annulusofpeace

iNmYRoOm。

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最近の記事

14(2)

次に梛に会ったのはあれから2週間後だった。 同じ海岸線、この前より海から離れた砂浜に彼女は座り込んでいた。近くまで来た時、彼女からこちらを向いた。 「あ、へキル」 と梛が言った。 「あ、またいた」 と僕は言った。 梛はこの前より元気そうな表情だった。声からもそれは感じられた。 梛は黙ってヘキルを見つめていた。沈黙。綺麗な目。 そして時間差で僕は驚いた。 「てか、何で名前知ってんの?」 「うーん……勘」 「嘘つくなよ」 梛は悪戯っぽくにやけてみせた。 「また今度

    • 14(1)

      この帰り道が好きだ。当たり前のように何度も何度も通ってきたこの道をなんで今改めてそう思うんだろう?海の色?潮の香り?波の音?砂のざらざら感?全部正解な気がするけど、僕が一番好きだって思うのは波打ち際の抽象画。毎瞬違うそれを眺めてるのが一番好きだ。その思いは周りに人がいなければいない程強くなる。まるで海の底にゆっくり沈んでいくみたいにじんわりと強くなっていく。海岸通りは緩やかな曲線で目を瞑っても歩けそうだ。14歩だけ歩いてみたら不安になって開いてしまった。その時海が見えてその海

      • 涙が流れてしまったのは目の前の状況に対してではない。20年以上も前のことを急に思い出したからだ。母との数少ない思い出。嘗ては沢山あったはずの思い出も時間と共に確実に減っていくという事実に気づいた時、僕はとても悲しくなった。唯一心の中だけはすべてが永遠に生き続けることができる世界だと思っていたのに、それは時間の流れにあっさりと覆された。 突然泣いた僕に驚く葉月。僕は言葉を発せない。持ってきたのに結局使わなかった傘。照れ臭そうに笑っていた顔。何度も何度も後悔してきたはずなのにまた

        • Anyonenostalgy

          夜と朝の境目あたり。 静寂の国道は汚れも装飾も境目が曖昧で、私たちは車も通らない道路の真ん中を手を繋いで歩いた。 彼はずっと前を見たまま歩いている。今何を考えて何を思ってるんだろう?表情からは何も読み取れない。繋いだ手の温度もよくわからなくて私は一人でいるみたいに思ったりしながら歩く。ゆっくりした足取りで。不思議と酔いはそんなに残っていない。流れや勢いってわけでもなかったけど、切望していたわけでもなかった。予測できたことでもあったしもう起きてしまったことだから後悔もないのだ

          猫夜

          この塀を登って進んだ先の一角から眺める神楽坂の街並みが好きだった。 いつまでも眺めていられた。 猫は感傷に浸るでもなく思い出される記憶があるわけでもなく今日見える街並みがただ好きだった。 風は冷たくも暖かくもなくて、白い花びらを数枚引き連れて路地を抜けて行く。その風が猫の背中に細波を作り出した時猫は春を認識する。人間のように冬の寒さと比較して感じるのではなく、ただその風の匂いで春を享受していたのだ。 塀の下ではコートを脱いだ人たちが闊歩する。 どこか少し開放的になった

          初虹

          「また会おうよ」って言葉が行き場を失くして宙を舞う。切れて風に踊る凧糸みたいに先が何処にも辿り着かないことは自明な筈なのにまた言葉を並べては放つ。どこにも行けないでいるそれは僕自身を表してる。言葉は僕のかたちをしてる。自覚を齎す為だけに生贄になった言葉たち。 「ごめんな」 声に出して言う。 せめて何処かには辿り着かせたかった。 それも叶わないのは無力さ故か誰からも見放されてしまったからか。ひとりで歩く桜並木。 世界に見捨てられたような気がして 「大袈裟だな」 ってまた

          雀ノ涙

          教室で誰とも口を利かなくなって10ヶ月以上が経った頃、雀の言葉が理解できるようになった。僕は教室から窓の外を眺めるのが好きだった。人と話すよりも枝に停まる雀の鳴き声を聴いてるのが好きだった。どこかの境目で気づけば段々と言葉として聞き取れるようになっていた。 「チョウボウ」 「フクゲン」 「タンサ」 「タンサ」 2羽が交互に話している。雀は単語しか話さない。なんとなく漢字を当てはめることはできるが会話として成立してるのかはわからない。でもまあ、通じ合っているんだろう。

          芙蓉

          雨が齎すものについて思いを巡らせる。 なぜなら雨とは与えるというよりかは奪うものの象徴だったから。 窓から見える空に雨が止む気配はない。 陽が無い分だけ気持ちが沈んでしまうくらいなら、この一粒一粒に何が宿るかを想像してみよう。 仮定的でいい。 例えば別の街で降った雨が、その街を濡らしそこにいる人々を濡らしていく。その水分もいずれはまた気化し空に戻される。その時にその街での人々の思い出や記憶、その街にある空気、匂いみたいなものを少しだけ吸い上げて連れて行く。そうやってでき

