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教員生活、攻め続けた20年間。そして、2023年。

 これまで20年間、公立小学校教員としてここまでやってきたが、どっぷり学校の仕事を繰り返すような単線的キャリアを歩んできたわけではない。

 毎日学校に通い、行政が準備する研修を繰り返し受けてきたわけではなく、常にアンテナを高くして最新の教育情報を取りにいくように心掛け、自身の力量向上を図ってきた。
 それを通すことで、多くの全国で活躍する先生方や教育工学、教育学の研究者の方々とつながりを得ることができた。

 今の時代は、これまでの終身雇用時代のように、会社・組織内の仕事ができ、昇進ではなく、会社組織の枠を越えても食べていける、個々のキャリアが求められる時代である。教育公務員は、終身雇用の仕事であることは否めない。ただ、それを自分が求めているかは考えるべきだろう。思考停止ではいけない。自分は、仕事を進める上で、もっと自分に必要な知識・スキルは何か、その仕事は自分でないとできない仕事なのか等、常に仕事に対して批判的に見てきた自負がある。

 さて、自身が力量向上を求めて、進んで外に出掛けていた話に戻そう。8年目を起点に、メディア創造力の育成をテーマに掲げているD-projectをはじめ、いろいろなセミナーに顔を出していた。数を重ねるうちに、自分の顔と名前を覚えてもらい、発表の機会をいただくようになった。研修への参加を繰り返す中で、情報の消費者的立場(インプット)と、発信者的立場(アウトプット)では、明らかに後者の方が学びが多いことが分かった。
 発表を通して、自分の取り組みが整理でき、要点がつかめるようになるからだ。要点をつかめば、他のいろいろな場面に生かすことができる。

 そして、大きなターニングポイントを迎える。

日本デジタル教科書学会の第1回新潟大会に参加した時のことである。懇親会にて、東京の私立大学の准教授(名古屋出身が共通点)から「大学で余っているiPadを使って小学校で実践してみないか」と声を掛けられた。
 平成24年度にiPadを借り受け、タブレットを活用した授業づくり、学習者主体の学習のあり方、思考・判断・表現力を伸ばすための授業づくりの実践研究を進めることになった(その後、平成27年度まで)。

 この頃は、初代iPadが発売されたばかりの時期であり、学校では、無線LANが禁止され、タブレットは遊びの道具と思われ、教育に役に立つのか疑問視されていた時代であった。
 しかし、当時の自分は、タブレット導入に際し、勤務校の理解を得ながら、無線LANが禁止という大きな制約がある中でも、どんな授業ができそうか、目を輝かせて毎日の授業を考えていた。

 授業におけるタブレット活用の実践例は、当時まだ全国的に珍しいこともあって、いろいろな場所で発表する機会をいただくことができた。発表と授業研究の繰り返しが、自分の力量を高めることにつながり、教育におけるICT活用、タブレット活用という領域で、自分の立ち位置を獲得することができた。年数を重ねて昇給することよりも、自分の取り組みが認められ、様々な先生や研究者とのネットワークが広がっていくことに、充実する毎日であった。

 ここで終わりではなく、さらに大きく力を高める機会をいただくことになる。

 市から推薦をいただき、平成30年度より、愛知教育大学へ14条修士として教育学研究科(大学院前期課程)へ入学した。

 1年目は、学校を休職し、必要単位を取得するために講義・演習を受ける毎日であった。これまで培ってきた知識や授業実践の経験が、講義・演習によって整理され、生きた知識・スキルへアップデートしていくことができた。日に日に、自分のこれまでの取り組みや教育全般について、価値付けしながら、人前で話ができるようになった。

 2年目は、「今後、1人1台の端末が児童生徒の学びの質を高めるツールとなる」という強い信念をもって、修士論文研究の計画を立て、実践することを決意。そのための学びの環境を整えるために、LoiLo社の協力を得て、1人1台の端末(LTEモデルのiPad40台とロイロノート・スクールのアカウント)を借り受けることができた。

 「1人1台の端末」「情報活用能力」「主体的・対話的で深い学び」「教えて考える授業」をキーワードに、小学6年社会科の授業を主体として、授業を計画、実践した。
 情報活用能力を育成するためには、どのような授業を計画していくとよいのか、実践後の児童の変容から、授業における留意点を修士論文としてまとめた。

 2学期の授業実践を終えて、まとめにかかろうとしていた令和元年12月。ここで、運命的な発表を迎える。GIGAスクール構想(文部科学省)である。全国一斉に、個別最適な学びの実現へ、1人1台の端末が配備されることが決まった。

 自分の修士論文でまとめたものは、「必ず今後先生方が必要とするものであり、いち早く世に送り出すべきである」という指導教官からの熱いオファーをいただき、翌年の令和2年は、日本教育工学会の学術論文に採択されるために、修士論文を再分析、再校正することにした。
 査読を出して、2回の修正があり、採択されるまで実質1年間を要することになった。その成果が実り、2021年2月に教育実践研究論文「1人1台のタブレット端末を活用した情報活用能力を育成する授業設計の留意点の提案」として採択された。

 この採択は、「1人1台の端末」「情報活用能力の育成」「ICT活用」「授業設計」のカテゴリーを自身の#(ハッシュタグ)とすることができ、大きな自信につながることになった。

 そして、デジタル・シティズンシップの研究者の方々との出会いを迎える。学術論文の修正を掛けていた頃、「教材づくりで力添えをして欲しい」と声を掛けていただくとともに、日本初のデジタルシティズンシップ教育を取り上げた書籍(デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び 大月書店 2020.12)の執筆に携わらせていただくことになった。また、デジタル・シティズンシップの授業実践を先駆的に取り組んだ。授業実践については、2021年11月9日 朝日新聞(花まる先生) デジタル利用、僕の「時間割」に取り上げていただいた。
 その後、国際大学GLOCOMの、経済産業省のSTEAMライブラリー「GIGAスクール時代のテクノロジーとメディア~デジタル・シティズンシップから考える創造活動と学びの社会化」の教材開発チームに参加、日本発となるデジタルシティズンシップの教材開発に携わることができた。

 そして、今では、日本デジタル・シティズンシップ教育研究会(JDiCE)の理事となり、月一のオンラインゼミに参加させていただいたり、現在もデジタル・シティズンシップ教育の教材開発、新しい書籍の執筆に携わっている。

 新しい「デジタル・シティズンシップ」の#(ハッシュタグ)も身に付けることができ、今後も教育公務員の単線的キャリアから、さらなる複線的キャリアを得られるように努めていきたい。

 土・日(余暇の時間)は、自己投資の時間として活用している。文章を書くことを習慣化し、教育に限らずYouTube視聴や本を読んで新しい知識をインプットしたり、皆に還元できるような資料づくり(アウトプット)したりしていることが多い。できれば、並行して家族とのふれあい時間も充実させたいと思い、娘らとともに一緒に学ぶ時間をつくるとよいと考えるのだが、そこは、娘らのモチベーションによって期待に背く結果となっている。

 2023年の新しい年がスタートした。今年は、仕事をすることによって、経済的豊かさを追い求めるのではなく、「人のために役立ちたい」「稼いだお金で家族との生活を充実させたい」という、心理的豊かさに重点を置く一年にしていきたい。それが自分のウェルビーイングであるからだ。

 よい機会、出会いを享受して今の自分がいる。健康に留意しながら2023年もまた走り続け、さらなる高みを目指していきたい。

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