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ホスピタル・アート

数年前からご縁があり、ホスピタルアートについて学び始めました。
もともと地域や社会、国際的に役立つことに携わりたい気持ちが強く、アートの分野で自分なりに探求してきてある意味、導かれた分野になります。

ホスピタル・アートと聞いた時に、漠然と病院に飾ってあるアートのようなイメージしか思いつきませんでしたが、5年ほど前に、たまたま私の母校(学部は違いますが)である名古屋市立大学芸術工学部の鈴木賢一教授が実行委員長を務める「なごやヘルスケア・アートマネジメント推進プロジェクト」の存在を知りました。

日本全国の実践者が集い、さまざまな事例の紹介などがオンライン講座などで受講でき、ホスピタル・アートの効果や実践する際の手法や様々な注意点などを学ぶことができました。病院の壁に絵画が飾られるだけでも、無機質な建物に彩りを与え何らかの効果がありますが、講座で実感したのは、患者さん、ご家族、お医者さん、医療従事者であるスタッフの皆さんが心地よく過ごせたり、気持ちを共感したりできるが望ましいということでした。もう少し踏み込んで言えば、精神的にも肉体的にも不安を抱える患者さんやそのご家族、正確な診断や迅速な処置に追われストレスのかかる日々を過ごしているお医者さんや医療従事者の方々に安心や安らぎをもたらすものが、ホスピタル・アートとして大事ということでした。

私が慣れ親しんでいた現代美術の世界でもさまざまな目的や手法の作品やプロジェクトがありますが、大事なことは、アーティスト本位の自己主張ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものと理解しました。例えば、国際的に有名な美術館で展示されている有名でラディカルな作品を病院で展示するというのは、この場合必ずしも良いというわけではないのです。さまざまな症状や不安を抱えている患者さんにとっては、強すぎることもあるのです。また、患者さんやご家族にとっては、馴染みのない専門用語や医療機器であったり、見知らぬ患者さんや業者さん達が出入りする巨大医療施設であったりは、それだけでもストレスですし、身体や精神的な不調によりできることとできないことといった制約もあります。

そう考えていくと何かを達成したり、表現して、理解や共感が生まれる機会や活動というのがとても重要で、イギリスではそういったホスピタル・アートの実践により、投薬量が減ったり、入院期間が短縮されたりすることで、医療経費の軽減にもつながる利点があるという報告を聞きました。また、その節約できた医療費は、ホスピタル・アートに従事する団体や個人へ活用され、各方面に利点がある好循環を生み出しているようでした。これを少し俯瞰的に捉えたいと思います。

https://ncar.artmuseums.go.jp/upload/2023_CreativeHealth_JP_144sp.pdf

人生100年時代と言われ、世界的にも寿命が伸び、高齢化社会が進んでいます。医療費や医療機関に負担がかかているのも事実だと思います。その長い人生、本来なら病院に通わず、ずっと不安のない健康な体で過ごしたいですよね。私がいくつか受講した「なごやヘルスケア・アート・マネージメント推進プロジェクト」では、普段、病院に通わない私にとっては難しい単語や用語もありましたが、「ヘルスケア」、「ウェルビーイング」、「ヒュッゲ(Hygge)」といった日常生活と結びつきの強いキーワードの多くも聞くことができました。

「ヘルスケア」は、「健康管理」という意味で、「ウェルビーイング」は、「良く在る状態=健康で幸せな状態」と言えると思います。「ヒュッゲ」は私にとっては新しい言葉でしたが、「居心地が良い」とか「楽しい時間」を意味するデンマークの言葉です。

少し話が飛んでしまいますが、私が大学生の時にスポーツジムでアルバイトをし始めた頃に研修がありまして、そこで健康の定義を学びました。それは、世界保健機関(WHO)が定義する健康についてで、『健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。』というものでした。

上述したキーワードや健康の定義は、長い人生の中で、全て日常生活の一部として享受していたいものです。ただ、現代の生活はさまざまな面で便利になり、誘惑の多いものもたくさんあり、バランスを保つことが難しいことも事実だと思います。

ここで少し意識を向けていただきたいのですが、ホスピタル・アートの効果は好循環を産んでいるということがわかり、とても良いことです。さらに良いことは、幸福に楽しい時間を過ごして病院にお世話にならないことです。そう考えていてふと思ったのが、よく言われる芸術文化などに当てがわれる行政の予算です。最初に予算が削られる分野だとよく言われますが、実はここの予算を削るから、それを楽しみにしている人たちが健康を害したり、やりがいや楽しみを失ったり、人とのつながりが疎遠になったりして、病院にお世話になり、医療費が嵩んだり、市民に負担がかかったりと悪循環になっているのかなと推察してしまいます。

高齢化によってお祭りができなくなってやりがいを失ったという地域のドキュメンタリー番組を見たことがあります。また、学校では美術に時間も削られていると聞いたことがあります。自分の感性や気持ちを表現したり、個性を確認したり、共感したりする時間です。表現する側も受け取る側も多様なレベルのコミュニケーションが求められる場です。こういった場が減ってしまうとますます社会的に疎遠になったり、孤立してしまったりする結果につながってしまうのではないかと思います。最近ではSNSが普及しているおかげで、新たな結びつきもありますが、顔が見える現実社会と顔が見えないネット社会の両方で、居心地の良い幸福な生活を過ごせるようになると理想的かなと思いました。

皆さんも居心地が良く健康で幸福な日々をお過ごしください〜!

追記:書きそびれてしまいましたが、上述したアートを通した社会課題に対処する仕組みとして、「社会的処方」や「リンクワーカー」という仕組みがイギリスではすでにかなり整備され、日本でも少しずつ普及し始めているようです。

以下の書籍では、その考え方や日本の事例が紹介されています。



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