てる

これから本格的に小説を執筆していきたい大学生です。 よかったら、読んでみてください。

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記事一覧

【小説】枯葉人 下

「わしの手にかかれば、日ノ本全ての万民が救済されることも夢ではないぞ!」  薬師如来の前で、酒の頬になって高笑いをする道鏡様は、まさに憧れだった。 「行表、円興。…

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4か月前
6

【小説】枯葉人 上

        痛い。  青い筋が浮き彫りになるほど、己の腕を強く握り締めるその手は微かに震えていた。力を入れ過ぎているのか、邪心がはびこっているのか。恐らくどち…

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4か月前
6

【小説】菊理、骨折れなり 下

筒城岡は、大王のいる高津宮から北に三里の所にある。元々は豪族である葛城一族の屋敷を改築したもので、屋根は全面茅葺。それが大小八つ塀に囲まれており、皇后の気まぐれ…

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4か月前
1

【小説】菊理、骨折れなり 上

 口持臣は、唖然とした。  今まで、下級役人の家柄から大王のお役に立てるような忠臣となるため、武芸、勉学に励んできた。己の生まれに胡坐をかく豪族の子息をよそに、…

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4か月前
4

【小説】私の一部

「あは、はは、ははは!」  ざまぁ見ろだ。私は、やってやった。  飯も、服も、勉強も、挙句御果てには健康な体も与えてくれなかった。ただただ蹴られ、殴られ、罵られる…

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4か月前
1

【小説】白いカーネーションの花束を

そして、一輪  聖堂に光が差し込んでいる。葬儀には打って付けの神秘性だ。   棺の前に立ったアンナは、ぞんざいに花を手向けた。  無慈悲な娘……とは思えない…

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4か月前
3

【小説】18.44の物語

「おい! 大丈夫か!」 「重体だ……」 「早く担架を持ってこい!」 ナショナルリーグ1893年シーズン。この年、球史に残る大事故が起きた。 頭を抱えて蹲るバッターは…

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4か月前
2

【小説】偏見関西

 ピンポンパンポーン↖ 【注意事項】  本作は、静岡県出身の作者が関西の地元ヒエラルキーを、独断と偏見で書き上げたものです。実際の地域には一切の関りがございません…

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4か月前
8

【小説】ある日

「今日は……男か……」  とりあえず上体を起こし、両腕を眺めた。肌艶がいい、若いな。  三畳ほどの部屋をぐるっと見回すと、プロ野球選手のカレンダーが壁に吊るされ、…

てる
4か月前
17
【小説】枯葉人 下

【小説】枯葉人 下

「わしの手にかかれば、日ノ本全ての万民が救済されることも夢ではないぞ!」
 薬師如来の前で、酒の頬になって高笑いをする道鏡様は、まさに憧れだった。
「行表、円興。わしはこれから、誰からも慕われるような高僧となる。じゃから、お主らもわしについて来い」
 満面の笑みで渡されたその杯は、それを持つだけで夢見心地な気分に誘う。
 まだ、どの建物にも木組みの纏いが取れぬ未完成な都で、大工の金槌が鳴り響くあの

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【小説】枯葉人 上

【小説】枯葉人 上

      
 痛い。
 青い筋が浮き彫りになるほど、己の腕を強く握り締めるその手は微かに震えていた。力を入れ過ぎているのか、邪心がはびこっているのか。恐らくどちらともであろう。
「行表……」
 友の不安げな顔は、悲しみの中に、懇願の思いを匂わせる。
「やはり、行くな」
 少し尖った口調をした。だが、悲哀と懇願を滲ませるこの表情では何の厳格さもない。ただ、友が駄々をこねている様にしか見えなかった。