          喪失

          遠い景色を思い出す。 夢で見た空はなんとも美しい薄紫色だった。 真っ白い浜辺に立つ君は振り返ってこう言った 「彼らがあなたに対して言ったことは何も気にしなくていい」 理解はできるが頷くことができない。 ただぼんやりと君とこの世界を眺めていた。 不意に涙が溢れ出しそうになって、何処かで鳥の鳴き声がした。あれはセキレイの声だ。 風は止む。涙ぐみ、夜の訪れを願っているけど夜は一向に来る気配がない。 此処では薄紫が永遠を彩っていた。 「だったら」と思った時、その思考を

          流転

          勿論、狙って引いたわけではない。できるならば私自身も引きたくないと思ってる。それでも時として、何処に隙があったのか自覚がなかったとしても引いてしまう。風邪とはそういうものである。そりゃあ、完璧な警戒心で完璧な防衛策をとっていれば罹らないのかもしれない。でもそこにおける完璧とはなんだろうか?むしろ完璧なものがないからこそこの世界は美しいのであって……って。まあ、それはいいとして。完璧なものとは一体なんなんだろう?正直私は興味すら湧かない。どうでもいい。完璧主義万歳。消えろ。鼻水

          漂流

          一昨日に通りかかった船はこちらの存在に気づかなかった。その時は酷く絶望的な気持ちになった。世界が終わるくらい恐ろしかった。でも今はもう何も感じない。恐怖心は今朝何処か出口を見つけて消えてしまったらしい。 このままどうなってしまうんだろう? 2日間考えてわかったことは、それは答えが出るはずもない問いであるということだけだ。もう他に出来ることはなかった。あとは想像と思考で漂うだけ。方向性は2つ、過去か未来か。どちらに目を向けてもいい。とにかくその方向が「今」でなければいい。それだ

          光について

          スマホから聴こえる彼女の声。 「ごめんなさい」と言って泣いていた。泣きたいのはこっちの方だと思った。だけど僕は何も言わなかった。僕の中に悲しみと憤りがバランス悪く混在している。 「ねぇ?」 と彼女は言った。 「ん?」 「何か言ってよ」 少しだけ考えてみたけど一体何を言えばいいのかわからなかった。僕に何が言えるんだ? 結局僕は何も言えず彼女の泣き声をスマホ越しに聴き続けていた。冬の雨みたいだなって思った。 「冬の雨って残酷よな」 と僕は言った。 「え?」 と彼

          光について

          絵画

          とある 古民家のような喫茶店の窓際、そこに小さな樹のテーブルと背もたれのついた樹の椅子が2つ置かれ、その席に男女が腰掛けて静かに語り合っていた。 そして窓から射す光がそこだけ隔離された場所のように見せている。 「もしも心っていうものがかたちある物体だとしたら、そのかたちは常に変化し続けてると思うんだ」 女は頷くこともなく男の話を聞いている。 「そしてそのかたちが隣り合ったパズルのピースみたくどこかで合致する時が来るような気がするんだ」男は力強い眼差しで

          引っ越し計画

          静止画の街が動き出す 楕円形の机に 散らばった塵が 星となって 宇宙を形成する いつだって 大きなものや 許容するものだけが 生み出すのではない こうして捉えられながらにして 宇宙を生み出し 推し拡げることが 出来るのだから 今度は この苦しみをあの歓びに 2本の線で繋ぐ必要が あるでしょう 私は 誰にも 気づかれることなく 宇宙への移住を 始めるので

          引っ越し計画

          白い部屋

          側に腰掛けて彼女は遠くを見つめている。それはすぐそこにあるものを見ているようにも見えるし途方も無く遠い彼方を見ているようにも見える。 僕に話しかけているわけでもなく彼女はぽつりぽつりと話し始めた。 「ここにいるといろんなことを思い出すのよ。その都度いろんなことを。感じて思って考えたり紡いだりしたことを」 僕は何も言えなかった。なんて言っていいのかもわからなかったし返事していいのかどうかもわからなかった。 彼女はどこかの遠い過去の思い出に向けて、目を細め

          甘っちょろい世界

          世界は救えないと言う すべての願いは叶わないと言う すべて理解し合えることはないと言う 愛と平和は同時に存在できないと言う 神が救うと言う 幽霊はいないと言う 神を信じないと言う いつかすべては滅びると言う 夢は寝て見るもんだと言う これらすべて 球の上に並べて ひっくり返したら出来上がり

          甘っちょろい世界