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【本要約】ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう

本記事は、2019年3月に刊行されました『ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう』(スティーヴン・ホーキング著/NHK出版)の要約・解説の記事です。本書は天才物理学者である著者が、ビッグ・クエスチョン〈人類の難問〉にどのように向き合い、問いをたて、解決に挑んだのか、天才の思考の一端を垣間見ることができます。徹頭徹尾、自然法則による真理を追求する姿勢はあらゆる知的労働者にとって示唆を与えてくれるはずです。

▼アウトライン

本書の結論です。
・この世は強力な自然法則(物理法則)により成り立っている
自然法則を解き明かしていくことがビッグクエスチョンを解き明かす鍵となる
・科学の発展により多くのビッグクエスチョンは解き明かされつつある
・まだ解かなくてはいけないビッグクエスチョンが多数ある

著者は、”アインシュタイン以来の天才物理学者”と言われるスティーヴン・ホーキングです。世界で最も有名な科学者の一人で、21歳の時に発症したALS(運動ニューロン疾患)の障害を抱えながらも、宇宙に関する様々な謎を解き明かしてきました。2015年にはその生涯が「博士と彼女のセオリー」という映画にもなっております。

本書ではまだ誰も解き明かしてない10個の「究極の問いービッグ・クエスチョン」について、ホーキング博士が明快に答えていきます。
しかし、本書の目的はホーキング博士の答えを知ることではなく、博士が挑んできたビッグ・クエスチョンへの問いの立て方や、原理的な考察を知ることです。

本書のメッセージは我々自身がビッグクエスチョンに挑んでいくための博士からのエールのように感じます。

本記事では、概要をお伝えしたのち、紹介されている10個の問いから2つピックアップします。
・ホーキング博士と10個のビッグ・クエスチョン
・神は存在するのか
・人工知能は人間より賢くなるのか

▼ホーキング博士と10のビッグ・クエスチョン

本書の解説の前にホーキング博士について、紹介します。

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ホーキングは1942年、ガリレオの死んだ日からちょうど300年後にイギリスで生まれました。

オックスフォード大学、ケンブリッジ大学で物理学と宇宙論を専攻し、一般相対性理論(大きな物理学)と量子物理学(小さな物理学)を結びつける鍵となるブラックホールなど研究を行い、「ホーキング放射」を発見したことで知られています。

21歳でALS(運動ニューロン疾患)を発症し、以後車椅子生活を余儀なくされたことから「車椅子の物理学者」として知られています。
非常に文才があり、著書「ホーキング、宇宙を語る」は理論物理学という理解が難しい内容を平易に説明し、世界的なベストセラーとなりました。

特に、病気を発症してからは時間の大切さを知り、ホーキング博士はその生涯を通して科学の力を持って、あらゆるビッグクエスチョンに挑んでいきます。
そして、様々なビッグ・クエスチョンに対する自分の答えを世界に向かって発信してきました。

今回紹介されているのはそのうちの10個のビッグクエスチョンになります。

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10のビッグ・クエスチョンは、博士の研究に深く根ざしたものから、人類の未来に関わるものへと進むように進むように配列されています。

どの問いに対しても、博士は科学の力を持って挑んでおり、その姿勢は一貫しており、恐ろしくフラットです。

▼神は存在するのか

第1章の問いは「神は存在するのか」です。
「我々はなぜここにいるのか、どこから来たのか」という最も根本的な問いに対し、科学によって説明を試みます。

ビッグクエスチョン.002

大昔から考えられているこの問いに対して、最初に答えたのは宗教でした。
「神がすべてを作った」というのが宗教の答えです。

対して、ホーキング博士は今日の科学はもっと矛盾のない良い答えを与えてくれると言います。あらゆることは、神を持ち出さず、自然法則(物理法則)によって説明できるというのが博士の主張であり、答えです。
あくまで、この宇宙は原理または自然法則に支配されており、常にその法則は成り立ちます。また、法則である以上、人間の頭脳で完全に解き明かすことも可能であると論を展開します。

本書では神の役割について、一つ一つ科学の知見を持って答えていきます。
先ほど述べた通り、我々の宇宙には自然法則が常に成り立っており、ここには神の介入余地がありません。そうなると、神の役割は宇宙の創生のみになりますが、そこにさえ、法則が存在し、科学で説明可能としています。

宇宙を構成する要素は3つ ー「物質」「エネルギー」「空間」です。
そして、このうち物質とエネルギーについてはアインシュタイン方程式[E=mc2]によると、イコールの関係で結ばれます。つまり、宇宙はエネルギーと空間で説明ができます。

そして、宇宙の起源であるビッグバンにまで遡ると、このエネルギーと空間が究極的に圧縮された1点になります。これはいわゆる特異点(ブラックホール)です。
ブラックホールでは時間が止まります。つまり、ビッグバン以前には時間がなく、ビッグバン以前には到達できません。時間がないということは創造主である神がいた時間も存在しないため、神は存在しないというのがホーキング博士の答えです。

