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【本要約】人工知能は人間を超えるか ディープラニングの先にあるもの -未来を賭けるに値するもの(前編)

本記事は2015年に刊行され、AI入門の超決定版として10万部以上のベストセラーになっている『人工知能は人間を超えるか ディープラニングの先にあるもの』(松尾豊・KADOKAWA社)の要約です。日本のAI研究を牽引されてきた著者がAIの現在地を正しく理解し、人類にとっての脅威なのか、希望なのかを明らかにすることを目的として刊行されたのが本書になります。今でも「JDLA Deep Learning for GENERAL」というAIに関する検定の参考書として指定されており、AIを知る上での入門書として優れた名著です。

▼本書の概要

著者である松尾豊先生は東京大学大学院工学系研究科の教授で、人工知能学会や日本ディープラーニング協会の理事も務められた日本のAI研究を牽引してきた研究者です。刊行された2015年は日本でもAIブームが到来し、世間にもAIという言葉が浸透し始めた頃でした。その頃は、AIの理解が進んでおらず、巷ではAI脅威論などが多くメディアで取り上げられておりました。

先に本書の結論です。
・人工知能とは何かについて、世間と専門家との間にはズレがあり、正しく理解する必要があること
・過去に2度ブームがあり、それらは全て「特徴表現の獲得」が問題でブームが終わったこと
・3度目のブームとなる今回はディープラーニングという手法によりこれまで問題だった「特徴表現の獲得」に解決の糸口が見つかったこと
・これまでの研究と組み合わせると様々なことができる可能性があり、それらは多くの産業に大きなインパクトがあること
・AIが人類を征服するなどは起こり得ず、本当の脅威は軍事応用や巨大企業の独占であること
・日本には技術と人材の土台があり、チャンスがあること

この本のポイントは以下です。
・基本概念や歴史など、AIを理解する上で必要なことが網羅されている点
・AIは何がすごいのかを日本トップクラスの研究者から正しく理解できる点
・「そもそも知能とは何か」という根本的な問いに対して、人工知能研究者がどのように闘ってきたのかを知ることは、非常に知的好奇心を刺激する点

今では当たり前のようにAIという言葉を耳にし、関心を持つ方も多いとは思いますが、本当に理解している人はあまり多くないと思います。しかし、AI研究の分野は日進月歩で進んでいます。今最も世界中で投資されている分野の一つで、アメリカや中国が最高クラスの人材を集め、巨大な資金を投じて研究を進めているからです。

そして、社会に大きな影響を及ぼしており、今後さらにその影響力は拡大していく一方だと思います。現時点ではAIを遠いものに感じるビジネスマンも多いかもしれませんが、ほぼ確実な未来としてAIと向き合わないといけない未来が訪れます。

そんなAIに対して、ただ闇雲に恐れるのではなく、理解した上で自身の戦略、打ち手を考えることが重要です。本書はAIを理解する入門書としてはベストな選択だと思います。

本書の構成は以下です。
・序章 :刊行時に世間で騒がれていたAIの進化と脅威についての具体例
・第一章:AIとは何かについて専門家と世間の認識のズレについて
・第二章:第一次AIブーム(「推論」「探索」の時代)の始まりと終わりについて
・第三章:第二次AIブーム(「知識」の時代)の始まりと終わりについて
・第四章:第三次AIブームの始まりである「機械学習」についての詳細
・第五章:新しい時代を切り開く可能性のある「ディープラーニング」について
・第六章:AIは人間を超えられるかについて
・終章 :AIの進化によって、今後もたれされる未来と戦略について

特に、5〜6章が本書のハイライトとなっております。

本記事では、前編、後編に分けて
①AI(人工知能)とは何か(前編)
②過去2度のブームは何だったのか(前編)
③機械学習、ディープラーニングとは(後編)
④ディープラーニングの今後の発展(後編)
⑤我々はどうすればいいのか(後編)
について、解説したいと思います。

▼①AI(人工知能)とは何か -AIはまだできていない

「実はAIはまだできていない」というのが第一章の冒頭で述べられており、このことが多くの方が誤解している点だと著者は指摘します。

「え?じゃあ世間でAI搭載って言っている商品とかって何?」と疑問に思う方がいるかと思いますが、「本当の意味でのAI=人間のように考えるコンピュータ」はできていないというのが本書の立場です。今あるAIと呼ばれているものはあくまで人間の知的活動の一部を模倣したものであり、人間と同じように考えているわけではありません。
よくよく考えると、そもそも、人間の知能自体が解明されていません。そのため、人間の知能を人工的に作ることを目指すAIが実現していないことも当然と言えば、当然の話です。

しかし、AIはできないはずがないというのが本書の立場です。
理由としては、人間の脳は電気回路と同じなので、人間の思考が何らかの計算なのであれば、コンピュータで実現できないわけがないからです。

▼①AIとは何か -AIは○○である

また、これも多くの方が誤解している点ですが、AIという言葉は専門家の間でも定義が定まっておりません。つまり、「AIは○○である」であるという風に断言することはできないのです。前述した通り、AIはまだ実現しておらず、もし実現した際にどんな風にできているのか誰もまだ知りません。誰も見たいことないものを定義することはできないので、これも当然と言えば当然なのかもしれません。

ちなみに、著者である松尾豊先生の現時点での定義は以下です。

人工的に作られた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術
出典:「人工知能学会誌」より

ちなみに、近年日常生活にも活用が広がった「音声認識」や「検索エンジン」などはかつて人工知能と呼ばれていましたが、実用化されると人工知能と呼ばれなくなります。これを「AI効果」と呼ぶみたいです。

