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病院広報記:記者発表のやり方

ある日突然、ある診療科部長から電話がかかってきて、世界で初めての画期的な治療法を開発したので記者発表したいと言われました。

以前よりその先生がその治療法の研究を製薬会社と共同で行っていることは知っていましたが、すでに治験、臨床試験も終えて薬価収載間近と言うではありませんか。

当院ではそれまでまともに記者発表などしたことがなかったので、マニュアルなど何もありません。1人で完全に手探りで始めることとなりました。

プレスリリースの配信先

当院では過去に一度だけ記者クラブにプレスリリースを配信したことがあるということを聞き、当該の記者クラブ事務局に連絡しました。担当者にどういう趣旨のプレスリリースをするか説明したところ、メディア各社の連絡先リストを送ってくれました。

地域名と記者クラブで検索すると様々な記者クラブが出てくるので、適切なところへ連絡してみると良いでしょう。

プレスリリース文書の作成

配信先のリストは手に入れましたが、問題は何を配信するかです。

今回は世界初の画期的な治療法ということなので、「世界初」というキーワードをタイトルに使用してインパクトを出しました。あとは

・何が世界初なのか
・これまではどういう治療が一般的だったのか
・どういう患者が対象なのか
・患者にはどういうメリットがあるのか
・どういった薬剤を使用するのか
・いつどこで記者発表会をするのか
・広報担当者の連絡先

といった内容をA4用紙1枚におさめました。元の文書は開発した医師に書いてもらいましたが、論文的な内容になりがちなので、こちらで平易な文章に訂正しました。

ちなみに「世界初」という部分については事務方でも可能な限り裏を取った上で使用しました。

プレスリリースの配信

プレスリリース文が決まると、いよいよ記者クラブ所属各社へ配信します。大体記者発表の1週間から2週間くらい前に配信すると良いらしいとのことだったので、その時は2週間前に配信しました。

配信先リストには電話、FAX、メールアドレスが記載されていたので、まずはメールで配信しました。それから数日の間にメディア数社から問い合わせの電話がありました。色々と聞かれるので、可能な範囲で回答します。ある程度回答すると、その時点で電話をくれているところはたいてい「では当日お伺いします」と言ってくれます(それでも来ない場合もありますが)。

ただ、反応が少し薄いように感じたので、すでに連絡をくれたところを除いてこちらから改めて電話をかけてみました。すると、結構メールを見ていないところが多いことが分かりました。電話で話すと興味を示して出席すると言ってくれたり、メールは見ていないのでFAXで送って欲しいと言われたりしました。

プレスリリースの配信はFAXをメインとして、電話で念押しするのが良いと思います。

記者発表会の日時

記者発表の日時は、地域や全国的なイベントがない週の半ばの11時頃からが望ましいようです。何か大きなイベントがあるとニュースがそれ一色になってしまうのと、時間が遅すぎると当日夕方のニュース番組に間に合わなくなるからです。

ただ時間に関しては、オンライン記者発表であれば記者の移動時間を考慮しなくて良いので昼過ぎに行うのも有りのようです。

しかしそれでも何か大きな事件等が急に入ることもあるため、あとは運を天に任せるのみです。

記者発表会の準備

ここまでは全て1人で準備しましたが、ここからは1人では不可能なので、様々な部署に応援を要請しました。主に準備するのは以下の通り。

①記者発表会場の手配
②記者発表会場内のレイアウト検討
③バックパネルの作成
④病院入口から会場までの誘導案内作成
⑤スタッフの手配
⑥当日のスケジュール検討
⑦院内への告知
⑧記者に渡す資料の準備

①の会場手配は、当院の場合は250人規模が入るホールがあるのでそこを抑えておきました。

②のレイアウトは、発表者の配置やプレゼン方式、記者席の並び、テレビカメラ設置場所の確保、受付場所などを検討します。発表者席と記者席の間は少し空けておくと、記者がそこで写真を撮ったりできるので良いかも。

