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事業創造プロセス編:事業創造/スタートアップ はじめの一歩に役立つ参考図書ガイド

世の中に価値を提供する新規事業を始めたい
社会を変えるスタートアップを立ち上げたい
そんな想いを持つ人は、どんなプロセスをたどれば大失敗のリスクを下げつつ、魅力的で持続可能な事業を立ち上げられるのでしょうか?

この記事は、冒頭のように組織の内外で新規事業を始めようと考えている人、実践し始めている人(アントレプレナー/イントレプレナー)向けに書いています。想定読者は2019年1月当時の自分。新規事業開発・オープンイノベーション推進を行うことになったものの、右も左も分からなかった自分がペルソナです。

2021年1月現在、ありがたいことにここ日本でも多くの関連参考書・参考情報が出回っており、僕も多くの示唆を貰ってきました。それらを複数回に分けて紹介していきます。
※他にもこんな書籍・情報があるよ!という方、ぜひコメントをお寄せいただけると幸いです。

関連記事はこちら。

今回は、そもそも新規事業やスタートアップを考えるにあたっての「事業創造プロセス」に焦点をあて、参考書籍を紹介していきます。

各書籍を個人的な印象でチャートにまとめてみました。

事業創造プロセス編_チャート


■はじめに:事業創造のプロセス

まずは「事業創造のプロセス」から。下の図は、これまでの経験や多くの書籍をもとに、ざっとイメージをまとめたものです。全体感を掴む参考にしていただければ幸いです。

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特に押さえておきたいのは以下のプロセス。
本格的に起業・事業化する前に以下を達成できているかが、失敗のリスクをコントロールするうえで重要です。

Vision Design:チーム間相互理解の促進・理想の共有・初期課題仮説検討
CPF(Customer Problem Fit):当事者発見・課題の質向上
PSF(Problem Solution Fit):課題解決策の価値検証
PMF(Product Market Fit):市場から熱望される製品への磨き上げ

※前提として、ここで取り上げる事業創造/スタートアップとは「Jカーブを描いて成長するタイプの事業」を主な対象にしており、線形的に成長するスモールビジネスでは当てはまりにくい箇所もあります。

上記の前提を踏まえたうえで、書籍の紹介にまいりましょう。


■『アントレプレナーの教科書』~真実はいつも会社の外にある~

大多数のスタートアップが、革新的な製品をつくりながらもニーズに応えられずに倒産してしまいます。それはなぜでしょう?

本書では、そうした失敗の原因を「製品開発モデル」で解説しています。つまり、多くの企業では製品の機能面を追求し、市場づくりを怠っているというわけです。

そして、新規事業の典型的な失敗パターンを回避し・大企業へと成長するための手法として「顧客開発モデル」を紹介しています。

顧客開発モデル製品開発モデルを代替するものではなく、併用するものである。要約すると、顧客発見では自社のビジネスモデルの妥当性、特に製品が顧客の課題とニーズを解決するかどうかの検証に集中し(中略)、顧客実証では反復可能な営業モデルを開発し、顧客開拓ではエンドユーザーの需要を創出してそれを高め、組織構築では学習と発見のための組織から、実行のための整備された機械へ転換する。

書籍の章立ても、「顧客発見」→「顧客実証」→「顧客開拓」→「組織構築」の流れに沿って進みます。
個人の主観ですがざっくりまとめると、こんな具合です。

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顧客開発モデルにおいて最も強いメッセージを放っていると感じるのは、「真実はいつも会社の外にある」という言葉。どんな優れた製品アイデアも、それを必要とする顧客がいなければ価値がない。だからこそ、(特に序盤は)自社のビジョンにあった顧客と市場(課題)が存在するかどうかを確かめに行きなさい、というものです。

原著が発行されたのは2002年。原題は『The Four Steps to the Epipany』。まさに悟りに至る4つのステップ。日本向けの新装版は2016年初版なので、まだまだ錆びついていません。昨今の新規事業関連書籍は、少なからず本書の影響下にあると言って過言ではありません。

Web系とそれ以外を分けての事業創造プロセスを解説した続編『スタートアップ・マニュアル』も辞書的に活用できます(めちゃ分厚いので必要なところをつまみ食い、で良いと思います)

なお著者のスティーブン・G・ブランク氏はシリコンバレーの元シリアルアントレプレナーであり、後述の『リーン・スタートアップ』著者エリック・リース氏の師匠でもあります。


■『リーン・スタートアップ』~ムダなく仮説検証し学びを得る~

前述のブランク氏の弟子であるエリック・リース氏が、自身の起業経験を体系化して表した書籍。2011年原著発売、2012年に日本でも発売され大ヒットしました。アントレプレナー/イントレプレナーが大前提として押さえるべき概念でもあります。