▼①AIとは何か -世間で認識されているAIは4分類できる

ここまでは、専門家の認識でしたが、世間ではどのように認識されているか、まだAIが実現されていないとするのならば、ニュースなどで耳にするAIという言葉はどういう意味で使われているのか気になるところです。

世間で言われているAIはレベル1〜4の段階に分けることができます。
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そのため、ニュースを見る際などに、実際どのレベルの議論をしてるのかを理解する必要があります。

▼②過去2度のAIブームと何か -2度のブームと冬の到来

歴史を紐解くと、実はAIブームは今回が初めてではなく、過去に2度ほどブームと冬の到来を経験しています。そして、今日のAI発展は過去の研究や技術が脈々と受け継がれてきた結果であると本書の2章、3章では解説されています。

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(P61:第三次AIブームのビッグウェーブ)

▼②過去2度のAIブームと何か -第一次ブーム「推論」と「探索」の時代

第一次ブームは、1950年代後半から1960年代後半に起こりました。
「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉は、1956年にアメリカで行われたダートマス会議で初めて登場します。そこで、世界初のAIプログラムと呼ばれる「ロジック・セオリスト」(自動的に定理を証明するプログラム)が発表されます。

第一次ブームで研究の中心となるのは「推論」と「探索」の研究です。
「推論」と「探索」を簡単に説明すると以下になります。
・推論とは、既知のことから未知のことを明らかにすること
・探索とは、ある目的状態に向けて起こる変化を場合分けを行いながら探すこと

推論と探索で解ける問題として有名なのが、迷路やハノイの塔と呼ばれるもので、いずれも探索木という方法で解くことができます。
この辺りの詳細は本書を読んでいただければと思いますが、ポイントとしては探索・推論の形で正確にプログラムに記述できれば、コンピュータはそれに従って処理をすることが出来るという点でした。

しかし、世の中の問題というのは正確にプログラムで記述できるものではなく、複雑かつ曖昧なものがほとんどです。探索と推論のアプローチだけでは、「トイ・プロブレム(おもちゃの問題)」と呼ばれるゲームのような問題しか扱えず、現実の問題は解けないことが分かってきました。米国政府が「機械翻訳は今すぐ成果の出るものではない」と記述したALPACレポートを1966年に発表するなど象徴的なことも相まって、第一次ブームはブームは終焉を迎えます。

▼②過去2度のAIブームと何か -第二次ブーム「知識」の時代

第二次ブームは、1980年代から1990年代後半に起こりました。
第二次ブームでは、学術世界で閉じてしまった第一次ブームとは違い、現実世界の産業への応用まで進みました。1980年代には米国の大企業の3分の2が何らかの形でAIを使っているとされていました。

第二次ブームの中心は「知識」をコンピュータにどう獲得させるかという研究です。そして、その中でも大本命とされていたのが「エキスパートシステム」です。
エキスパートシステムの考え方はシンプルで、ある専門分野の知識をコンピュータに取り込み、推論を行うことで、専門家のように振る舞うことができるプログラムを実現するというものです。

しかし、エキスパートシステムには以下の課題がありました。
・専門家からヒアリングして知識を取り出すには大変なコストと処理がかかった
・知識の数が増えると知識同士が矛盾したりしないように、適切に維持管理する必要があった
・限定された範囲での知識は取り扱えても、常識レベルの知識の取り扱いが難しい

つまり、知識を正しく記述し、管理することは莫大なコストがかかることが分かりました。また、ここでは詳細を省きましたが、言語自体の研究や機械翻訳の難しさを考えると、知識を書き切るというのは不可能に近いものでした。

▼②過去2度のAIブームと何か -第二次ブーム「知識」の時代の終焉

さらに、人工知能を実現する上で大きな障壁となる2つの課題があります。
それが、「フレーム問題」と「シンボルグランディング問題」です。

それぞれ、簡単に説明すると、以下です。
・フレーム問題:ある特定のタスクを実行するのに、「関係のある知識だけを取り出してそれを使う」ということがコンピュータには非常に難しいとされる問題
・シンボルグラウンディング問題:記号(文字列、言葉)とそれが意味するものを結びつけるのが、記号の意味を理解できないコンピュータには難しいとされる問題

知識を記述することの難しさ、管理することの難しさ、さらにフレーム問題、シンボルグランディング問題なのが分かってくると、AI実現へ悲観的な観測が広がり、1995年ごろに第二次ブームは終焉を迎えました。

前編の記事は以上になります。

前編のまとめは以下です。
まず、初めにAIとは何かについて、世間と専門家のズレを確認しました。
そこで分かったのは、実は本当の意味で人間と同じような知能を持ったAIはまだ存在しないことでした。しかし、実現できないはずがないという考えのもと、AI研究者は日々研究を進めていることが分かりました。

次に、これまでの2度のブームについて確認しました。
1度目のブームでは「推論・探索」の時代でした。迷路やパズルなど、情報が揃っている状態でかつ計算可能なものに関しては人間を超えるようなパフォーマンスがでますが、現実の複雑な問題は解けないという課題がありました。
2度目のブームは「知識」の時代でした。専門家の知識をコンピュータに記述し、推論によって答えることができるというものでしたが、知識の表現することの難しいという課題がありました。また、「フレーム問題」や「シンボルグランディング問題」などの問題も見つかり、2度目のブームは冬の到来を迎えました。

次回、後編では、2度のブームを経て、3度目のブームとなる今回は過去のブームとどう違うのか。3度目のブームの中心となるディープラーニングは何が根本的に凄いのか。ディープラーニングにより未来はどう変わり、その中で我々はどのような戦略を取る必要があるのかを解説したいと思います。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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