢のお子さんになると思いますよ。安心して家にいさせてあげてください。ご不安なことがあれば、私がお聞きしますから。」とお伝えしました。

帰り際のYくんの様子を見ていると、来た時の緊張感が薄れたのか、少し顔の筋肉が緩んだのか、表情が穏やかに見えました。

やっと最後に帰る前に、私の顔を見て、小さくおじぎをして帰って行きました。


#不登校 #フリースクール #池田市 #学習 #受験 #出席認定 #パーソナルアカデミー #元気 #笑顔 #私の仕事 #子どもに教えられたこと

この記事が参加している募集

子どもに教えられたこと

よろしければ、ぜひサポートをお願いしたいと思います。