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『文体練習』レーモン・クノー著

読書の楽しみは、流麗な文体で書かれた内容の濃い物語を読むことにあると思う。
が、その真逆を行く本がある。
しかも、面白い。
本の名前は『文体練習』、著者の名はレーモン・クノー。
原文はフランス語で書かれている。

バスの中で帽子をかぶった男がいざこざを起こす。
その後、別の場所で彼は友人からコートにボタンを付けた方がいいと言われる。

本書で描かれる内容というのは、上記のものだけだ。
それを、脚本体、客観体、主観体、論文体、女子高生の会話体、田舎者の感想体、老人の愚痴体、枕草子体、漢文体、英語かぶれ体等々、実に99もの文体を使って書き分けていく。
同じ韻を踏んだラップのような文章や、「あのー」が連続するためらい感が溢れる文章があったりと、その工夫に呆然とさせられる。
原文は、英語やラテン語を駆使して様々な文体を描出させているけれど、本書は日本語だけでそれを実現させていて、訳者の創意工夫の腕に驚嘆した。
たとえば、ギリシア語法を枕草子の文体にしようという風に。
そして、それを可能ならしめた日本語と日本文学の潜在能力の高さに畏敬を抱いた。

内容の濃さと文章の綺麗さだけが読書の楽しみじゃないとの気付きも与えてくれたわけで、この良書、いや奇書を読書家の方に是非お勧めしたい。


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