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早く読めれば良いものでもない

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

先日、読書会にてもっと本を早く読めるようになりたいと語る参加者がいた。その人が普段どれくらいのペースで本を読んでいるかはわからないが、速読ができるようになりたいと考える人は多い。

もちろん私も早く読めることに越したことはない。ビジネス書ならば1日で読み終えることもあるが、小説はどうしても時間がかかってしまう。

速読に対するニーズ調査として、広島大学の森田愛子氏による「速読は有益か」*という論文を発見した。速読に対するニーズやイメージ、普段の読書傾向などを踏まえた調査研究である。

この調査結果によると、速読に対して興味や有益性を感じている人の約27%が小説を早く読めるようになりたいと回答し、期待する倍率は2.7、つまり現在のスピードの約3倍近い速度で読めるようになりたいという結果となった。

小説を速く読みたいと回答した人は,有益性を比較的高く評定しており,興味も高く評定している。したがって,「小説を速く読める」というスキル習得方法は,一定のニーズを持っていると考えられる。

同研究論文より抜粋

総務省統計局が提示している「書籍新刊点数と平均価格」によると、令和3年度の書籍新刊点数は総計69,052点、中でも文学は12,071点あるという。

とてもじゃないが、すべての本を読み終えるには時間がなさすぎる。

新刊も読みたいけれども、まだ読んでいない名作やおすすめの小説も読みたい。前に一度読んだ本でも、思い立ってまた読みたくなることだってある。

それなのに、このミステリーがおすすめ!本屋大賞受賞!20代の必読書!なんて並び立てられたら、ただでさえ溜まっている積読をいつまで経っても解消できない。

確かに、小説をもっと早く読めるようになれれば、今までより2倍、いや3倍物語を楽しめることになる。月30冊小説が読めれば、実家に置きっぱなしの本ですら解消できよう。

ただ面白いことに、早く読めれば良いわけでもなさそうである。小説の読書スピードに期待する倍率は2.7であり、10倍とか20倍を望まないという点だ。

速読に対して好意的なイメージを持っている人は、今まで以上に早く読みたいと思ってはいるけれども、人並み外れた速度は望んでいない。

仮に小説を1冊読み終えるのに10時間かかるとする。もし10倍速さで本が読めるようになったら、1時間で読めるようになるのだ。人によっては通勤時間中に1冊読み終えるのも可能ではあるまいか。

けれども、多くの人がそこまでのスピードで読むことを望んでいない。

無論回答した時にそこまで考えつかなかった可能性もあるかもしれないが、早ければ良いものでもないらしい。

あくまでも個人の解釈だが、読書体験を楽しんでいるからではなかろうか。

ちょうどミヒャエル・エンデの「モモ」岩波書店 (2005)を読んでいることもあってか、そうせかせかと時間を消費するものでもないのだなと思う。

人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。

ミヒャエル・エンデ「モモ」106頁より抜粋

おそらく、本を読む人も読書する時間が好きなのであって、その本を噛みしめて、味わいたいと少なからず考えているだろう。美味しい料理をゆっくり食べるように。

もっとも、早く読めるようになって、小説を1日2冊読めればもっと楽しめるという考え方もあるが、個人的には読み終えた後の読後感をもっと楽しみたいと思う。心に浮かんだ感想をもっと考えたい。

限られた時間だからこそ、より沢山楽しむのも大事。だが限られているからこそ、1冊に対してより味わうことも大事ではなかろうか。

とはいえ、私自身も1.5倍くらいは早く読めるようになりたいけれども。それではまた次回!

参考資料・論文
森田愛子『速読は有益か 速読に対するニーズの調査』読書科学 2015 年 56 巻 3-4 号 p. 113-123
総務省統計局『日本の統計 26- 5 書籍新刊点数と平均価格』令和5年3月 発行

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