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テクノロジーと社会の未来編:事業創造/スタートアップ はじめの一歩に役立つ参考図書ガイド

「世の中に価値を提供する新規事業を始めたい」
「社会を変えるスタートアップを立ち上げたい」

そんな想いを持つ人が、素晴らしいアイデアを思い付いたとします。
「これでいける!」と思って起業したり、サービスを実際に始めてみて気づくことがあります。

そもそも、ニーズを持つ人がいなかった…
世の中に市場がなかった…
アイデアの実装が早すぎた(遅すぎた)…

どんな素晴らしいアイデアも、ユーザー、より広く捉えれば市場や社会の求めているもの、ひいては大きな時代の流れ(大局観)と合致しないと成長できません。ではどうすればよいのでしょうか?

この記事は、組織の内外で新規事業を始めようと考えている人、実践し始めている人(アントレプレナー/イントレプレナー)向けに書いています。想定読者は2019年1月当時の自分。新規事業開発・オープンイノベーション推進を行うことになったものの、右も左も分からなかった自分がペルソナです。

関連記事はこちら。

今回はマクロな観点で「テクノロジーと社会の未来」に焦点をあて、参考書籍を紹介していきます。

各書籍を個人的な印象でチャートにまとめてみました。

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■はじめに:マクロ環境変化の兆しを掴むための「PEST」の視点

書籍紹介に入る前に、まずマクロ環境変化の兆しを掴むために押さえておきたいフレームワークが「PEST」です。

Politics:政治
E
conomy:経済
S
ociety:社会
T
echnology:技術

この切り口で各要因を洗い出すことで、世の中の変化の兆しと自分たちのとるべきアクションの方向性を掴みやすくなります。

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特に意識したいのは、P、E、Sは振り子のような揺り戻しがある一方で、Technology:技術は「競争のステージを不可逆的に変化させる」という点です。

スマホが普及した現在ガラケーに戻りたい人は少ないですし、インターネットのない生活はもはや想像ができないですよね。テクノロジーは、それだけ各要因の未来に与える影響が大きいとも言えます。

これから紹介していく書籍についても、書かれていることがPESTのどこに当てはまるのかその変化は自分たちにとって中長期的に追い風か向かい風か、といった点で読み進めていくとよいでしょう。


■『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』

ヤフーCSO・慶応技術大学環境情報学部教授である安宅和人さんによる2020年2月の著書。
これほどまでにアタマと心が熱くさせられる一方で、冴えわたる本は滅多にありません。400ページ超というページの厚さにも関わらず、飽きさせない構成と内容。

目次は以下のようになっています。

1章 データ×AIが人類を再び解き放つ――時代の全体観と変化の本質
歴史的な革新期
知的生産そのものが変わる
不連続な変化はデータ×AIだけではない
未来の方程式
2章 「第二の黒船」にどう挑むか――日本の現状と勝ち筋
一人負けを続けた15年間
埋もれたままの3つの才能と情熱
国力を支える科学技術の急激な衰退
データ×AI世界で戦うには
日本に希望はないのか
まず目指すべきはAI-readyな社会
日本の本来の勝ち筋
3章 求められる人材とスキル
ワイルドな局面で求められる人材とは
普通ではない人の時代
多面的な人材のAI-ready化
知性の核心は「知覚」
4章 「未来を創る人」をどう育てるか
3層での人づくり
国語と数学の力を再構築する
未来を仕掛ける人を育てる6つのポイント
初等・中等教育刷新に向けた課題
専門家層・リーダー層の育成
5章 未来に賭けられる国に――リソース配分を変える
圧倒的に足りない科学技術予算
日本から有能な人材がいなくなる
産学連携の正しいエコシステムをつくる
若い人に投資する国へ変わろう
未来のための原資を作り出す私案
6章 残すに値する未来
不確実な未来にいかに対処するか
この星は今、どうなっているか
新たなテクノロジーと持続可能な世界
ビジョンから未来をつくる――「風の谷」という希望

安宅さんは全体を通して、これでもかとファクトベースの現状分析をもとに問いを投げ込んできます。データ×AIの可能性、日本の現状、求められる人材とスキル、未来を創る人を育てるための筋道…

