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読書記録「ストーリー・セラー」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、有川浩さんの「ストーリー・セラー」幻冬舎 (2015) です!

有川浩「ストーリー・セラー」幻冬舎

・あらすじ
Side:A 医者から妻の病名は「致死性脳劣化症候群」と宣告された。思考に脳を使えば使うほど、彼女の脳は劣化していき、最終的には死に至ると。

普通に生活する分にはそれほど問題がないと、医者からは言われた。しかし、妻は作家であり、物語を紡ぐ人間であり、思考をしなくなるとは、作家として生きられないことを意味する。

同じデザイン会社の同僚だった彼女。ひょんなことから彼女が書いた作品を目撃してしまい、それがきっかけに彼女の書く作品と、そして彼女のことが気になりだす。ひと目見ただけで、彼女の作品に惚れ込んだ。

書いたものを賞に出してみたらと勧めたのは俺の方だ。彼女ならば、大きく羽ばたくことができるし、仮に落選したとしても、彼女を嫌いになる理由にはならない。

でも、今思うと、それが彼女がこんな結末を迎える分岐点だったんじゃないかって思う。


Side:B 病院から「ご主人が交通事故に遭ったのですぐこちらへ」と呼び出された。事故の手術は無事に済んだのだが、同時に悪性腫瘍も見つかった。

前回は作家である妻が死ぬ話を執筆したばかり。次は妻ではなく夫が死ぬ話が面白そうだと、彼と面白おかしく話したことのバチが当たったのだ。

同じデザイン会社の同僚だった彼。ひょんなことからあたしの書いた作品を彼が読んでいることを目撃して、それがきっかけに彼の感想と、何より彼のことが気になりだす。彼はプライベートだとこんな顔をするのか。

それから彼と結婚するのは自然な流れと思えた。彼はいつもあたしのことを優先してくれるし、生活のリズムも私に合わせてくれるし、少し可愛がりが過ぎるとも思っちゃう。

こんな日がいつまでも続くと思っていた。でも、浮かれていたあたしに、きっとバチが当たったんだ。


何度か読書会で有川浩さんの作品を聞いているうちに、最近潤いが足りていないなと、積読だった本著を紐解いた次第。

ロマンチストでありながら理屈っぽい物言いや、お互い大好き過ぎる関係性。甘味成分多めでありながら、ほろ苦さも感じる恋愛ストーリー。

ちくしょう――ここで引くところが、巧い!敵は渉外担当有望若手、乗せられているのかもしれないが、しかし。
『いいえ。嬉しかったです』
仕方ないじゃない、こう返したいんだから!

同著 164頁より抜粋

こういうシーンが良いのよね。有川浩さんの作品だからこそ吸収できる潤いもある。恋愛は付き合うまでが面白いなんていう説もあるが、有川浩さんの場合は付き合った後も面白いという個人的な感想。

何事もなく「二人はいつまでも幸せに」というのが一番かもしれない。結局のところ、幸せってのは健やかに、睦まじく生きられるものかもしれない。

少なくとも、悲劇なんて起きないほうが良いはずだ。

小説は、良くも悪くも絵空事である。生かすも殺すも、(なんらかの圧力がない限り)作家の自由である。

どんな困難や危機が起こっても、作家次第でハッピーエンドにすることもできる。

逆にどんなに幸せな夫婦やカップルだとしても、バットエンドにすることもできる。この作品のように、Side:Aでは妻が、Side:Bでは夫が亡くなる。

だけど、結末は死に向かう物語だとしても(死を最悪の結末と捉えるのは極端な話かもしれないが)、そこに至るまでの物語はいくらでも書き換えることができる。

あたしは作家だ。物語を商う作家だ。
あたしの商う物語は絵空事だ。絵空事だ。単なる夢だ。
夢なら不幸は逆夢だ。――それなら。
こんなことはあたしが逆夢にしてやる。

同著 215頁より抜粋

つらい状況だからこそ、別れるという結末を迎えることもできるし、お互いに支え合って生きていくという物語にだってできる。

どっちが正しいとかではないが、少なくとも、有川浩さんの作品を読むと、共に歩いていくことの尊さを感じる。

乾いていた心が、少し潤った気がする。それではまた次回!

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