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一般企業がベンチャー企業に出資して少数持分を保有する意味ってどれくらいあるんだろうか

ぼくの働いている会社は歴史ある老舗の部品メーカーでいろいろな業種に部材を供給しているような一般的なBtoBの会社だ。

既存の事業がいくつかあって、それぞれの事業は成長を目指して頑張っているのだが、新事業を創出することについても研究開発部門や新事業企画をするような部署が既存事業のラインのメンバーとは別でゼロをイチにする努力をしている。

会社の経営企画として既存事業の成長と新事業の創出の両方をサポートすることが多いが、M&A(買収)の検討などを行っていることからベンチャー投資についても証券会社やM&Aアドバイザーから持ちかけられることがある。

ぼくからすると興味はあるものの、あまり気乗りがしないので今までベンチャー投資というのをやっていない。今日はそんな理由について少しシェアしようと思う。

■ベンチャー投資が企業に持ち込まれる割と大きな理由

だいたい大企業にベンチャー投資を持ち込まれるときはその会社が「資金繰りに困っている場合」というパターンが多い。

ベンチャー企業は赤字であることが多いが借金ができるほど信用力もないので新たな出資会社を探して運転資金に回すことを目的として出資を呼び掛けるケースが多い。それ以外にはたとえば工場を建設するけど資金がないといったような理由もあるが、こういった理由も含めて資金が欲しい場合が多い。

では大企業に投資をするメリットをどこに出すかについては、「技術的なノウハウを得られます」ということをアピールする場合が多い。ベンチャーは何らかの革新的な技術やノウハウ、特に大学発のベンチャーであれば特有の技術をシーズとして持っている場合に多い。自社にしかない特許を武器に出資をよびこみ投資をする意義を出すようにしている場合が多い。

■ 出資しなくても出せるシナジーはある。

一方で、大企業がベンチャーの技術に興味をもった場合、出資をしなくても共同開発契約を結んで一緒に開発をするとか、一緒に合弁会社を作ってそこでお互いに強いとなる技術や資源を持ち寄って一緒に事業をやるということもできるので、ベンチャー企業そのものへの投資が必須かというとそういうこともない。

ベンチャー側も大企業のネットワークが欲しかったり、製品を量産する工場を貸してほしい場合は特に出資を呼び込まなくても、製造委託の契約を結んだり、販売の提携の契約書を結べば済む場合も多いので、事業上のシナジーを出すのであれば提携したい会社に新たな株主になってもらう必要はないのだ。

やはりベンチャーとしては資金が欲しいというのが第一目的になる一方で、企業側からすると、出資するメリットが何なのかがわからないので出資できないという場合がぼくの場合を含めて他の会社もで多いといえる。

■ 出資するデメリットの方が大きい場合もある

基本的にベンチャー投資というのはほぼリスクしかない。上場をしていない企業に出資をして、上記の通りリターンはあまりないものも多い。

過半数に届かない少数持分を保有する意味というのはどこにあるのかということをよくよく考えないとただの無駄金になってしまう。

少数しか株式を出資で保有しないというデメリットはいろいろある。例えば少数の株主なので立場が弱いというのが最大の理由で、自分に発言権は基本的にない。大株主である創業者やベンチャーファンドの言った通りの経営しかしないので自分にとって思った方向にベンチャーを動かすことはできない。

他にも51%以下だと連結できないという問題もある。あくまで持分法適用会社といって、売上や利益を自社のグループ企業として合算できないというデメリットがある。

また、出資後に上場会社じゃないので簡単に売れない。1対1で売る相手がいれば別だが簡単には株を売ってその会社に出資をしている状態を辞めることはできない。

他にも問題を起こした場合に責任が降りかかってくる可能性がある。大部分を握っていない少数持ち分の株主であることから全面的に罪をかぶることはないが、出資している株主には責任があるとされるような事態にまで発展した場合はそのようなリスクはあるといえる。

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本来、企業がベンチャー投資をする狙いは一つだ。

それは「少数で保有しておいて事業の理解を深めて、 ノウハウや技術を取得してやがて成長した時に持分を買い増す」ということに他ならない。

ただし現実的には不成立に終わることが多いのが実情だ。ベンチャー投資をあたかも素晴らしいことのように語る企業というのはあるが、残念ながらどうやったら少数持分で自分が会社をコントロールしていくのか、 持分を買い増すことでどういったリターン(お金に限らず)を会社に持ち帰っているのかということをちゃんと考えないで投資しているケースも多いようだ。

