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佐久間マリ
2021年12月1日 22:17
1話~5話 6話〜10話 11話~15話 (全31話)16.堂道課長はもう恋なんてしない「オラ、榮倉ァ! てめえ、ふざけんなよ!」 二課の島に死んだ目でいる夏実から社内チャットが届く。『どうにかして』 糸に堂道をどうにかできる力があるのなら、今すぐこの場を和やかな職場にしている。 堂道は清々しいまでに通常運転だ。 結局、糸は告白したことになるのだろうか。 あれ以降、堂道の
2021年12月2日 20:11
1~5話 6〜10話 11~15話 16~20話(全31話)21.堂道課長は部下に手を出す上司になりたくない 堂道との男女の接点はなくなったが、まだその体調を気遣うくらいは糸に許されていて、たとえば残業が続いていそうな時に栄養ドリンクの差し入れは受け取ってもらえる。 あと、二日酔いらしい時の胃腸薬と。買いに行くのも辛そうで、この時はひどくありがたがられた。 毎日二日酔いになればいいのに
2021年12月8日 21:39
1~5話 6〜10話 11~15話 16~20話 21話 22話 23話 24話 25話26話 27話 28話 29話 30話 31話 エピローグ「スポーツに貴賤はなかった!」昼休み、小夜はいまだ興奮冷めやらぬ様子で、昨夜のことを夏実に語って聞かせた。「小夜、いつから裏切者になった」「いや、ホントに堂道課長ってばすごいんだって。バスケ超うまいし。後輩にプロ選手もいるんだって、草
2021年12月9日 21:51
1~5話 6〜10話 11~15話 16~20話 21話 22話 23話 24話 25話26話 27話 28話 29話 30話 31話 エピローグ(完) 風向きと言うのは妙なもので、風が前から吹いてくるか、背中から吹かれるか、たったそれだけの違いでそのときの勢いを良い方にも悪い方にも加速させる。 そして、堂道には今、間違いなく追い風が吹いていた。「おい、尾藤! これなんだよ!? お
2021年12月9日 22:05
1~5話 6〜10話 11~15話 16~20話 21話 22話 23話 24話 25話26話 27話 28話 29話 30話 31話 エピローグ(完)花金。駅前の本屋。写真週刊誌。グラビアアイドル。「カチョー!」「うわっ、なんだよいきなりビビらせんなよ!」高校生。少年バスケの元教え子。「グラビア立ち読みとか、おっさんみてー」「うるせーな。十分オッサンだ
2021年12月16日 19:22
「……ひーん! やっぱり来てましたぁ……」「あ、そう」 リビングに戻ると、堂道が紅茶を入れてくれていた。 ティーバッグの紐がマグカップから所在なさげに垂れ下がっている。 明るい部屋で、スウェットと白いTシャツ、洗いざらしの髪の堂道を久しぶりにちゃんと見て、糸は、またこの人を好きになってしまったと思う。 堂道が買ってきてくれたものは、二種類の生理用品と二枚のショーツ、鎮痛剤とプリンだ
2021年12月18日 07:00
ショッピングモールを出て、歩いて帰る。 昼間は新しい街並みも、夜になれば暗さが目立つ。 オレンジ色の外灯に照らされ、おもちゃのような家がテーマパークさながらに立ち並ぶ中は、堂道にはあまりにつかわしくないかわいらしい風景だったが、そのなかを買い物袋を片手に、二人で並んで手を繋いだ。「でも、やっぱり聞きたいです」「なにを?」「雷春さんと何があったか」「だからー、ないって言ってんだ
2021年12月19日 19:44
ひととおり食事を終えると、酒を片手に場所をソファに移した。 たわいもない話をしながら、しつこくシャンパンをちびちび飲んでいた糸に、前触れもなく堂道が身体を覆いかぶせて来た。「ん、課長……」糸の意向にかまわず、どんどん舌を進めてくる。「ま……って……」唇は、会話にキスにシャンパンにと忙しい。「……だめ、こぼれちゃう」「ん」キスをしながら器用に、糸の手からフルートグラス
2021年12月21日 21:34
「……堂道さん、ゆっくりして行ってくれ。わたしは少し出かけてくる」父は答えを出さないまま、席を立った。「お父さん!」堂道も立ち、一礼をする。 糸は立たなかった。父が行くと、部屋に残された母が「堂道さん、楽にしてね」と自分も大げさに肩を上下させてみせた。 そして、まるで普段の態度になって、自分でいれた茶を飲む。「ああ、噂には聞いてたけど、この状況さすがに緊張するわねぇ」「
2021年12月22日 21:45
「玉響サァン」席の後ろに立った人に名前を呼ばれ、糸は振り返った。 見上げると、見慣れた、けれど会社仕様の堂道次長。 疲れた顔は、仕事が忙しくて残業続きだからだ。「次長。なにか?」「ちょっと」「はい」堂道の後についてフロアを出るのに、痛いほどの視線を感じた。みんなが固唾を飲んで見守っているのがわかる。交際は、隠していないが公にもしていない。 堂道が次長となって本社復帰後
2021年12月23日 20:46
若いことと初婚であることは、気づかないうちに糸に胡坐をかかせていたらしい。 周りの反応が糸にその意識を助長させたこともあるが、見定められる立場にあることを忘れるくらいには、堂道との婚約は糸にとってまだ夢の出来事だった。「すみません、ほんとに、私なんかで……」爽やかなマリンルックに身を包みながら糸は、暗い顔で言った。 クルージングには絶好の晴れやかな青い空が広がる。 堂道の両親と対面す
2021年12月25日 07:19
*堂道と草太が楽しそうに釣りをしている。 糸と小夜はそれをぼんやりと眺めていた。甲板の白の跳ね返りが眩しい。サングラスがなかったら目を傷めていただろう日差しの強さだ。「お金持ちってホント天然だよね。大学の時にいた社長令嬢を思い出した」あらゆるもの、ことに対して悪意がなく、マイペースだった彼女によく似ている。堂道母しかり、春子しかり、美麗しかり。「小夜も結婚したらあんな感じになるの
2021年12月26日 07:45
日暮れとともにマリーナに帰港し、みんなで荷物を下ろしていると、堂道母に声をかけられた。「今から食事に行くのよ。糸さんも是非いかがかしら」陽は落ちたのにつばの広い帽子をかぶり、コーディネートの良し悪しはさておき、一目で高級ブランドとわかる柄のリゾートワンピースに着替えている。聞きつけた姉春子が、糸の腕に自らの腕をからめて、「糸ちゃん、ステーキよー! 行きましょうよ」そこへ堂道がや
2021年12月27日 07:04
「池手内課長ォ、コレもうちょっとわかりやすく書けねえんですかネェ?」「い、いや、それは夏原さんに頼んだら……」「お言葉ですが、夏原さんは課内でも特に見やすいレイアウトで資料を作る事務サンなんですけどネェ? まあ、例えば百歩譲ってこれを夏原さんが作ったとして、課長はそれを指導する立場にあるんですがネェ?」堂道が次長になって、直接平社員が怒られることは少なくなった。 当然ながら、その代わ