主張を無理やりまとめると、この宇宙は全て自然法則によって成り立っているのだから、宗教がいう創造主的な神は存在しないだろうということです。

かなり大雑把な要約になるため、腑に落ちない方は本書でより詳細に説明を確認して欲しいと思いますが、この本の第一章にこの問いを持ってきたのには大きな意図があると思います。それは「人間の脳で解けない問題はない」ということです。

これまでもガリレオの地動説や、ダーウィンの進化論など、宗教と科学の対立構造は繰り返されてきました。科学の立場に立つと、神の存在は知の探求においては諦めです。あくまで、世の中のことは全て自然法則に従っているのだから、人間の脳で解き明かせるというホーキング博士の科学者としての強いメッセージだと思いました。

▼人工知能は人間より賢くなるのか

ホーキング博士といえば、AIに関して危惧している科学者としても有名です。

AIの到来は人類に起こる最善のできごとになるか、または最悪のできごとになるだろう

ホーキング博士の主張をまとめると以下です。

ビッグクエスチョン.003

よくホーキング博士の主張に対する反論としては、「人間の知性を超えるAIは実現しない」「シンギュラリティは起こらないし、AIが意思を持つなど夢物語だ」という批判ですが、ホーキング博士の主張はもっと原理に基づいた主張であることが分かります。

ホーキング博士の根底にあるのは全ては自然法則に従うということです。逆に考えると自然法則に反すること以外であれば、起こりうる可能性があるとも受け取れます。人間を構成する要素とコンピュータを構成する要素をミクロの世界まで分解すると同じ素粒子であることが分かります。人間が長い進化の過程で知性を獲得し、意識的にないにしても、自らの進化の過程で同じ素粒子でできているあらゆる生物を全滅させてきたように、AIも知性を獲得し、進化の過程で人間と対立する可能性は否定できないのです。

これまでも人間はテクノロジーを生み出す過程で、あらゆる失敗も経験してきています。火を獲得してから何度も痛い目に遭い、消化器というものを発明してきたようにです。しかし、AIのような強力なテクノロジーは失敗が許されず、1回のチャンスしかない可能性があるからしっかりと計画が必要です。

そのためにも、我々世代が科学を学ぶ機会を得て、学んでいくという強い意思がないといけないと博士は力強く訴えます。

▼まとめ

今回は、世界的ベストセラーとなった「ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう」を要約・解説して参りました。

最後に、総括した感想と補足としては、
【科学を学ぶことの重要性】
【大きな問いを持つこと】

ということを挙げさせていただきます。

【科学を学ぶことの重要性】
科学を学ぶことの重要性については、ホーキング博士だけでなく、「シン・ニホン」の著者である安宅和人氏や立命館アジア太平洋大学学長である出口治明氏など、日本の知識人たちも指摘しています。

科学は非常にロジカルでフラットな学問です。本書で見られるホーキング博士の態度も常に同じ原理に立脚した論を展開しており、数字や原則に基づいた一貫性があります。これが今後変化の激しい世の中でも、求められる態度で、特にビジネス面でも有効な考えです。

特に日本人は科学に対するリテラシがー低いと言われています。
私も文系出身なので科学には疎いのですが、科学者の問いの立て方やそれを実証していくまでの過程のロジカルさには非常に学ぶべき点が多いと感じました。

少し分野は違いますが、以前要約した「生物と無生物のあいだ」などでも、生命とは何かというビッグ・クエスチョンに対して、どのように解き明かしていくのかを知ることができるので、ぜひこちらもご一読ください。

【大きな問いを持つこと】
ホーキング博士究極の目標は大きな物理学である「一般相対性理論」と、小さな物理学である「量子物理学」を統一した完璧な理論を作ることでした。
一般的には「超ひも理論」や「M理論」として知られるこの完璧な理論が完成すれば、万物の事象を説明することができるからです。

では、この完璧な理論が解き明かされてるかというとそうではありません。現状では説明ができていない部分があり、この完璧な理論はまだ完成していません。

つまり、ホーキング博士の功績は、このビッグクエスチョンを解いたことではなく、ビッグクエスチョンを解き明かすことに駆り立てられて、進んだプロセスによって生まれたものです。

博士自身がそのことに納得していたかはさておき、大きな問いを立てることができれば、そこに向かっていく過程に価値があるというのはビジネスにも活かせそうです。
例えば、イーロンマスクは「地球を救う」というビッグクエスチョンに挑んでおり、その過程でのEV車の開発や火星移住を目指す宇宙船の開発などが行われています。マスク氏のビッグクエスチョンを解決するためには、その過程で多くのマイルストーンがあり、このマイルストーンの解決こそが現代の世の中に大きな価値を生み、巨万の富を生み出しています。

我々もまずはビッグクエスチョンを持つことが重要であると感じます。

2018年3月14日、ホーキング博士はこの世を去りました。
その翌年の2019年にはホーキング博士が予言したブラックホールの撮影に初めて成功し、改めて、博士の説が正しかったことが証明されました。

最後に本書での博士の言葉を記載します。

人はみな、未来に向かってともに旅するタイムトラベラーだ。私たちが向かう未来を、誰もが行きたいと思うような未来にするために、力を合わせようではないか。
勇気を持とう。知りたがりになろう。確固たる意思を持とう。そして困難を乗り越えてほしい。それは、できることなのだから。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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