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【小説】菊理、骨折れなり 下

【小説】菊理、骨折れなり 下

筒城岡は、大王のいる高津宮から北に三里の所にある。元々は豪族である葛城一族の屋敷を改築したもので、屋根は全面茅葺。それが大小八つ塀に囲まれており、皇后の気まぐれで移り住んだとは思えない豪勢さであった。
「磐井姫様は奥の大広間にいらっしゃいます」
 屋敷内の案内のため目の前に立つ下女は、どこか敵を見つめるかのような鋭い目をしている。ちらほら横切る下女たちも、仕事中とはいえ必要以上に素っ気ない。己は招

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【小説】菊理、骨折れなり 上

【小説】菊理、骨折れなり 上

 口持臣は、唖然とした。
 今まで、下級役人の家柄から大王のお役に立てるような忠臣となるため、武芸、勉学に励んできた。己の生まれに胡坐をかく豪族の子息をよそに、このヤマト政権のため、勤労にも従事してきた。遊びの時間を割き、この国の行き先を誰よりも案じてきた。己はこの国のため、大王のため、何ができるか。誰よりも試案をしてきた。
 そんな己に好機が巡ってきたのは、つい三日前のことである。
 高津宮にお

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【小説】私の一部

【小説】私の一部

「あは、はは、ははは!」
 ざまぁ見ろだ。私は、やってやった。
 飯も、服も、勉強も、挙句御果てには健康な体も与えてくれなかった。ただただ蹴られ、殴られ、罵られる毎日。その証拠の青い肌を隠す毎日。
家の中には、精肉店の十倍はする血の匂い。いや、これが生き物の匂い。大人二人分の血の量は、四畳半をほとんど染めるものらしい。
「あんな女と一緒になんなきゃ、殺されずに済んだのにね~」
 赤く染まった気色の

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【小説】白いカーネーションの花束を

【小説】白いカーネーションの花束を

そして、一輪



 聖堂に光が差し込んでいる。葬儀には打って付けの神秘性だ。

 

棺の前に立ったアンナは、ぞんざいに花を手向けた。

 無慈悲な娘……とは思えない。

 彼女の母は決していい母親とはいえなかった。

 年に数回しか、娘と会わない。いや、数回といえるほども会っていない。

 母親らしいことを一切せずに亡くなってしまった。

 牧師の私がいってはいけないと思うが、最低な母親だっ

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【小説】18.44の物語

【小説】18.44の物語

「おい! 大丈夫か!」
「重体だ……」
「早く担架を持ってこい!」
ナショナルリーグ1893年シーズン。この年、球史に残る大事故が起きた。
頭を抱えて蹲るバッターは、ピクリとも動かない。端から見れば、死んでいるようにも思える。
「お前の暴投のせいだぞ? おい!」
 スタンドからの怒声を一身に浴びるピッチャーは、顔の血潮を無くし、青々とした表情を呆然と浮かべていた。
「とりあえず、危険球で退場な」

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【小説】偏見関西

【小説】偏見関西

 ピンポンパンポーン↖
【注意事項】
 本作は、静岡県出身の作者が関西の地元ヒエラルキーを、独断と偏見で書き上げたものです。実際の地域には一切の関りがございませんので、ご理解よろしくお願い致します。
 ピンポンパンポーン↘
 
 

忘年会も中盤に差し掛かった頃、事件は起きた。
「小北くんて家、奈良なんやろ。終電大丈夫なん?」
 時計の針はまだ八時を過ぎたばかりだ。終電などまだまだ先の話である。

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【小説】ある日

【小説】ある日

「今日は……男か……」
 とりあえず上体を起こし、両腕を眺めた。肌艶がいい、若いな。
 三畳ほどの部屋をぐるっと見回すと、プロ野球選手のカレンダーが壁に吊るされ、ベッドのすぐ下には、土埃を被るミズノのバックが置かれている。
「野球でも、やってんのかな」
 時計の針は朝の七時を過ぎていた。学生だとしたら多分、不味い時間だ。鉛のように重い体をゆっくりと立たせ、部屋の戸を開けてみると、ここは二階らしい。

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