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河合隼雄「こころの処方箋」


語りだせば、記憶のふたが次々に開きます。

昨日に続いて、河合隼雄さんの思い出を、もう少しお話しますね。


私の若いときの一番の悩みは、恋の悩みでも、仕事の悩みでもありませんでした。

親が重かったんです。

こんなカビ臭い田舎では息ができない、都会へ出て自立するんだ。そう誓った私は、実家を離れ、大阪で大学を出て、そのまま大阪で就職しました。

自立とは何か。ひたすら納得のいく答えを探し出そうとしました。

理解のない両親への不満と怒りが、自立への原動力になっていたんです。

両親に向かって対等に言いたいことを言うには、決して両親のお世話になっていてはいけない。まして、スネをかじりながら親を批判するなんて、もってのほか。

私は、とにかく一人立ちするんだと決めて、実家には近寄らず、生活はすべて自分で賄ってきました。

親が重すぎました。重すぎる親を跳ね除けて自由になりたかったんです。そのための自立でした。

ところが、自分のやっていることに、疑問がわきました。何か違うような気がしてきました。

経済的には一人立ちはしたものの、精神的にはますます親に縛り付けられて、片時も自由になれないのでした。

はたして、こんなものが自立だろうか?

そんな時、ふと立ち寄った本屋で、たまたま開いた本のなかに答えがありました。

「自立は、適切な依存があってはじめてできるのです。依存なしに自立しようとすることを、孤立といいます」

私の人生の問題はこれだと直感しました。

著書は河合隼雄さん。書名は「こころの処方箋」でした。

そして、すぐに河合隼雄さんのプロフィールを確認しました。

臨床心理学者 日本人で初めてユング派分析家の資格得 京都国際日本文化研究センター所長

私は、ただちに京都国際日本文化研究センターに電話しました。

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「河合隼雄先生はおられますか?」

「河合先生は○日の○時に出勤しています」

電話に応対した人が教えてくれました。

私は日時を改めてもう一度、かけ直しました。

「河合隼雄先生はおられますか?」

この前の人が河合隼雄さんに取り次いでくれました

「はい、河合です」

ほんとうに河合隼雄さんの声だった。

「河合先生の本を読みました。私もカウンセリングを受けたいのですが、どこに行ったら受けられますか?」

いまから三十年近く前のこと。カウンセリングを受けることは一般的ではありませんし、またネットで検索してカウンセラーを探せる時代でもありませんでした。

河合隼雄さんは、こちらの気持ちを汲むように、とても真摯に対応してくれました。

そして、京都大学教育学部と仏教大学を紹介してくださいました。

やり取りは時間にして、わずか数分ぐらいでしたが、その後ずっと印象に残る出来事でした。


それからです。重すぎる親との関係を見つめるために、長い長い自己探求の旅が始まったのは。


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