③のバックパネルは無くても良いかも知れませんが、あった方が格好がつくかなと考えて、デザインはこちらでして実際の制作は施設管理課の方にお願いしました。

④の誘導案内は、当院が初めての方だとホールにたどり着くのに手間取ると考えたため、わかりやすいものをA3用紙で作成して貼っておきました。

⑤のスタッフは、誘導係や受付係、撮影係などを総務課や企画課の方にお願いしました。私は司会を担当するので手が離せないためです。

⑥のスケジュールは、全体的な流れをこちらで考えて関係スタッフに周知しました。前日までと、当日も実際の現場でどういう風に対応して欲しいか、繰り返し伝達しました。

⑦の院内告知は、当日は外来フロアをカメラを抱えた人たちが通ることになるので、患者さんから聞かれた際に誰もが対応できるよう、院内グループウェア掲示板での告知と患者サービス課、医事課、地域連携課への伝達、師長会での報告などしました。

⑧の記者に渡す資料は、プレスリリース文よりももう少し詳しい内容の文書を用意し、更にその時は放送や紙面に使っていただくための治療動画や画像をCD-Rに焼いておきました。

記者発表当日

当日私は司会を担当しました。

最初のご挨拶と記者発表会の流れを説明したあと、発表者を紹介して発表者にバトンタッチ。発表が終わると質問が出るのでこちらで指名し、最後に撮影時間を設けて終了です。

撮影後は囲み取材になるので、関係スタッフにお礼を言いながら後片付けをしつつ、帰る記者にお礼を言ってお見送りという流れになります。

初めての記者発表会にはテレビ3社、新聞9社、雑誌1社が出席してくださいました。

記者発表後

記者発表会を終えて記者が帰ったあと、しばらくするとメディア各社から追加質問等の問い合わせ電話がかかってきます。広報でわからないことは医師に確認する必要があるため、発表会のあとも予定を入れずに質問対応できるよう、医師にはあらかじめお願いしておいた方が良いです。

私はこのとき、そのようなことを想定していなかったため、医師が発表会を終えて意気揚々と関係者と外へ食事に出てしまったので中々連絡がつかず冷や汗をかきました。

また当日だけでなく、翌日以降もチラホラと連絡が来ることがあるので対応できるようにしておきます。

なお、テレビではその日の夕方のニュース、夜のニュース、翌朝のニュースでそれぞれ3社とも無事報道されましたし、新聞も早いところはその日の夕刊や翌日の朝刊に取り上げていただきました。

また、これらのメディアによる報道を受けて、記者発表会に来なかった別のメディアからも問い合わせがあり、後日取材を受けたり医師がテレビ出演するということも何度かありました。

問い合わせ対応の準備

このようにメディア各社に大々的に取り上げていただけると、鬼のように問い合わせ電話が殺到します。

当院では問い合わせ専用のPHSを3台用意し、代表電話にかかってきたものは全てこの3台に転送してもらいました。私はこの内1台を持ったのですが、電話が鳴り止まずメディア各社への対応ができなくなったため、別の人に交代してもらいました。

また、この治療の予約申込みの殺到が予想されたので、地域連携課にあらかじめ伝達しておいて対応してもらいました。結果的に、しばらくはその予約電話やメールが殺到し、あっという間に予約枠が1年先まで埋まってしまうほどでした。これを受けて医師、医事課、地域連携課で協議し、予約枠の増枠に至りました。

ちなみにこの記者発表から1年以上が経過しましたが、未だに予約は半年先まで埋まっている状況です。

まとめ

記者発表を行うまでの準備とその後を書きましたが、私自身にとって非常に良い経験となりました。その後何度か記者発表をしましたが、今回紹介した初めての記者発表がメディアも患者も含めて最大の反響だったので、余裕を持って対応することができるようになったと思います。

これから記者発表を計画している広報担当の方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

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