変化が激しく不確実性の高い現代社会においては、社会を生き抜くための基礎教養もまた変化しているのです。

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地⽅創⽣に資する魅⼒ある地⽅⼤学の実現に向けた検討会議資料
「 “シン・ニホン”AI×データ時代における⽇本の再⽣と⼈材育成」より抜粋

スピード感のある文体と圧倒的なデータ量から滲み出て伝わってくるのは、過去と現在を知り、マクロとミクロを往復し、根拠のあるデータをもとに世の中の変化を感じ取ることの大切さ
そこから未来を想像して、いまできること、まだやれることは何かを考え、実際に行動することの大事さ

その視座はとても冷静だけれど、同時に熱くて、優しいものです。

このままいくと僕らの乗っている船は間違いなく沈んでいきます。でもその様子をただ眺めているだけで良いのでしょうか?なぜならその船には僕らの愛すべき人たちが乗っているのです。

悲観するだけでなく、僕たちには歴史的に培ってきた強みもまだ少し残っています。それが残っているうちに、自分ごととして現状を見つめ、学び直し、行動して、未来を変えていかねばならない。その一点においては、老いも若いも右も左も関係ありません。

また「6章 残すに値する未来」では、都市集中型の未来へのオルタナティブとしての限界集落再生構想が描かれています。テクノロジーの力を使い倒し、自然とともに人間らしく豊かな暮らしができる空間を生み出すというものです。
本書が出版されたのは新型コロナウイルスが日本で本格的な流行期になる前のことですが、奇しくもコロナ後の社会のひとつのあり方を示唆しており興味深いです。

小さな子どものいる親世代としても、背筋が伸びる想いになる本です。この国の未来を憂い、もがいている、ひとりでも多くの人に届いて欲しいと心から願います。

僕らは少しでもましになる未来を描き、バトンを次世代に渡していくべきだ。

もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。
そしてどんな社会を僕らが作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。

未来は目指し、創るものだ。
(「はじめに」より抜粋)

なお「シン・二ホン」の資料は安宅さんによると数10バージョンあるようですが、書籍の内容に近い(であろう)バージョンがこちらでも読めます(「資料5 安宅 和人様 提出資料」を参照)。

安宅さんによるブログも時折更新されるので、ブックマークをお勧めします。

のっけから熱くなりすぎました。次はこちらです。


■『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』

ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授/株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役の斉藤徹さんによる2020年5月の著書。

独自のアイデアやテクノロジーで業界の勢力図を一変させている世界中の新興企業を中心に紹介しており、カタログ的にパラパラと読むこともできます。

目次は以下の通りです。

第1章 イノベーションが私たちの「業界」を破壊する
第2章 プラットフォームによる業界破壊企業
第3章 ビジネスモデルによる業界破壊企業
第4章 テクノロジーによる業界破壊企業
第5章 起業は、小さく始める、かしこく学ぶ
第6章 「ハッピーイノベーション」で不穏な時代を乗り越える

『業界破壊企業』では、多くのディスラプターの事例(プラットフォーム型/ビジネスモデル型/テクノロジー型)とその共通項が語られています。

その視点自体が非常に大きな価値のあるものですが、本書のハイライトだと個人的に強く感じるのは第6章(「ハッピーイノベーション」で不穏な時代を乗り越える)です。

ここで斉藤さんは「まだお金がほしい?もっと称賛されたい?」と問いかけてきます。お金はとっても大事、地位も名誉も社会経済の発展に大きな役割を果たしてきた。でもそれで僕たちは”本当に”満たされるのだろうか?…というものです。

斉藤さんは、WeWork問題に端を発するスタートアップバブルの崩壊やコロナショックを経て、新たなイノベーションのステップが生まれると提唱します。それはスケールアップよりも、ワクワクや本質的な幸せを追求するものです。

スタートアップバブル以降に予想される「ハッピーイノベーション」創出ステップ
1)自分が夢中になれるスモールアイデアをひらめく

2)計画より先に、現実に存在する課題を発見する
3)課題を解決するための最小機能製品を作り、学習し続ける
4)その過程で、コンテンツが磨かれ、同志の輪が自然と広がる
5)社長は「いかに顧客の期待を上回り、再利用の意向を深めるか」に集中する
6)一期一会。人との出会いを大切にする
7)無理に告知しない、無理に戦略を立てない、無理に拡大しない
8)ビジョンはあるが、自然な流れを大切に、幸せの連鎖を広げる

