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【主体性を育む】2種類の探究と学習環境が主体性を育む

『探究学習』という言葉が、クリシェ(使い古された常套句)になりつつある現在ですが、僕は探究学習こそが子どもの主体性を育むのではないかと思っています。

そもそも主体性とは何か
様々な形で「主体性」という言葉は使われているのですが、
重要なのは大きく2点ではないかと考えています。
1)自分で選択できること
2)行動を起こすことができること(目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること)
この2点を踏まえて、僕は主体性とは以下の2つの資質のことだと考えています。
・自分をワクワクさせられる(自分の好きなものを見つけ、選べる)
・自分のワクワクに従って行動できる(自信を持って行動することができる)

では学校現場で、
何をすれば、何があれば子どもたちが
・自分をワクワクさせる方法を見つけ、
・自分のワクワクに従って行動できる(学べる)ようになるのか
今回はそんなトピックで書いてみようと思います。

それは下記の3つなのではないかと考えています。
1)オープン探究
2)テーマ探究(コンセプト探究)
3)環境


🔸オープン探究

まず、オープン探究というあまり聞き慣れない単語の説明からできればと思います。
オープン探求とは、
子どもたち自身が自由にテーマ設定を行い、自分の興味関心に従ってアクションを起こす探求のスタイルです。
イメージしやすいのは、小学校の夏休みに出される自由研究のようなものだと考えていただければと思います。
どのようなテーマ設定で活動してもOKな探究学習のスタイルです。

オープン探究の特色も、この自由なテーマ設定にあります。
子どもたちはその年齢や環境に合わせて、自分が興味を持てたコンテンツをテーマに活動します。
普段は基本的に受け身の生活をしている中で、 自らの意思で自分の行動を選ぶ経験をします。
時には自分で選んだテーマを捨て、また新しいテーマ設定をします。
(実はここも重要なポイントです。)

自分で選び、自分で行動し、そしてその行動と自分自身の感情や活動への姿勢などを顧みる。
自分に合わなければまた選択しなおし、また行動する。
これを繰り返すことで
子供たちは、 自分という人間が
何をすることが好きで、何をすることが苦手なのか、
また何をしているときに興奮し、何をすることに嫌悪感を感じるのか
好き/嫌い、得意/不得意、合う/合わない
などの感覚を徐々に認知していくことになります。

このプロセスこそが、 主体性を育む上で大切な
「 自分をワクワクさせる方法を知る」ことに繋がります。

日本で探究学習に力を入れている京都府の私立学校では
生徒に年間で6回探究テーマを決める機会があるそうです。
その度に、生徒は自分の行動や感情を内省し、
これまでプロジェクトを続けるか、新しいものを始めるか選びます。
担当の先生曰く
「1回や2回では比較対象が少なすぎて本人も好きかどうかわからない。それに1回目で好きなものに出会えるなんて、最初に付き合った人とそのまま結婚しなさいと言われているようなもの」
だそうで、個人的には非常に納得しました。
つまりは行動してみて、初めてわかることがあるということですね。

🔸テーマ探究(コンセプト探究)

テーマ探究の話をするために、探究について少し詳しく説明できればと思います。
探究には大きく下記の3つの構成要素があります。
1)Question(問い/軸/テーマ/コンセプト/領域)
2)Procidure(手段/プロセス/方法)
3)Solution(最終到着地/アウトプット/結論)

上記3つの構成要素のうち、どこまでを教師が決め、どこまでを学習者が決めるかによって探究の種類が異なります。

教師が1)を決定し、
残りの2)3)は学習者or教師が決める
このパターンの探究学習をテーマ探究と呼びます。
(下の図では1 Structured Inquiry, Guided Inquiryに当たります。)

ちなみに余談ですが、
1)2)3)全てを学習者が決める場合をオープン探究といいます。
全てを教師が決める場合を僕は探究ではな他のスタイルだと考えています。

引用:The-Many-Levels-of-Inquiry by Heather Banchi and Randy Bell

図の説明)
4つの探究レベルと、それぞれのレベルで生徒に与えられる情報
1-確認探究
事前に結果が分かっており、生徒は活動を通して原理を確認する。
2-構造的探究
教師が提示した質問に対して、生徒は決められた手順で活動を行う。
3-ガイド探究
生徒は、教師が提示した質問に対して、生徒が設計/選択した手順で活動を行う。
4-オープン探究
生徒は、生徒が作成した問いに対して、生徒が設計/選択した手順を使用して、活動を行う。

藤原さとさんの『協働する探究のデザイン』にわかりやすく書かれていたので、
詳しくはそちらをお読みいただくのが良いかもしれません💦

このテーマ探究がどのように子どもたちの主体性を育むかという話ですが、
テーマ探究の特徴は特定のQuestion(テーマ)に対するアプローチ方法を学ぶことです。
テーマに対して、自ら行動し(学び)、その学びが自分の活動に好影響を与えることが重要です。
これにより「学ぶことが自分の目的・目標を叶える手段になる」ということを実感します。
この過程が、主体性の2点目である
・自分のワクワクに従って行動できる(学べる)
につながり、自己効力感に結びつくと考えています。

普段の授業の中では、多くの情報を生徒に伝えている背景から、なかなかその情報がどのように役立つのか(実践)に繋げる時間が取れないのではないでしょか?

