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【本要約】AI分析でわかった トップ5%社員の習慣 -できる社員の特徴量

本記事は2020年9月に刊行されました「AI分析でわかった トップ5%社員の習慣」(越川慎司著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)の要約・解説の記事になります。本書では働き方のプロフェッショナルである著者の「人事評価トップ5%の人には優れた働き方があり、そこには再現性のある法則が存在するはず」という仮説を起点に、最新のAI技術を使って分析された”できる社員の共通点”が紹介されています。ビジネスマンとして成功したい、出世したい方におすすめです。

▼本書の概要

先に結論を記載します。
 ・AIで分析した結果、トップ5%の社員にはある「共通点」があった
 ・その共通点を実践することで一般社員の成果が変わった
 ・この共通点を「知る」だけでなく、「行動」することで働き方が変わる

この本のポイントは以下です。
 ・ビジネスパーソン1万8000人のあらゆるデータからAIが分析している点
 ・トップ5%の行動とその他95%の行動で特徴の違いを両面説明している点
 ・その特徴は再現性があり、誰でも実践可能かつ成果が出る点

こんな方におすすめの本です。
 ・ビジネスマンとしての成長に停滞感を感じる方
 ・労働時間が一向に減らず、成果も伸び悩んでいる方
 ・優秀な人材を採用したいと考える採用担当の方

著者の越川さんは、元マイクロソフトの役員であり、これまで605社、16万人の働き方改革を支援してきた”働き方のプロフェッショナル”です。

働き方の支援をする中で、著者には「人事評価トップ5%の人には優れた働き方があり、そこには再現性のある法則が存在するはず」という仮説がありました。
その仮説を実証すべく、ビジネスマン1万8000人のあらゆるデータ(ICレコーダー、定点カメラ、メールの履歴など)を調査し、それをAI分析で抽出し、紹介しているのが本書です。

本書が特に面白いのが、抽出したできる社員の成功ルールを別の29社で追試し、一般化できるかに取り組んだ点です。中には一般化できないものもあったみたいですが、その多くが再現可能なものでした。

つまり、本書で書かれていてるさまざまな行動、習慣を身につけることで、人事評価トップ5%のビジネスマンのような成果を残すことができる可能性があるということです。

今回は本書の中でも、以下を重点的に解説したいと思います。
・トップ5%人材の5原則
・具体的な思考/行動/発言/習慣(一部ピックアップ)
・補足(本書で行われているAI分析についての考察)

▼トップ5%人材の5原則

今回の調査によって、トップ5%人材の行動や発言について、あらゆるトピックが出てきましたが、これらを抽象化し、整理すると以下の5原則に集約されます。
(相関が高い順になっています)

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【原則1…「目的」のことだけを考える】
原則の1つ目は、「目的」のことだけを考えるです。
トップ5%人材にヒアリングを行ったところ、「結果」や「目標」に関する言葉がその他95%の人材よりも3倍以上使われていることがわかりました。

トップ5%人材は”過程よりも結果”を重視しており、作業充実感ではなく、目標達成感を主眼に置いています。そのため、「何をどれだけやったのか」という量ではなく、「やった結果どのような成果があったのか」という質にこだわります。
目標達成するために、1分1秒の時間を大切にしているのも傾向として分かりました。
また、目標設定についても、与えられた目標ではなく、自分でストレッチな目標を置き、チャレンジしている人材が多いのも特徴になります。

【原則2…「弱み」を見せる】
原則の2つ目は、「弱み」を見せるです。
トップ5%の人材は、対人関係において、自己開示を行うことで良好な関係を築いていることがわかりました。
これは「返報性の法則」という心理学のテクニックを利用した方法で、人は自己開示をされると、自分も同等のことを返さないといけないと思う心理を利用しております。また、別の心理学的な法則で「一貫性の法則」というものがございます。これは人は自分の考えや行動に一貫性を持ちたいというものです。

この二つを組み合わせると、
「相手に自己開示されたから自分も自己開示しないと(返報性)」
「自分が自己開示したのは、この人と良好な関係を築きたいからだ(一貫性)」
という心理になります。

このような心理的なテクニックを知っている(知識としてなのか、経験としてなのかはさておき)から、トップ5%人材はあえて弱みを見せ、自己開示をするということが示唆されています。