事業をやっている会社ではなく、投資だけをしている会社ではそれでも良いかもしれない。

ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドは事業がどうかということよりもそのベンチャーが上場するときに株を売却する権利を得て高値で売って利益を得るようなところをざっくり目指しているといっていい。

そういういつかまた売るような投資会社はベンチャー投資がしやすいが、僕の会社のような一般の会社がベンチャー投資をする意義というのはなかなか見出しづらい。 ぼくらは売り抜けることが目的ではなく自社の事業を成長させることが目的なのでこういったやり方はとりづらい。

メーカーではなくITやサービス業ではここまでメリットが薄いということはなくて、ITの分野では成長が急成長しているのでベンチャーを逆にドンドン買って自社に取りこまないとやっていけないようなので、ぼくが言っていることはすべての大企業に当てはまるわけではなくて、産業によってばらつきがあるのは事実だ。

■それでも出資を検討する場合はどういった条件をつけたらよいか。

それでも会社で新事業投資が必要とか、とりあえず出資をしてみたいといった意向が経営側から出てきた場合にどうしたらよいだろうか。

まずは少数持つことで定期的にその会社が情報を提供するという約束を取り付けることが重要になる。そのベンチャーに対して企業の将来行動や計画を報告する義務を負わせないと少数であるが故に意思決定には参加できず蚊帳の外となってしまう場合が多いので、ちゃんと自分も出資者として経営にかかわっていくということを示す必要がある。

また、会社がさらに株を発行したり、 借入をする場合に事前承諾を求める条項を加えたり、上場するような場合は自社も相乗りして売れる権利をつけるといったことも重要になる。

売りにくい少数の非上場会社の株を持つからにはエグジット、 つまり売るときの権利や条項をセットで投資するときに権利として取得しておくことが大切になる。例えば株主から会社に対して買い取りを請求できる権利をつけるような条件を入れることが可能だ。

一方でこれとは全く別の方法で権利を守るやり方もある。それは優先株を取得するという考えで、少数の持ち分しか得られない代わりに、とやかく言わない(=通常の議決権を放棄)ので財産分配権( 会社を清算するときにプラスが出ていたら優先してもらえる権利)だったり配当(儲かったときに株主に配当するお金) を優先的にもらえる権利を持つということも条件にできる。 

まあこれを選んでしまうと、そもそも何のために出資するのかさらに良くわからないので、これを選ぶくらいだったら最初から出資しないようが良いともいえる。

—— 〻 ——

このように考えると、新事業創出にはベンチャー投資というのが必須なように思えることはあるが、よくよく考えてみるとどれだけ必要なのか不明確な点も多い。

確かに新たな事業をやるには新たなノウハウが必要で自社ではそれを持っていない場合も多い。そうだとしても、ベンチャーと契約ベースで共同で開発したり、自社にそういった分野の人を雇って専門部署を作って自社でやってく方法もある中で、資金に困ったベンチャーに対して投資会社ではない事業会社として投資をしていくのはなかなか難しい。

上記に書いたようにもちろん業界による違いは大きい。ITやサービス系の分野はベンチャー投資や買収がさかんで、市場の変化も早く買収やベンチャー投資が効きやすい。一方で化学業界やメーカー寄りの業界だと大学発のベンチャーなどはあるもののなかなかベンチャー投資の目利きが難しかったりする。

そう考えると社会におけるベンチャー企業の役割として新しいものを作り出す機能はとても重要でこれからも必須のものではあるが、それを取り込む大企業側がもっと柔軟に考える必要があるのかもしれない。

ぼくはベンチャーへの少額出資を否定しているわけではなくむしろやっていきたいと考えているが、上記に書いたようなスタンスが多くの大企業の考え方なのでなかなか難しい実情があると感じている。

今年はベンチャー投資もいくつか考えてみたいと思ってはいるものの、なかなか得られるものが何かというところまで明確になるには、自分の会社が目指していることをまずはもっとクリアにしなければなあと思うのであった。

keiky.

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