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【オープン探究】越境体験、学校外に出ることで子どものモチベーションと探究活動が盛り上がる

探究学習を授業に取り入れているが、いまいち生徒の活動に多様性が見られないといった事はよくあるのではないでしょうか。

今回は、子どもたちがより活動的になり、学校の外に出ていくにはどうすれば良いのか?
最近よく言われる(場所の)越境経験を通じて探究活動や子どもたち、学校にどのような変化を起こせるのか?
そんなテーマで書いてみたいと思います。

今回も、主体性を育むために必要な3要素(オープン探究、テーマ探究、環境)のうち、オープン探究について書いて行こうと思います。
※主体性を育む3つの要素についてはこちらをご覧ください。

🔸目標(課題)

子どもが学校の外に出ていくことのメリットはいくつもあります。
僕が考える一番大きなメリットは学校が魅力的に見えるようになることだと思います。
ある高校では生徒が活動的で様々な職種、経歴の大人と関わりを持っており、その大人から支援や助言をもらいながら活動を進めているため、地域社会の大人がその学校を認知、応援し「あの学校はいい学校だよね」という評価を得ています。
ビジネス目線で見れば、高校生自身が広告塔となり学校の宣伝をしてくれている状況です。
子どもが学校の外に出ることが学校の魅力になり、生徒数の増加につながったりするんです。

そんな可能性もお伝えしつつ
子どもたち目線で、2点理想の状態を考えてみたいと思います。

1)生徒のモチベーションを上げて活動をより活発化する

高校生の探究学習を10年近く支援してきたある方によると
子どもたちが探究学習にのめり込めるかどうかは、諦めたり飽きてしまう前に自分の活動を他者(学校や家庭以外)に評価してもらえるかどうかに大きく影響するそうです。
評価を得られない場合の活動継続率は5%に満たないそうですが、評価を得られた場合は50%以上に跳ね上がります。
一概に活動を継続することだけが良いわけではありませんが、これは大きな差です。
ちなみにここで言う評価というのは、「褒められる」と言う意味ではなく「承認される」や「社会的な価値を認められる」といった意味になります。
また、その活動に対しての改善点や反対意見なども含まれます。
つまり、対等な立場で対話や意見をもらえることが重要になります。

これにより、子どもたちは自分の活動が社会的な価値がある、自分が社会活動に参画していると実感します。
子どもが社会に参画していると自己認識できる機会は限られるため、この体験は貴重なものになります。

同時に、対等な立場として意見をもらうことで活動に対する責任感が生まれます。
ここは難しいところもありますが、社会に価値を認められたおかげで周囲からの期待感が高まり、活動を子どもたちが辞めづらくなるという側面もあります。

2)子どものコミュニティを広げる

もう一つの目的は、閉鎖的になりやすい子供たちのコミュニティを増やすことです。
同質性の高いコミュニティの中でしか生活しない子供たちは、
どうしても偏った価値観に陥りがちです。
特に同じコミュニティの中で生活することで、自分のキャラクターを固定化してしまい、生きづらさを感じている子供たちは少なくないでしょう。
他者が求める自分でいることに苦しさを抱えるのは大人も子どもも同じです。

そんな中で、普段の自分でいる必要のない場所は子どもたちにとって安心できる空間になるとともに、多様な価値観に触れる場所にもなります。
子どもが普段の生活の中で出会える大人は保護者と先生方のみになってしまうので、どうしても考え方が偏りやすいです。
その価値観に同調できる子どもたちは問題ないかもしれないですが、そうでもない子たちは、自分を否定しなければいけない環境の居続けることになります。

家庭、学校以外の第3第4の居場所を持つことで、子供たちが多様な価値観に触れ、自分の考えを形成していくことに役立ちます。

今回はそんな状況を目標として
子どもたちが学校の外に出ていく方法とその効果を書いていきたいと思います。

🔸行動(方法)

ここからは具体的な方法について書いていきたいと思います。
子どもたちの状況や学校の状況によってもできることやできないことがあると思います。
しかし、下記の内容はどれも僕が見聞きした実践例であり、どの学校も最初から全てできたわけではないそうです。「少しずつ1人ずつ広がっていく」と口を揃えて仰っていました。

1)評価者として活動に参加してもらう

自分の活動を表現する際に地域の大人や学校外部の方を呼び、活動に対してコメントや対話をしてもらう方法です。
そんなことを平日の日中にお願いしても断られると言われそうですが、僕の感覚では意外と快諾していただけます。(あっさり断られることも多々ありますが、、)