業界破壊企業の最新版資料は、こちらからも見ることができます。

なお斉藤さんの主宰する学びの場「hintゼミ」では「幸せ視点の経営理論とイノベーション」を学ぶこともできます。僕も2020年4月(4期)から参画し、いまでは多くの仲間とともに、新たなイノベーションが生まれるお手伝いをさせてもらっています。

書籍の詳細なレビューはこちらに書かせていただきました。よろしければどうぞ。


■『アフターデジタル2 UXと自由』

株式会社ビービット 東アジア営業責任者の藤井保文さんによる2020年7月の著書。

デジタルが隅々まで浸透した「アフターデジタル」社会。国内外の先進事例をもとにデジタル企業の「戦略」と、表面的に見えている取組みの奥にある「本質」、そして市場のルールチェンジについて迫っています。

目次は以下の通りです。

まえがき アフターデジタル社会を作る、UXとDXの旗手へ
第1章 世界中で進むアフターデジタル化
アフターデジタル概論
アジアに学ぶスーパーアプリ
量から質に転換した2019年の中国
インドに見る「サービスとしての政府」
米国から押し寄せるD2Cの潮流
日本社会、変化の兆し
第2章 アフターデジタル型産業構造の生き抜き方
変化する産業構造への対応
決済プラットフォーマーの存在意義
「売らないメーカー」の脅威
アフターデジタル潮流の裏をかく
「価値の再定義」が成否を分ける
第2章のまとめ
第3章 誤解だらけのアフターデジタル
日本はアフターデジタル型産業構造になるか?
来るOMO、来ないOMO
「デジタル注力」の落とし穴
データエコシステムとデータ売買の幻想
個社で持つデータにこそ意味がある
DXの目的は「新たなUXの提供」
第3章のまとめ
第4章 UXインテリジェンス 今私たちが持つべき精神とケイパビリティ
より良い未来、社会を作っていくための提起
人がその時々で自分らしいUXを選べる社会へ
UXと自由の精神 企業のDXが社会をアップデートする
UXインテリジェンスの企業家精神
UXインテリジェンスの全体構造
UXインテリジェンスの基礎ケイパビリティ
UXインテリジェンスのケイパビリティ1
UXインテリジェンスのケイパビリティ2
第4章のまとめ
第5章 日本企業への処方箋 あるべきOMOとUXインテリジェンス
流通系OMOは「オペレーションとUXの両立」が肝要
拠点系OMOは「ケイパビリティ調達」が肝要
DX推進に立ちはだかる壁
第5章のまとめ
あとがき 待ったなしの変革に向けて

本書で藤井さんが提示しているのは、アフターデジタルという世の中の変化に対して、私たちが持つべき精神(マインドセット)とケイパビリティ(能力と方法論)です。

「アフターデジタル」とはざっくり言うと以下のような状態です。

モバイルやIoT、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインがなくなるような状況になり「リアル世界がデジタル世界に包含される」現象

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スマホアプリ・Webサイト・SNS・ウェアラブルデバイスなどを通した店舗やサービスとのオンライン接点が常態化し、リアルとデジタルの主従関係が逆転するイメージです。

リアル接点は頻度としてはレアになるものの「今までよりも重要な役割を持つ」ようになります。

こうしたアフターデジタル社会におけるキーワードはUX(User Experience:顧客体験)とDX(Digital Transformation:デジタル変革)。
過去の置き換えでない新たな顧客体験価値を作ることこそが、あるべきDXであり、新たな体験価値を見定めずに、仕組みやシステムのみをデジタル化しても意味がない、ということを繰り返し藤井さんは主張します。

これは、テクノロジーを活用した新規事業やスタートアップを志す人が絶対に外してはいけない視点だと感じます。

『アフターデジタル2』は書籍としても発売されていますが、実はWebで公開原稿を読むこともできます。原稿をWeb上で公開していき、読者がリアルタイムで読むことができるという執筆過程そのものが、アフターデジタル的UXを提供する取り組みでした。


