「箱書き」――分解力と整理力
「箱書き」というものが物語創作において重宝されるのは、それが作者の頭にあるストーリーを分割し、きちんと整理することができるからだ。
物語を創作するというのは長い長い旅路を歩くことであるが、それは辛く困難であるとともに、先行きがわからず不安になることも多いものである。
だからこそ、そのために計画表や地図、予定を立てるということが古くから行われ、研究されてきた。
これらはテーマやコンセプト、ログライン、プロットなどというように呼ばれ、物語創作の前段階にしばしば登場する。
しかし、例えばプロットを立てる、ログラインを書いてみる、コンセプトやテーマを考えるといっても、それらは作者の頭にあるストーリーの詳細を明らかにするものではなく、あくまで全体をざっくりと捉えてしまうものだ。
だから時として、作者自身が、その全体に振り回され創作を失敗する。
かといって、なんの計画表も地図もないままでは、長い旅路を踏破できない。
そんなときに、箱書きが役に立つのである。
箱書きは、脚本において特によく用いられる創作術であり、表したい物語を整理する力に長けている。
運用方法は、状況によって変動するものの、3つの「箱」を用いることが一般的だ。
・大箱
・中箱
・小箱
そして言ってしまえば、これらの箱それぞれに大きな役割の違いがあるわけではなく、単にストーリーをそれぞれの箱に入れ込んでいくだけである。
例えば、まず7つか8つの大箱を用意する。その箱には、ストーリー展開の説明がひとつずつ貼られる、それぞれの大箱には中箱が7つか8つずつ入り、そしてその中箱には小箱が……というふうに、入れ子構造にしていくやり方だ。
簡易的に、4つずつの箱書きを考えてみると
大:主人公がいつもと調子の違う朝を迎える
中:いつもより早くベッドで目が覚める
小:不思議な夢を見る。知らない少女
小:飛び起きると、いつもの部屋、慌てて着替える
小:古傷が痛むことに疑問を覚える
小:母に呼ばれ、階下へ
中:兄の遺影に手を合わせ、思い出を想起する
中:朝食中、近所で起きた事故のことを知る
中:学校へ向かう前に、事故現場を覗くことにする
大:学校へ行く途中で、怪物と戦う少女を発見する
大:少女とともに復活した怪物と戦う
大:危機は去ったかに見えたが、怪物たちの主が主人公を訪問する
このような具合である。
本来であれば、ふたつめ以降の「中箱」や「大箱」にも4つずつの箱が入っていく。そのため最終的に上記の場合は、「小箱」が64個になり、物語の流れが整理される、というわけである。
もちろん、特に数が決められているわけでも、大~小の数を揃える決まりもないため、好きな数・思いつくだけの数で分割してよい。
箱書きのメリットは、大箱で全体をとらえつつ、小箱で細かなやりたいことを決められ、中箱によってそれらを橋渡しできるところである。
また、小箱を決めた後で中箱や大箱を修正するなど、粗い流れ⇔細かな流れと行ったり来たりできるところである。
デメリットとしては、あまり少ない文量の物語に向かず、あれこれストーリーを練ってしまうために勢いの良い展開などを演出しにくい点である。
なんにせよ。
物語創作というのは、作者の体力を削る先の見えない旅路で、その準備にすら労力を要するものだ。
けれど、箱書きというものを用いれば、いわばその旅路を疑似体験しながら、間違いのない地図を作ることができ、簡易的な前準備をするだけだったり、いきなり物語を創り始めてしまうより、低リスクで面白いストーリーを生み出すことができる。
箱書きは、物語を分解し、整理する力に長けている創作術だ。
これは即ち、構成力を助ける方法論であり、それが欠けていると感じられるときに、用いてみて損はないやり方である。
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