リース氏が現したのは、リーン・スタートアップの5原則。これらを「ビジョン」「舵取り「スピードアップ」の3部構成で説明しています。

1 アントレプレナーはいたるところにいる
2 起業とはマネジメントである
3 検証による学び
4 構築―計測―学習
5 革新会計

リーン・スタートアップの本質は「無駄を排除するリーンな考え方をイノベーションにも応用しよう」というものです。

本書の中ではMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)、構築-計測-学習のフィードバックループ、革新会計(Innovation Accounting:一般的な会計基準ではなく、スタートアップのための計測指標)、成長のエンジン(粘着型・ウイルス型・支出型の三種類)といった概念が登場しますが、いずれもが「ムダなく仮説検証し学びを得る」ための手段であり、目的ではありません。

リーン・スタートアップは非常に汎用性が高く、また深みのある概念なので、様々なシーンに応じた派生書籍が出ています。
こちらのSlideShareに、非常にわかりやすく各書籍の概要がまとめられているので、よろしければご覧ください。

なお、実際にリーンスタートアップを実践する際は、2012年に日本版が発行された『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』がおすすめ。

ビジネスモデルキャンバスをスタートアッププロセス向けに改編したリーンキャンバス、インタビューの種類(課題インタビュー、ソリューションインタビュー、MVPインタビュー)と達成条件、AARRR(海賊指標)、PMF(製品と市場の適合)の計測指標と達成条件などがコンパクトにまとめられており、実際の事業創造プロセスに当てはめやすいです。

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■『起業の科学』~バラバラだったプロセスを体系化した「辞書」~

『アントレプレナーの教科書』や『リーン・スタートアップ』は非常に革新的な概念を提示してくれましたが、どうしても日本語訳ならではの取っつきづらさがありました。
その難点を解消してくれているのが、田所雅之氏による2017年発行の本書です。

「いつ、何のために役立つ情報化というコンテクストが分からない」
「情報が散在していて、忙しい起業家には把握しきれない」。
こうした問題点を解決するために、起業家が成長のステージごとに何に取り組めばよいのかを、私の経験も踏まえて時系列で整理したのが、この『起業の科学 スタートアップサイエンス』である。

と序文にあるように、『起業の科学』の一番の提供価値はなんといっても、アイデアの発想・検証~PMF達成までの全体像とステップごとの必要アクション・活用ツールが整理されており、結果として時短効果が得られることでしょう。

各ステップではより詳細な書籍はありますが、なかなか全体像が見えるものは数多くありませんでした。そういった意味では、この書籍の登場が日本において果たした役割は非常に大きいと思います。

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『起業の科学』でも取っ付きづらい…という方には、専門用語がそぎ落とされシンプルになった『入門 起業の科学』も2019年に発行されています。

また、PMF後を見据えたプロセスについては、2020年に発行された『起業大全』が詳しいです。なんと約400ページ超のボリューム。まさに大全。
起業家が事業家へと進化するための実践知を網羅しており、こちらも非常に参考になります。


■『はじめての社内起業』~国語・算数・理科・社会を社内起業に活かす~

ここまで紹介してきた書籍は、どちらかというと「起業」を念頭に置いたものでしたが、ここからは企業内での「新規事業開発」に軸足を置いたものを取り上げます。

元リクルート新規事業開発室マネージャーで、AllAbout社を立ち上げた石川明氏による2015年の書籍。

企業内で新規事業を検討・推進するにあたっては、「既存事業とのカニバリゼーション」や「保守意識」「スピード感」など、いくつかの直面せざるを得ない壁があります。

これに対して「国語(人の気持ち、人の不を考える)」「算数(不の大きさを推計する)」「理科(不の理由を分析する)」「社会(不が解消されていない社会的背景を探る)」という順番で不を掘り下げることで、社内説得をしやすい事業アイデアを発想していく、というフレームが提示されており、日本人にとってなじみやすいというのも特徴です。

世の中のニーズ」「自分が実現したいこと」「会社の目指す方向性」この3つを満たすことができれば、企業という大きなリソースを使って社会に影響を与えられるよ、と勇気を貰えます。

僕も企業内での新規事業開発の一環でボトムアップ型の企業内アクセラレータープログラムを運営しているのですが、その骨組みを考えるにあたり大いに参考にさせて頂きました。


■『新規事業の実践論』~WILLは後天的に作り出すことができるのか~

元リクルート新規事業開発室長の麻生要一氏による、2019年の書籍。
こちらも企業内での新規事業開発に軸足を置いたものですが、個人的に刺さったのは「どのようにして新規事業に挑む人材を育成するか」という問いに正面から向き合っている点です。

麻生氏は、WILL(意思)が形成されて「社内起業家として覚醒する」瞬間のことを「原体験化」と呼びます。
そしてその原体験化を起こすためには「ゲンバ」と「ホンバ」を往復し、そこで感じた気持ちを誰かに話し「小さな約束」をしなさいと説きます。

ゲンバ:「課題の根深い現場」「課題の震源地」
ホンバ:「新規事業開発の最前線」

実際の事業創造のプロセスにも具体的方法論が書かれており、自分自身に火をつけたい人、誰かの背中を押したい人、どちらにも役立つ内容になっています。


他にもたくさんの書籍はありますが、今回はここまで。
僕も社内外で悩み苦しみながら実践と学習の推進中ですが、参考になれば嬉しいです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!


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