■『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』

2020年12月に発売された未来予測の書籍。原著名は「The Future is Faster than You Think(未来はあなたが考えるよりも速い)」。

著者のひとりピーター・ディアマディスさんはXプライズ財団(世界最大級の問題解決コンテスト主宰)CEO、シンギュラリティ大学(世界中でエクスポネンシャル教育を提供)創立者であり、シリコンバレーに大きな影響を与えている人です。

目次は以下の通りです。

第1章 「コンバージェンス(融合)」の時代がやってくる
第2章 エクスポネンシャル・テクノロジー Part 1
第3章 エクスポネンシャル・テクノロジー Part 2
第4章 加速が“加速"する
第5章 買い物の未来
第6章 広告の未来
第7章 エンターテインメントの未来
第8章 教育の未来
第9章 医療の未来
第10章 寿命延長の未来
第11章 保険・金融・不動産の未来
第12章 食料の未来
第13章 脅威と解決策
第14章 5つの大移動がはじまる

本書の背骨になっている概念に触れましょう。

それは第1章で語られている「コンバージェンス(融合)」。
あるテクノロジー(たとえば人工知能:AI)が、別のテクノロジー(拡張現実:AR)と合わさることを指す概念です。

流通、メディア、エンタメ、教育、医療…現代社会でエクスポネンシャル(指数関数的)な変化が起こっているのは、このコンバージェンスが理由だと語られます。

読み進める中で痛感するのは、テクノロジーの各要素を把握するだけでなく、それらが各業界でどのような重なり合い、繋がり合い、新しい産業や生活を生み出しつつあるのかを知る必要性です。

未来予測によくあるディストピア的な悲観論に脅されず、かといって極端にユートピア的な楽観論にも踊らされないように、科学的根拠と具体的なビジネスモデルを示してくれているのが本書の最大の価値だと感じます。


■『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』

最後に紹介するのが、東京大学産学協創推進本部 FoundX および本郷テックガレージ ディレクターである馬田隆明さんの2021年1月の著書。

本書の特徴は、デジタル技術を中心としたテクノロジーによる社会変革にあたり、ソーシャルセクターの知見やツールを取り入れながら、「社会との実装」をおこなうための方法論を丁寧に解説している点です。

目次は以下の通りです。

第1章 総論ーーテクノロジーで未来を実装する
第2章 社会実装とは何か
第3章 成功する社会実装 4つの原則
第4章 インパクト――理想と道筋を示す
第5章 リスク――不確実性を飼いならす
第6章 ガバナンス――秩序を作る
第7章 センスメイキング――納得感を醸成する
社会実装のためのツールセット1~10

馬田さんは本書で国内外の様々な事例に触れつつ、「成功する社会実装」に必要な4つの原則と1つの前提を示しています。

➀最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している
➁想定されるリスクに対処している
➂規則などのガバナンスを適切に変えている
④関係者のセンスメイキングを行っている
4つの原則を満たすためには、社会実装を使用としているテクノロジーに対するデマンドがあるという前提が必要

図で表すと、こんなイメージです。

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そして、これらの原則・前提を踏まえテクノロジーを社会実装するためのツールセットとして10の具体的な方法論が提示されています。

1.変化経路図
2.アウトカムの測定と評価
3.課題分析と因果ループ図
4.アクティビティシステムマップ
5.リスクと倫理への対応方法
6.パワーマップとキーパーソン
7.規制の変更
8.ソフトロート共同規制
9.業界団体
10.アドボカシー活動とパブリックアフェアーズ

これまで紹介してきた各書籍で語られているテクノロジートレンドを、現代社会でどう実際に実装(≒普及)させていくかという点で、とても重要な視点を提供してくれています。

そういった意味で、本書が授けてくれた武器をいかに使い、実践で磨いていくかは私たちに委ねられていると言えるでしょう。

馬田さんはこちらでもスタートアップに関する様々な資料をアップしているので、ぜひ参考にしてください。


いかがでしたでしょうか?
他にもたくさんの書籍はありますが、今回はここまで。

テクノロジーは日々アップデートされる領域ですが、そのもたらす価値と中長期的な流れを押さえることができれば、あなたのビジネスの大きな後ろ盾になってくれるはずです。参考になれば嬉しいです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!


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