【原則3…「挑戦」を「実験」と捉える】
原則の3つ目は、「挑戦」を「実験」と捉えるです。
トップ5%人材は、成長意欲が高く、全てを学びに変えていく姿勢があります。
当然、トップ5%人材でも挑戦すれば失敗することもありますが、その他95%人材との違いは失敗からフィードバックを貰い、改善を行っている点です。そして、成功した事例に関しても、必ず要因を分析して次に生かす姿勢も見逃せない点です。

また、上記の考えから挑戦することを恐れないため、「行動量」や決断のスピードが早いのも特徴となります。「挑戦」した回数と、そこから学びや経験に繋げている量が多いため、再現性のある仕事ができるというのが重要なポイントです。

【原則4…「意識変革」はしない】
原則の4つ目は、「意識変革」はしないです。
トップ5%人材は、意識を変えるのではなく、行動を変えることで意識が変わることを知っています。そのため、とにかく「行動ファースト」の傾向が強いことが分析の結果分かりました。

本書からは脱線しますが、日本人コンサルタントとして最も有名な大前研一さんの言葉で以下のようなものがあります。

人間が変わる方法は三つしかない。
一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える。この三つの要素でしか人間は変らない。もっとも無意味なのは「決意を新たにする」ことだ。
大前研一(著)『時間とムダの科学』プレジデント社(2005)

大前さんも言及されている通り、人は意識を変えても、何も変わらないことは数々の実験からも証明されています。本書でも、働き方改革を実践する企業で、意識を変えることをトップダウンで言い続けただけの企業に比べ、何らかの行動を強制して、働き方改革を実施した企業の方がうまくいくケースが多いことを指摘しています。

【原則5…常にギャップから考える】
原則の5つ目は、常にギャップから考えるです。
トップ5%の人材は、順算ではなく、逆算で計画を立てます。
ただ、計画を立てるといっても、計画に時間をかけるのではなく、目標達成から逆算し、方向性が決まれば、動きながら計画を修正していきます。途中途中にチェックポイントを設け、細かい修正をしながら目標と現状のギャップを埋めていくので、結果的に計画を入念に練るその他95%の人材より早く目標に到達します。

また、このギャップを埋めるという考え方は顧客とのコミュニケーションにも利用されております。顧客のニーズ(需要)を事前に把握し、自社の要望を踏まえながら供給を行い、ギャップを埋めていきます。そうすることでトップ5%人材は成約に繋げているのことが分析から分かりました。

▼具体的な思考/行動/発言/習慣(一部ピックアップ)

ここまでは、トップ5%人材の行動、発言などから抽象化した特徴・行動原則を解説して参りました。次に、具体的な行動などをいくつかピックアップしてご説明します。これは言葉の通りのものが多いので、詳しい解説はなしでざっといきたいと思います。

【思考】
・達成感を大切にする
・完璧を目指さない
・再現性を大切にしている

【行動】
・止まって考える時間を設ける(週に1回、15分の内省タイムを設ける)
・完成度が20%で意見を求める
・狙って小さな失敗をする

【発言】
・「今ちょっといい?」
・「そうかもしれない、しかし私はこう思う」
・「そうしたら、○○しよう」
発言の分析で面白かったのが、5%社員は「ダ行」を使う頻度が少ないということです。
「ダ行」の言葉とは、「でも」「だけど」「ですから」「どうしても」などです。
「ダ行」の言葉は耳障りが悪いものが多く、印象的にも良くないので、代わりに「サ行」の言葉を使うことが勧められています。

【習慣】
・席にいない、動き回る
・メールの返信は15分以内
・1日5分の情報収集を行う

一部抜粋して、ご紹介させていただきました。
一見すると当たり前のことのように見えますが、その理由などが細かい分析データから説明されており、腑に落ちるものが多くありました。
また、習慣化のコツや細かい秘訣なども紹介されておりますので、ぜひ本書をご確認ください。

▼補足(本書で行われているAI分析についての考察)

最後に補足として、本書で行われたAI分析について解説したいと思います。

【前提】
本のタイトルは「AI分析でわかった トップ5%社員の習慣」ですが、AI分析の話ではなく、分析してわかったトップ5%の行動習慣についてがメインテーマになります。そのため、特に本書で行われたAI分析について、詳細は書かれておりません。