ポイントは参加してもらう学校外部の大人と表現の時間の目的を共有しておくことです。
「大人から良いコメントをもらえなかった」「生徒のモチベーションが下がった」「難しすぎて子どもが飽きていた」など実際には失敗談もよく聞きますが、概ね目的の共有ができていないことが原因だと思われます。

・大人が自身の経験や知識を生徒に伝える時間
・子どもの活動について聞き、承認する時間
・活動の課題に対してアドバイスする時間
など、様々ある目的の中でどのような時間にしたいのかを
個々の子どもたちは何を求めているのかベースで大人とすり合わせておけるとお互いの意識にズレが生じずに実りある会にできます。

2)学校の外にインタビューしに出ていってもらう

2)3)については全員一斉にではなく、「子どもが必要だと思ったら実施できる体制を作っておく」という意味で書きます。

最初のステップとしておすすめの方法は学校外部の大人にインタビューしにいくことです。
探究学習の難点の1つとして「先生の専門が生徒の活動と異なるためアドバイスし辛い」ことがあります。
この難点をチャンスと捉え、「先生もわからんから話を聞きたい相手にインタビュー依頼してみては?」提案します。
これを元に生徒が動き出したら儲けもんです。

こういった活動は実践例が増えるにつれて実践者が毎年増える傾向にあります。同級生や先輩が学外に飛び出していく姿を見て、他の子どもたちもどんどん真似するようになります。

先生としては粗相がないようにメールの書き方を説明したり、
電話の掛け方を説明したくなるかと思いますが、できる限り子どもたちに任せるのが良いかと思います。
メールを送り、返事がこなかった時に、初めて「何が悪かったんだろう?」「どうしたら返事が来るのかな」と考え始めるものかもしれません。

実際にインタビューに行き、子どもたちに振り返りを行うと
ググればわかることばかりを聞いて来ることもあるかもしれません。
それでも振り返りを行うごとに質問の質は上がり、理解も深まっていきます。
試行錯誤が大事です。

3)活動の課題に対する解決策を聞きにいく

これはインタビューと同じ方法ですが、少し難易度が上がります。
そもそも子どもが何か活動を実施しないと課題を聞くことができません。
しかし、自身が活動したからこそ大人から学べることは多く、深くなります。
インタビューをした相手に再度話を聞きにいくと、関係が深まり大人側も親身になってアドバイスをしてくれる傾向にあります。

実はこの活動は、インタビューと比べて根本的な目的が違います。

インタビューの目的は知識のインプットです。
相手の持っている情報を効果的に聞き出し、自分にない知識や経験を手にいれることにあります。
もちろんインタビューする目的や質問の意図を深く突き詰めてから実施することができると理想的ですが、そうでなくても成り立ちます。

しかし、解決策を聞きにいくためには自身が自分の活動の目的、目標、課題だと感じていること、その理由などを説明できる状態にないといけません。
これらについて考えることは、それなりの難易度があります。
(そもそもこれらを考えること自体に価値があると言っても良いくらいです)

難易度は上がりますが
その分大人からの承認も受けやすく、親身になってアドバイスしてくれます。
ある程度活動実績があり、次のステップに悩む子どもには積極的に提案していきたい方法です。

事例1)新渡戸文化さんのハピネスブリッジ

東京にある私立校の新渡戸文化中学校では数年前からハピネスブリッジという活動を行っています。
これは、子どもが普段の探究学習で行っている活動や、趣味や関心ごとについて大学生以上の大人に発表し、対話を行う活動です。

僕も何度か参加させていただいたのですが、
生徒の発表に真剣に耳を傾け、質問を投げかけたり、関連した自身の経験を話したり、生徒との対話を楽しむ大人の姿が非常に印象的でした。

対話自体はZOOMを使ってオンラインで実施していたので、安全面はある程度確保されており、
先生方の知り合いや、知り合いの知り合いが多いのでその点でも安心感がありました。

僕が最初に参加した当時は、規模もそれほど大きくなく
数名の大人が各ブレイクアウトルームに入り、4,5人の生徒と対話する形式だったと思います。
先生方の知り合いを集めて、小規模から始められる事例です。

驚いたのはその回数で、1年に一回とかではなく学期毎くらいのペースで実施していた気がします。
それくらい定期的に外部の大人と触れ合うことで、
外部の大人との交流への抵抗感がなくなっていきますし、何より多くの価値観に触れることができていました。

事例2)Slackを使って生徒が自由に大人と交流

もう1つの事例は実践までに少し準備期間が必要ですが
群馬県の公立高校の事例になります。

この学校では探究を始める前から地域の方や卒業生との関わりが強かったそうで、既存のコミュニティをSlack内で作成し、いつでも高校生が自由にSlack内の大人に連絡を取れるようにしていました。

