見出し画像

運命は自分で変えたい若者を応援するのだ~両親の愛も感じる「アクロス・ザ・スパイダーバース」~

 「運命」とか「宿命」ってなんなんだろう。仕方なかったとその事実を受け入れるとか自分を納得させるために「運命」の言葉を借りるけど、人に対しては、重たい言葉だから無責任で容易には使えない。
 悲しいものも嬉しいものも、自分でその道を選んで歩んできた結果のはず。なのに自分で選択したわけでもなく、抗えないつらいことが降りかかってくる時だってある。最終的に受け止めるとしても、それまでの葛藤は無視できないものだよ。簡単に「運命だから」では気持ちが済まないよね。

 正確に言葉の意味を言えば、「運命」とは変えられるものらしい。
 そして「宿命」は、生まれる前からさだめられたものらしい。

 「スパイダーマン / ノーウェイホーム」が終わった時、スパイダーマンが孤独すぎてひどく悲しかった。
 スパイダーマンとは孤独で、必ず身近で大切な誰かを失う宿命がある。前までのMCU(マーベルシネマティックユニバース)のスパイダーマンが可愛らしくて幸せ過ぎたのでは。とも言われた。でも彼は父親のように慕っていたトニー・スタークも失うのだから、もうその後は可愛くて幸せなスパイダーマンの世界線があったって良いじゃないか。スパイダーマンはこうでなくちゃなんて、観ている側まで決めてしまうの悲しいよ。


*ネタバレあります



 前作「スパイダーバース」では、やはり叔父さんを亡くすし、仲間も別の世界に戻って離れ離れになるしやっぱり孤独なんだ。と思ったけれど、今回の続編「アクロス・ザ・スパイダーバース」で、それでもまだ許されない「カノン」があるのだと知った。

 どの世界線にいても、すべてのその存在に必ず経る宿命がある。
 喜びも悲しみも、どんな世界線にいようが必ず経る場面があるのだそうだ。必ず経るそのさだめを、今回は「カノン」と呼んでいた。

 マルチバースの世界観が映画で流行っているけれど、MCUでも特にここ数年、映画だけでなく、ドラマ「What if ?」や「ロキ」で、MCUならではのマルチバースの考え方を確立してきている。
 何をどう動かしても避けられない「絶対点」がある。
 そしてそれらを管理する誰かがいる。

 「スパイダーバース」はMCUじゃないけれど、ここでの考え方や、「ロキ」におけるカーンの存在、ロキの存在をそのまま想像させる。

 説明がこみ入ってくると、適当にやり過ごしてざっくり理解するのも良いのだけど、「なんかよくわからなかった」と思ってしまう私なので、ここら辺を観ておいたのは良かった。

 「スパイダーバース」シリーズは、そういったマルチバースだけでなく、画の見せ方もカッコ良くて楽しい。迫力ある動きに臨場感あると思えば、漫画のページを大画面で見ているかのよう。色づかいもそれぞれの世界を感じられたり。

 さらに少年の成長していく姿とその家族の接し方について、繊細に描かれているところもとても好き。
 たぶん若い子たちが観ても面白いし、親世代が観ても身につまされる。私たちの接し方はこれで良い。いやこれで良いのだろうか。何度も自分を振り返り、考えさせられる。

 ここの世界線でスパイダーマンをするのは、マイルズ・モラレスで、彼の両親は愛情深いけれど、その表現が少し行き過ぎてしまう。ただ子供が親離れする直前の親って、表現はちがえど心境はこんなものなんじゃないかな。

 今回、お母さんの言葉が良かった。

 「親元を離れると、アナタの面倒を見てくれる人がいなくなるから、アナタ自身が見ないといけない。それがまだ心配だった。どんなに孤独でも親がアナタを愛していることを覚えていて」
 というようなことを言う。

 彼女の心配は、例えば違う世界線なら悪の道を歩むマイルズのことだったりするだろう。あんな風になるか人を救いたいマイルズであるかなど、親にとっては紙一重なのだ。

 だけどこの辺り全体のセリフを聞いていてふと思った。「これって大いなる責任」のくだりにも重なるの?
 「大いなる力には大いなる責任が伴う」は古くからの格言なのだけど、スパイダーマンの世界では特によく使われている。それがフラグだとしたらイヤだな。考えすぎかな。
 でもマイルズは自分の気持ちを大切にする選択をしている時点で、まずは最初の責任を果たしているよね。どうにか良いようにとらえたい。

 いろんなスパイダーマンが、前作よりもっとたくさん出てくるけれど、今回は、グウエン・ステイシーとホービー・ブライアンが特に良かったなあ。
 みんなマイルズを見て、思うところがあるのだ。ヒーローって何なのか自分だけの答えを探し求め、考えている。そんな表情をしていた。
 「悲しい運命なら自分で変えるんだもん」と、がんばる誰かを応援するんだ! と結束するシーンはアツいぞ!
 
 来年続きが公開される。
 もう「運命」は決まっているのだろうけど、若者を、そして家族を思う気持ちを、心から応援したい。

 



この記事が参加している募集

#映画感想文

66,330件

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。