50歳で1,000km走る - みちのく潮風トレイル24日間の旅 (準備編)-
みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市蕪島から福島県相馬市松川浦までの沿岸地域をつなぐ、全長1,000kmを超えるロングトレイルです。2011年3月11日に発生した東日本大震災からの復興への取組みの一環として、環境省をはじめ、地元関係自治体、民間団体、地域住民が協力し、四年前の2019年6月9日に全線開通しました。自分は、直後の2019年8月から夏休みや連休を利用して延べ六日間で、蕪島から田老まで約200kmを走りましたが、その後はコロナ禍で中断していました。
いつか、1,000kmを走り通したい。51歳からランニングを始めて五年目のこの夏、その思いを実現する為の、準備の記録です。
旅のプラン
100マイル(160km)のトレイルレースは完走したけど、その6倍以上の距離をどうやって走り切るのか?
これまでのレース結果から、160キロは寝ずに走って40時間、1,000kmなら単純計算で12日間。その倍なら24日間、1日平均で40kmぐらい。テントは持たず、全日程で宿泊施設を利用。まずはこれを基準として試算を始めました。
みちのく潮風トレイルのウェブサイトから、マップブック、データブック、GPXデータを入手し、宿泊予定地点間の距離、標高差、難度を確認していきます。1日の行動時間を平均12時間程度とし、ほぼ歩きのペース1km15分=時速4kmで1日48km。ただし、ルート上には40km以上宿泊施設が無い区間がいくつかあり、場合によっては一日で60km近く走らなければなりません。標高500m以上の山を越える等、トレイル率が高いルートは時間もかかります。その一方で、みちのく潮風トレイルの趣旨は、地元の方々や、他のハイカー達との交流を通じて地域復興に貢献することでもあり、その為の時間も確保したいです。また、安全上の理由からも、あまりギリギリのスケジュールを組む訳にも行きません。
とりわけ難しいのは、離島となる金華山の攻略です。定期船は週末に昼の1往復があるのみで、停泊時間1時間半の間に約5キロのトレイルを走って戻る必要があります。しかも天候次第では欠航もあり得るので、その場合、金華山を一旦スキップし、翌週戻ってくることも想定しました。
序盤の1週間は事前に宿泊予約し、中盤以降は進捗状況に応じて現地から予約しますので、必ずしもプラン通りの宿泊にはならない前提です。宿によっては当日受付してくれるところもあります。トレイルサポーターズの情報や、「みちのく潮風トレイル、宿泊」で探すと、いろいろと魅力的な宿が出てきますので、宿探しも楽しみの一つです。
1,000kmに耐えるカラダ作り
一応プランは出来ましたが、ほぼ毎日40km、日によっては60kmの移動距離となりました。こうなると、基本的な走力だけでなく、約一ヶ月の間、怪我なく、体調をどのように維持管理するのかが重要です。
自分の基本スペックは、フルマラソンのベスト3時間20分、100マイルトレイルレース3回完走、月平均走行距離280km。毎日走ること自体は慣れていますが、40km を毎日というのは未経験です。いかにして、身体への負担を減らしつつ、着実に進めるカラダを作るのか、この1年間は、以下の3つの課題に取り組みました。
地脚を作る: 数十日間、長距離を毎日走り続けるには、下半身を筋肉の鎧で覆い、足首の捻挫、膝と股関節の炎症などの怪我を防ぐことが必須です。日々のランニング練習や体幹中心の筋トレ、そしてレース本番でも、リカバリーに何日もかかるような高い負荷はかけないように気を付け、時間をかけて筋繊維の成長を促しました。
効率よく走る: 毎日のジョグや、普通に歩く時も、常に最小限の力で前進するにはどうするべきかを考え、身体全体の使い方を探求しました。自分の場合の結論は、前傾姿勢、腕振り、深い呼吸を最適化することでした。特に腕振りが重要で、肩の力は抜きながらも、タイミングを取りながら肘を強く打ち下ろすことで、脚の力では無く地面からの反発力を効率よく拾って前に進む意識を常態化させました。参考となるメソッドはこちらです。https://www.flat-running.com/
脂肪燃焼体質: 普段から炭水化物は少なめに摂取することを心掛け、特に練習前は水だけ飲んで走り出すことを日常化しました。(練習後は炭水化物含めしっかり食べます)。その結果、レース本番でも、最小限の補給で体を動かし続けることが出来る体質になって行きました。脂肪燃焼体質作りについて参考になる本はこちらです。https://www.amazon.co.jp/dp/4799322281
1ヶ月間走り続けられるメンタルを鍛える
100キロ超のトレイルレースを何度も経験することで、超長距離ランニングにおけるメンタルの重要性は、身に染みて理解していました。ヒトの脳は、本当に肉体的な限界が来てしまう前に、これ以上の激しい運動を止めさせようと、様々な手段で妨害を試みてきます。特に一番効果的なのは、胃腸をダウンさせることです。実際、ウルトラトレイルレースに於いては、多くのランナーが胃腸トラブルを引き起こし、リタイアに追い込まれます。