しかし、私のnoteが「文系AI人材になる」がテーマなので、
本書で行われているであろうAI分析について考察していきたいと思います。

また、ここからはある程度AIについての前提知識を踏まえますので、必要な前提知識については以下の過去の記事をご確認頂くとスムーズかと思います。
【本要約】人工知能は人間を超えるか ディープラニングの先にあるもの(前編)
【本要約】人工知能は人間を超えるか ディープラニングの先にあるもの(後編)
【本要約】文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要

【データの変換にAI技術が使われている】
今回使用されたデータについては以下が挙げられておりました。
・定点カメラ
・ICレコーダー
・GPSデータ
・ヒアリングによる発言や行動
・個人を特定しない形でのメール・チャットやオンライン会議での利用履歴

まずはこれらの画像データ、音声データ、文字データなどをAI技術を使って扱いやすいデータに変換しているものと考えられます。
例えば、ICレコーダーの音声などは音声認識の技術を使って、文字データに置き換えられています。そこから文字データを自然言語処理技術を用いて分析し、頻出単語の分析や、発言の関連性などを分析しているものと思われます。

また、感情分析なども行われているという記述がありました。
現在、感情分析の主流となっているのは、話速やピッチの変化など、いわゆる声色から分析する方法と、画像認識を用いて表情の変化から分析する方法などがあります。

【トップ5%人材の「特徴量(共通点)」を抽出する】
また、上記のあらゆるデータからトップ5%人材の特徴量を抽出しています。
その際の特徴量抽出にAI分析が使われているものと思われます。

これはディープラーニングの技術などで用いられるオートエンコーダのようなものが行われており、用いられている変数の中からトップ5%人材をより説明している特徴量を抽出しているのではないかと思います。

実際、どのような分析が行われたかは分かりませんが、AI活用の一つの例としてこの実験は面白い内容だと思います。これまで、トップ人材がなぜトップなのか、それらの理由が分かったとして、それは一般化できるのかという問いは人材開発において重要な問いでした。それらをAIを使って分析し、解き明かすことができたというのは非常に価値のあることだと思います。

▼まとめ

本記事では以下の内容について解説して参りました。
・トップ5%人材の5原則
・具体的な思考/行動/発言/習慣
・本書で行われているAI分析についての考察

最後に、総括した感想と補足としては
【優秀な人材とAIの共通点】
【AIで今後人材採用が変化するのではないか】
ということを挙げさせて頂きます。

【優秀な人材とAIの共通点】
今回、トップ5%人材の特徴を見ていると以下の点でAIと共通点を感じました。

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このことから、「優秀なAIを作ること」と「優秀な人材を育てること」は手法として共通する部分があるのではないかと考えられます。
つまり、AI(特に機械学習の分野)における最新手法が、そのまま最新の人材育成法として利用できる可能性があり、AIを学んでいけば、部下の育成や子育てにも活用できるのではないかと思います。

【AIで今後人材採用が変化するのではないか】
もう一つの点としては、AIは人材採用にも影響してくるのではないかと思います。
これは「HRTech」《HR(人事や人材)とTech(技術)を組み合わせた造語》の分野ではすでに言われていることですが、本書を読んでより具体的なイメージとして感じました。

というのも、私は転職エージェントをやっていたことがあるのですが、市場で評価されている方の特徴として認識していた点と本書が示した優秀な人材の特徴が一致する点が多くございました。つまり、人が評価するのと、AIによる分析でそこまで差異がないのではないかと考えられます。

本書では多数のクライアント企業の調査協力もあり、様々なデータを得られたため、多角的な分析ができています。通常であれば、なかなか得られない情報もあるため、すぐにAIが人の代わりに人選ができるとは思いません。
しかし、今後、オフラインからオンラインへの働き方が増えたり、ウェアラブルデバイスの発展により、働き方に関するデータが可視化されていくと予測されます。

そうなると、そもそも選考などは必要なく、普段の働き方からAIが分析を行い、それがそのまま転職市場の評価に繋がるようなこともできるようになるのではないかと思います。
さらには人が気づかない優秀な人材の特徴なども発見される可能性もあり、採用市場も大きく変化していく可能性があるのではないかと本書を読み感じました。

そのような未来を示唆しながらも、今すぐ仕事に活かせる情報が詰まっている本当なりますので、ご興味のある方はぜひ本書をご一読ください。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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