しかし、総合探究やその他の授業の中でこのテーマ探究を取り入れることで、学習と自分の目標が繋がり始めます。

アメリカ、サンディエゴにあるHigh Tech Highが最も有名な例かもしれませんが、
そこでは、主に
1)Questionと2)Procedureは教師が決め、
その枠組みの中で生徒が自由に探究活動を行います。

例えば、most likely succeedという映画に出ていたプロジェクトでは
1)Question:文明について学ぶ
2)Procedure:レーザーカッターを使って巨大モニュメントをクラスで作る
3)Solution:生徒が自由に創造する
という形で探究を行なっており、生徒が自分たちが理想とするゴール(Solution)に向けて、文明の知識やレーザーカッターの使い方(技術)を学んでいました。

自分で設定した最終ゴールに向けて、
生徒「必要な知識は自ら学ぶ」という土壌ができているため、
自分が望めばいくらでも学び、成長することができる。
自分の目標は自分で達成することができる。
というマインドが、その学校では培われていました。

High Tech Highで実施されたプロジェクトに興味がありましたら、
ぜひ以下のリンクからご覧ください。

余談ですが教科学習を実践活動(経験学習)に繋げることは、
社会的構成主義の観点からも非常に重要であり、
経験を通して知識を体得することで、従来よりも多くの生徒の知識定着にもつながります。
そういった面でも、テーマ探究は有効なのではないでしょうか?

京都府にあるシュタイナー学校のお話を聞かせていただいたとき
経験学習を非常に上手く取り入れて、生徒の興味関心を引き出している様でした。
授業を受けた生徒の話を聞いても
様々な体験の記憶が鮮明に残っているようで、その場で得た学びについてもよく覚えていらっしゃったのが印象的でした。

🔸環境

最後に学習者の置かれる環境についても触れたいと思います。
2022年度に「総合的な探究の時間」が学校で行われるようになってから(それ以前からも)、
多くの学校さんが探究学習に力を入れておられると思います。

そんな学校さんのお話をよく聞く中で、
「なかなか生徒たちから自由なアイデアが出てこない」
「探究学習に向かう姿勢が消極的」
というお言葉を耳にします。

探究に力を入れている素敵な先生がいる学校
授業内容を聞くとオープン探究や、テーマ探究を行なっている学校もあります。

では、なぜそのようなことが起きるのか
大きな要因は環境にあると考えています。
環境とは、学校が置かれている場所(地域)や学校がもつ施設のことだけではありません。
それよりも学習者を取り巻く心理的な環境、
つまり人間関係の質、心理的安全性の有無、
とりわけ対話的かチャレンジが受け入れられやすいかどうかが重要になってきます。

学習者にとって、この環境がない場所では
教師がいかに探究に力を入れて、面白い授業をしても、
他の学習者がどんなに頑張っていい事例を出したとしても、
それらは特定の意欲の高い生徒や探究が得意な生徒のための授業になってしまい、本質的な学びにつながりません。

この結果、学習者が自発的に行動する意欲・姿勢を作ることができず、主体性を育むことができません。

そして、これまで見てきた学校の傾向を見る限り、
学習者に関わる大人(学校であれば主に教師)が学習者とどのように関わるか、
大人同士がお互いにどのような関わりをしているか、
が、その環境に大きな影響を与えていると考えています。
(対話的でない環境にいる生徒は対話的になりにくい。という話です。)

学校という場所は非常に対話的になりにくい場所だと思います。
慣習や制約など様々な理由で、子どもとの対話の場を作りにくいのが現状だと思います。
教師や学校が長い年月をかけて築いたノウハウで子どもたちを指導しようとすると、どうしても対話的になりにくかったりもします。
この環境を築くことは非常に難しいのだとうと日々感じております。

しかし同時に、
この環境無くして探究が上手く機能し、学習者の主体性を育めている事例を僕はまだ見たことがありません。

高度経済成長期など、国やコミュニティ全体で解決すべき大きな課題があり、生活する上で消せない課題意識が生まれるような環境であれば話は別かもしれませんが、
その環境で生まれる主体性は「ワクワク」ではなく「危機感」「問題意識」によるものなので今回の趣旨とは少し離れます。

学習者を取り巻く環境について
より良い環境を作るために様々な方法があります。
・「心理的安全性」を作る環境作り
・哲学対話を使った対話環境作り
・Social Emotional Learning(SEL)
・Social Emotional Ethical Learning(SEE learnig)
・System Awareness(システム思考教育)
・Peaceful school project
などなど

多くの場合、効果的な探究学習を実践していく過程で環境に変化が起こり始め、改善に向かう傾向にあるようです。
しかし、探究に力を入れているのになかなか生徒から主体的な行動を引き出せないようであれば、環境に目を向けてみる必要があるかもしれません。


まとめ

以上です。
長くなってしまいましたが子どもたちの主体性を育むために必要な2つの探究と学習環境について書いてみました。

次回以降は、
それぞれの分野に関して、実際に何をすれば良いのか、具体例を織り込みながら書いていけたらなと考えています。
「ちょっと面白そ」と興味を持ってくださった方はぜひフォローお願いします。

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