脳と腸は密接に関係していて、脳のストレスは胃腸へ、胃腸の状態も脳へ大きく影響を与えることが知られていて、脳腸相関と呼ばれています。また、腸は自律神経の不調からも影響を受けます。腸が自律神経の影響を受けやすいのは、生物学的な理由によります。クラゲやイソギンチャクのような腔腸動物には脳がなく、腸が脳の役割を果たしています。ヒトの腸も、受精から細胞分裂が進む過程で、脳や心臓より先に形成される根元的臓器です。また、腸は脳に次いで多い神経細胞で作られており、脳からの指令よりも、自律神経によって大きくコントロールされます。長距離走で胃腸の不調に見舞われる人は、身体的なストレスから来る自律神経の乱れが、胃腸に影響を与えていると考えられます。
これらのことから、胃腸のトラブルは、自律神経を整えることにより改善できる可能性が高いと言えます。ランニング中に自律神経を整える方法としては、一番簡単確実なのは、意識的に深呼吸を繰り返すことです。参考として、自分自身の経験を記録した記事を紹介します。
自律神経の状態を客観的に観察するには、以前は医療機関で専用の機器を使った診断が必要でしたが、最近はスマホアプリで簡単かつ正確に測れるようになりました。アプリの例はこちらです。
日頃から自律神経の状態のスナップショットを取り、自分なりに自律神経が整う条件を把握しておくと、自分自身を落ち着かせ、余計な疲労を溜め込まない方法を探す手掛かりになります。
自律神経を整える為の具体的方法の一つは、瞑想です。ランニング中に雑念が浮かぶと、それだけで脳のエネルギー消費は増大し、疲労感は高まり、ストレス源になります。
ランニングに集中し、出来るだけ深い呼吸を意識し、それ以外は余計なことを考えず、アタマを空っぽにする事は、瞑想と同じ効果が期待出来ます。この「瞑想ラン」を日頃から繰り返すことにより、脳のエネルギー消費を最小限に抑えるのと同時に、自律神経の副交感神経を優位に働かせることを、自分の意志で出来るようになります。副交感神経が働けば、心拍数と血圧は低下して疲労を抑えられ、消化が促されて胃腸の不調も改善されます。
自律神経を整える方法は、瞑想に限らす、入浴やサウナ、ヨガやアロマテラピーなど、やり方は人それぞれだと思いますが、走りながら整える「瞑想ラン」は、長距離レース本番でも使える実践的手法だと思います。
長くなったので、結論まとめます。
長時間走り続ける為には、自律神経の乱れを抑えることか重要。
ランニング中は、可能な限り深呼吸を繰り返すことで、副交感神経を優位に働かせる。
日頃から「瞑想ラン」などで、自律神経を整える生活習慣を心掛ける。
装備の準備
夏の三陸は「やませ」が吹いて想定外に寒くなる可能性があり、寒暖差への対応が必要です。加えて、熊やダニ、ヒル、ブヨなど、自然を相手にするリスクへの対処も求められます。今回は、軽量化、低体温症防止、熊のリスク回避、疲労回復の優先などを考慮し、テントなどの野営道具は持たず、原則として宿泊施設を利用することとしました。
着替えは一組だけ持ち、宿で毎日洗濯。防寒具は雨具で兼用します。暑熱・日照対策として日除け帽と日傘。熊避けの熊鈴と、ブヨ、ダニ、ヒル避けのスプレー。あとはいつものトレラン装備に、ちょっと重いけど諸事情あってパソコン。総重量は8kgほど。これに水と食料、紙のマップブック、データブックを加えて、何とか10kg 以下に抑えました。
この旅の目的
最後に、今回のラン旅の目的について。大きく3つあります。
自身の身体的限界の確認: 年齢なんてただの数字(Age is just a number)とは言いますが、56歳の身体を本当にどこまで動かし続けることが可能なのか、どうすれば健康な状態を維持できるのか、仮説に基づく1年間の準備が正しかったのか。自分のカラダを使って実験します。
自律神経の制御方法の探求: 「瞑想ラン」を長期間連続することで、本来は無意識に働く自律神経を、「意識的に」制御することが出来るのか。更には、「ゾーン」入りや「ランナーズハイ」の状態を意図的に作り出すことは可能なのか。自分の脳の中で、どんな変化が起きるのか(あるいは何も起きないのか)を、観察します。
地域との交流を通じた復興への貢献: これが一番の目的です。特に大槌や鵜住居は、これまでに3度訪れましたが、今回は時間を割いてゆっくり地元の方々と話しが出来ればと思います。自分が地域に落とせるお金はたかが知れていますが、三陸の海、山、人の魅力を、note を通じた発信も含め、広く知ってもらう事で、一人でも多くの関係人口を増やすことに貢献します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、いざ三陸へ、行って来ます。
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