『記憶のデザイン』(筑摩選書)山本貴光 著
前回、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の感想文で、人はイメージでものを見ているということを書かせてもらった。
「いや、知らんわ」という人は、伊藤亜紗さんの『目の見えない人は世界をどう見ているのか』を読んで欲しい。もうちょっと言わせてもらうと、私の感想文を読んでくれて、さらにハートも押してくれると非常に喜ばしい(要求多め)。
さて、イメージはどこで作られているかというと、それは脳だ。
脳は視覚をはじめ、五感から刺激を受け反応する。そうして、やがてそれらは記憶となる。
と言うわけで、今日は記憶に関する書、
その名も『記憶のデザイン』について語らせて欲しい。
記憶には「記銘」「保持」「想起」という過程がある。「記銘」は、見たり聞いたり触れたりといった感覚から記憶をかたちづくること。「保持」は、記銘した記憶を保つこと。「想起」は、保持した記憶を思い出すことを意味する。覚える、保つ、思い出す、という状態が区別されるわけだ。これに加えて「忘却」、忘れるという状態もある。
記憶の中にも様々な種類がある。短期的なものや、長期的なもの、自身の体験や、見聞きしたもの。それらの記憶されている内容が良い効果をもたらす場合もあれば、その逆も。または、思い出そうとしても出てこなかったり、何故か頭から離れないキャッチコピーがあったり。
いやしかし、パソコンに日々の出来事を保存し、インターネットですぐに調べられる時代に記憶はそこまで重要なのか──。
例えば私の話だが、
「ネコの焼印が押されたカステラのお店、何だっけ」と考えてみるが、名前が一向に出てこない。しかしネットで検索してみると「デ カルネロ カステだ」とすぐ分かる。なんだ、これで十分ではないか。
検索をかけるには、探し物を思い浮かべ、それに関する検索語を思いつく必要がある。その出発点となる探し物や検索語は、その人の過去の経験とその記憶に基づいて思い浮かぶものである。
もし、私が「焼印」という言葉を知らなかったする。「カステラの上にネコの柄があったな」と「ネコ」「柄」「カステラ」で検索をしてみる。だが、検索上位に件の店は上がってこない(これは私の検索結果であり、人によって異なる。詳しくは『記憶のデザイン』で)。
結局のところ、自分で調べる内容は自分の限界値を超えることはかなり難しい。
もう一つだけ例を。
私の好きな画家でアブドゥル・ラハマーン・チュグターイーというパキスタンの画家がいる。しかし、この名前で検索しても彼の作品は出てこない。そもそもこの画家を知らない人は「ネットで偶然彼の作品を見つけた」となる可能性は低いだろう。それと同様に、私が知らない画家は、私がネットの検索で偶然見つけるというのはかなり厳しい。
また、ネットで書かれている内容が果たして正確な情報なのかどうか。フェイクニュースが溢れる中でどうやって真偽を確かめるのか。そこでもやはり自分の記憶が頼りとなってくる。
記憶というものについて知り、それを整理し、そしてその記憶たちをどう活用していくか。これらについて手引きをしてくれるのが『記憶のデザイン』である。因みに「これを読むだけで記憶力がアップする」なんてことはない。そもそも、どんな本でも読んだだけで記憶力は良くならないと私は思っている。読んで、内容を理解し、さらに自分自身が実行しなければ何もどうにもならないだろう。得体の知れないものを理解し、実行するのはかなりの困難だ。そこで本書は、まず記憶とはどういうものか、記憶をどうやって整理するか、そのための知識とアイディアを提示してくれる記憶のための記憶となる本だ。
押井守監督のアニメーション映画『イノセンス』から平家物語、『サピエンス全史』にシャーロック・ホームズ、そしてポケモンまで! 博識な著者が分かり易い例をもとに記憶について解説してくれる。
さぁ、『記憶のデザイン』を読んであなただけの記憶保管室を設計してみませんか。年末記憶の大掃除だ!
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