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図書館司書の短編小説紹介

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図書館司書として多く本を扱って来た中で、一人でも多くの方と楽しみや感動を共有したいと感じた短編小説を紹介しています。
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#短篇小説

「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介

「マッチ売りの少女」(講談社文芸文庫『性の根源へ』所収)野坂昭如著:図書館司書の短編小説紹介

 ホストに貢ぐために体を売ることを厭わない。
 そんな女性たちが新宿の大久保公園に、立ちんぼとして集まっているという。
 中には、月に百万円以上稼ぐ人もいるという。
 日本では、売買春が売春防止法という法律で禁じられているので、捕まれば罰金もあるし懲役もあるし前科も付く。
 でも、そういった方面に疎い自分でさえ知ることになったというのだから、もはや公然と売買春が行われているといっても過言ではないと

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「刺青」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

「刺青」谷崎潤一郎著:図書館司書の短編小説紹介

 誰も彼もが外見の美しさを求め、「すべて美しい者が強者であり、醜い者は弱者であった」時代の物語。
 美を追求するあまり、人は自らの肌に絵の具を注ぎ込むまでになった。つまり刺青だ。
 主人公の清吉は、腕ききの刺青師で、奇警(=奇抜)な構図と妖艶な線とで名を知られていた。
 そして彼は、客が肌に針を刺される時に呻き声を発するのを聞いて、「云い難き愉快」を感じる嗜虐趣味の持ち主だった。
 その清吉には、

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