てる

これから本格的に小説を執筆していきたい大学生です。 よかったら、読んでみてください。

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最近の記事

【小説】枯葉人 下

「わしの手にかかれば、日ノ本全ての万民が救済されることも夢ではないぞ!」  薬師如来の前で、酒の頬になって高笑いをする道鏡様は、まさに憧れだった。 「行表、円興。わしはこれから、誰からも慕われるような高僧となる。じゃから、お主らもわしについて来い」  満面の笑みで渡されたその杯は、それを持つだけで夢見心地な気分に誘う。  まだ、どの建物にも木組みの纏いが取れぬ未完成な都で、大工の金槌が鳴り響くあの時間は、我が生涯で最も充実していたのではないかと思う。 「して、どのように高僧へ

    • 【小説】枯葉人 上

              痛い。  青い筋が浮き彫りになるほど、己の腕を強く握り締めるその手は微かに震えていた。力を入れ過ぎているのか、邪心がはびこっているのか。恐らくどちらともであろう。 「行表……」  友の不安げな顔は、悲しみの中に、懇願の思いを匂わせる。 「やはり、行くな」  少し尖った口調をした。だが、悲哀と懇願を滲ませるこの表情では何の厳格さもない。ただ、友が駄々をこねている様にしか見えなかった。 「なに、ただ大和の仏門を出るだけではないか。今生の別れにはなるやも知れぬが、死

      • 【小説】菊理、骨折れなり 下

        筒城岡は、大王のいる高津宮から北に三里の所にある。元々は豪族である葛城一族の屋敷を改築したもので、屋根は全面茅葺。それが大小八つ塀に囲まれており、皇后の気まぐれで移り住んだとは思えない豪勢さであった。 「磐井姫様は奥の大広間にいらっしゃいます」  屋敷内の案内のため目の前に立つ下女は、どこか敵を見つめるかのような鋭い目をしている。ちらほら横切る下女たちも、仕事中とはいえ必要以上に素っ気ない。己は招かれざる客であると、必要以上に教えてくれていた。 「的臣口持でございます」  大

        • 【小説】菊理、骨折れなり 上

           口持臣は、唖然とした。  今まで、下級役人の家柄から大王のお役に立てるような忠臣となるため、武芸、勉学に励んできた。己の生まれに胡坐をかく豪族の子息をよそに、このヤマト政権のため、勤労にも従事してきた。遊びの時間を割き、この国の行き先を誰よりも案じてきた。己はこの国のため、大王のため、何ができるか。誰よりも試案をしてきた。  そんな己に好機が巡ってきたのは、つい三日前のことである。  高津宮におられる大王が、直々に己を呼び出したのである。  胸が弾むような思いであった。今日

        【小説】枯葉人 下

          【小説】私の一部

          「あは、はは、ははは!」  ざまぁ見ろだ。私は、やってやった。  飯も、服も、勉強も、挙句御果てには健康な体も与えてくれなかった。ただただ蹴られ、殴られ、罵られる毎日。その証拠の青い肌を隠す毎日。 家の中には、精肉店の十倍はする血の匂い。いや、これが生き物の匂い。大人二人分の血の量は、四畳半をほとんど染めるものらしい。 「あんな女と一緒になんなきゃ、殺されずに済んだのにね~」  赤く染まった気色の悪い頭を撫でる。この男のせいで、どれだけ痛い思いをしてきたか。 暴力なんかは別に

          【小説】私の一部

          【小説】白いカーネーションの花束を

          そして、一輪  聖堂に光が差し込んでいる。葬儀には打って付けの神秘性だ。   棺の前に立ったアンナは、ぞんざいに花を手向けた。  無慈悲な娘……とは思えない。  彼女の母は決していい母親とはいえなかった。  年に数回しか、娘と会わない。いや、数回といえるほども会っていない。  母親らしいことを一切せずに亡くなってしまった。  牧師の私がいってはいけないと思うが、最低な母親だった。 「リアム牧師ー‼」  アンナが大声で呼んでくる。何回言って

          【小説】白いカーネーションの花束を

          【小説】18.44の物語

          「おい! 大丈夫か!」 「重体だ……」 「早く担架を持ってこい!」 ナショナルリーグ1893年シーズン。この年、球史に残る大事故が起きた。 頭を抱えて蹲るバッターは、ピクリとも動かない。端から見れば、死んでいるようにも思える。 「お前の暴投のせいだぞ? おい!」  スタンドからの怒声を一身に浴びるピッチャーは、顔の血潮を無くし、青々とした表情を呆然と浮かべていた。 「とりあえず、危険球で退場な」  冷徹な視線の審判に呟かれた彼は、とうとう目の生気を無くし、頭の思考を白にせざる

          【小説】18.44の物語

          【小説】偏見関西

           ピンポンパンポーン↖ 【注意事項】  本作は、静岡県出身の作者が関西の地元ヒエラルキーを、独断と偏見で書き上げたものです。実際の地域には一切の関りがございませんので、ご理解よろしくお願い致します。  ピンポンパンポーン↘     忘年会も中盤に差し掛かった頃、事件は起きた。 「小北くんて家、奈良なんやろ。終電大丈夫なん?」  時計の針はまだ八時を過ぎたばかりだ。終電などまだまだ先の話である。電車を気にする必要など微塵もなかった。手元のジョッキは二杯目も飲み終えておらず、

          【小説】偏見関西

          【小説】ある日

          「今日は……男か……」  とりあえず上体を起こし、両腕を眺めた。肌艶がいい、若いな。  三畳ほどの部屋をぐるっと見回すと、プロ野球選手のカレンダーが壁に吊るされ、ベッドのすぐ下には、土埃を被るミズノのバックが置かれている。 「野球でも、やってんのかな」  時計の針は朝の七時を過ぎていた。学生だとしたら多分、不味い時間だ。鉛のように重い体をゆっくりと立たせ、部屋の戸を開けてみると、ここは二階らしい。ちょうど正面に下りの階段があった。後ろに振り向けば、起きた部屋の左隣りにもう一つ

          【小説】ある日