Slack自体はN/S高でも使われていたりします。
こちらは学内コミュニティツールとしての側面が強そうですが、
こちらを学校に関わる大人にまで広げたのが、今回の事例です。

卒業生や先生方の知り合いということもあり、安全面は確保されているように感じますが、
生徒は先生の知らないところで自由に大人と交流をしており、そこから新しい探求アイデアや解決案を得ているそうです。

🔸教育の島、大崎上島町の実践例

広島県の瀬戸内海に浮かぶ大崎上島では、高校生が地域に出ていくことで地域、学校の両者に好循環が生まれています。
僕が現地に行って様々な方に話を聞いた内容であり、そこで僕自身が感じたことですが、大崎上島で高校生が地域に飛び出すことで起きていることをまとめました。

1)町の至る所に生徒と地域の交差点がある

学校から半径数百メートル県内の至る所に高校生がたむろする場所がありました。
それはカフェだったり図書館だったりカレー屋さんだったり様々ですが、
共通している点は、高校生が自分の探究活動の話や、自分のしたいこと、それらに関する悩みを大きな声で大人に話していることです。

あるカフェでは、フリースペースを高校生や地域の大人に貸し出し、自由にイベントを開催できる場所として提供していました。
イベントでは高校生の友達が参加したり、保護者が家族を連れてきていたり、地域の大人が参加したり、自然と交流が生まれる環境がありました。

こういった場所が、子どもが学外に飛び出し大人に出会える場所として機能していました。

そのカフェを運営している方は
「高校生が地域の大人と出会える場所を学校の外に作ることで、生徒が学校と地域を行き来するようになり、それが「子ども」「地域の大人」「学校」の三者を活発にし、魅力的にしていく」と仰っていました。

2)地域の社会問題の担い手が増える

こうして、学外の大人にも自分の活動の話を聞いてもらい、アドバイスやサポートをしてもらえる環境は生徒のモチベーションを上げ、さらに活動を推進します。
さらに地域にある課題に触れる機会が多いため、自ずと地域課題に興味を持つ子どもが増え、そこへアプローチする探究学習も増えていきます。
その結果、高校生が大人と話し合いながら地域の課題に取り組む状況ができます。

島内には至る所に生徒が実施したプロジェクトの成果物があり、
それによって島民の困りごとが解決した事例がいくつもあります。

全国的に言えることですが少子高齢化は待ったなしの状況で
大崎上島でも高齢化が加速するばかりだそうです。
だからこそ、高校生が島内の至る所で大人と対話しながら島の未来について考えているだけで、大きな活気になります。
さらに体力的にも活発な高校生がプロジェクトをどんどん進めていくことで、島の課題解決を促進する力になっているそうです。

3)生徒だけでなく大人からもプロジェクトが生まれやすくなる

最後は副次的に生まれたメリットですが、活発な子どもたちの話を聞いているうちに、大人も何かしなければ!と意欲を掻き立てられたお話です。

大人目線から見ると、島内の至る場所で高校生が自分のプロジェクトについて語ってくれるので、日頃から活動的な若者と触れ合うことになります。
その姿を応援していると、「自分も何かできることがあるのでは?」「高校生ばかりに任せてられない!」と考えるようになるそうです。
結果、大人側もプロジェクトを立ち上げ、地域がどんどん活発化するという好循環が生まれます。

この事例はまだ多くはないそうですが、それでも人口7000人ほどの島内で実際に起きていることに違いはありません。
(ある種閉鎖的な環境だからこそのメリットももちろんあります)

高校生が学校外に出ていくことで、こんな好影響を生むのかと驚きました。


まとめ

さて、最後に
「うちの生徒を学外に出すなんてとんでもない!」「そんなことをしたら学校にクレームがくる!」と言う声も聞こえてきそうです。
高校教員だった経験もあるので、先生としては地域の迷惑になるのでは?と気になるところです。

積極的に学外に生徒を送り出している先生方にクレームなどはなかったかと尋ねると、
「もちろんご指摘を受けることはありました。ご迷惑をかけたこともあります。ですが、真摯に謝り、なぜこのようなことを生徒に許しているかを説明すれば理解してくれることもあります。」と言われました。

もしかしたら学校は、知らないうちに監督者のような役割が強くなり、地域・社会にご迷惑をかけないように子どもを管理することを重要視しすぎているのかもしれません。
もちろんご指摘を受けないようにすることも重要だと思いますが、それと同等か、それ以上に、生徒が間違え、失敗できる環境を作ってあげることも重要なのではないかと感じました。

学校だけでなく地域社会が協働して、子どもたちの挑戦を見守ってくれるようになれば、子どもたちはよりのびのびと成長していくのかもしれません。

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