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『動物農場』(ちくま文庫)ジョージ・オーウェル 著 開高 健 訳

 オーウェルと言えば『一九八四年』があまりに有名であり、出版から七十年以上経った今も、書店で平積みされているのを見かけるほどだ。

 『一九八四年』は近未来の独裁国家について書かれたディストピア小説である。国による監視、歴史の改竄、そして止むことの無い演説と洗脳的なスローガン──。

 もしまだ読まれていない方は是非とも『一九八四年』を手にとって頂きたいのだが、ちょっと書籍の分厚さに躊躇するかもしれない(因みに、森泉岳土さんによる漫画が出版されているので漫画派の方は是非)。

 そんなあなたにおすすめなのが、こちら!

 同じく独裁主義についてオーウェルが書いた『動物農場』である。こちらは短編であり、動物たちを主役にすることで普段読書をされない人でもかなり読みやすくなっている。

 と、偉そうに推薦させてもらったが、実は私も先日本書を田原町にあるReadin’ Writin’ BOOK STOREさんで購入したので初心者だ。

 本書との付き合いは浅いが、心へ刺さった深さは相当なものだ。

 そう、本書は今年の必読書と言っても過言では無い。

 『動物農場』のメインはやはり動物たちである。豚、羊、馬、アヒル、鶏、犬などなど。彼らは、人間による支配から脱し、農場運営を始める。知恵ある豚たちを監督役に、他の動物たちは労働によって彼らだけの農場を築き上げていく。

 聡明なる豚は動物主義(アニマリスム)を唱え、七誡という法律をつくる。そこには、すべての動物は仲間であり、平等で、決して人のように振舞ってはいけないといった内容が書かれていた。豚以外の動物たちはこれに賛同し、七誡の厳守を誇りとする。

 また、周囲の農場では、人間から奴隷の如く扱われている動物たちばかりだと耳にし、彼らは動物農場を幸福なる場だと信じ込む。

 しかし、自分たちの置かれた環境に疑問を抱かず、ただひたすら労働と日々の僅かな余暇にだけ目を向けるとどうなるか。

 闇がそっと背後から忍び寄るように、監督者である豚に少しずつ変化が生じていく。

 寒さ厳しい冬が訪れ、動物たちは飢えに襲われていた。明らかに以前よりも彼らの生活は厳しくなっており、現状への疑問が薄っすらと生まれてくるものも居た。しかし豚は、収穫量や労働時間の過去との対比を早口で羅列し、以前よりも夭逝するものは減り、生活環境も改善されていると反論してくる。豚以外の動物は、人間支配の頃の生活と比較する知識がない。断言されると「そうだったかもしれない」と思い込み、結局彼らは少ない食料で耐え抜いた。

 しかし、豚の暮らしは厳しいどころか豊かになっていくばかりだ。

 また、農場は資金不足だと豚は報告するが、豚のための学校建設は行われ、豚用の砂糖、つまり贅沢品は購入されていた。

 ここでもまた、豚以外の動物たちは、資金不足なのだから仕方ないと過酷な労働に耐え、貧しい食事で凌いだ。

 またある時、皆が注視しないのを良いことに七誡が微妙に、そして豚にとって都合よく書き換えられていた。

 更には、豚たちは人間のように酒を飲み出し、彼らだけ屋敷で暮らすようになっていた。

 さすがに不満の声も湧いてきたが、豚に飼いならされた羊たちが一斉に批判の声をかき消すように叫びだし、結局発言者は萎縮してしまうのであった。

 そして、周辺の人間運営農場では、高齢動物は年金を受け取り、老後を悠々と過ごしている話を耳にする。しかし、年金生活以前は人間の奴隷であり、自分たちは人間の奴隷でないことを誇りとする動物農場の動物たち。

 だが、彼らは奴隷の如く毎日働き、年金で優雅な生活を送っているものなどいない。彼らの誰よりも豊かな暮らしを得ている豚たちを批判もせず、一層働き続けるだけであった。

 耐えていることにすら気が付かず、労働と僅かな食事と多くの搾取に慣れた動物たちは、豚たちの生活が豊かになっていくことに既に何も思わなくなっていた。

 我らは同じ動物、同志である。自分たちが耐えていることに同じく耐え、胸を痛めていると信じ、育てた作物を豚に吸い上げられ続ける──。

 さて、歯を食いしばって耐えている時「同志よ!」と叫ぶものが、本当に自分と同じ境遇であると信じて良いのだろうか。

「豚は頭脳を使い、この農場を人間の侵略から守ってくれている」そう信じて豚たちの搾取を黙認してきた動物たちは、果たして人間による農場生活時代に比べ豊かになったのだろうか。

 果たして、彼らが進む道とは? これはただの寓話で、我々の世界とは全く無関係の話なのか…………そこは是非とも本書を読んで確かめて頂きたい。

 あなたは聡明で搾取する豚たちか、それとも黙認し耐える動物たちか。

 私はどちらにもなりたくない。だから、また本を読むのだ。

 

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