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道路点検AIは、道路メンテナンスで頼りになる相棒

今回のテーマは、“AI道路点検”です。

まず、“AI”という言葉については、多くの人がご存知かと思います。

ビジネスの世界ではDXに匹敵するバズワード。ソフトバンクの孫正義社長が、「ソフトバンク・ビジョン・ファンドはAI革命への投資会社になる。」と言うくらい力を入れている領域です。

実際に私がソフトバンク・ビジョン・ファンドで働いていた当時も、AIはかなり流行しており、投資家からの出資を受けたいスタートアップ企業のピッチ(プレゼン)には、”AI”がかなり高い確率で含まれていました。一方で、それって本当にAIなの?と疑問に思うケースも正直ありました。

AIってそもそも何なのでしょうか。何となく聞いたことはあるものの、具体的にどんなことができるかは知らない、という人が多いのではないでしょうか。

少し話が逸れますが、私自身、AIのことをもっと深く知りたいと思うようになり、AIの背景にある数学・情報理論や手法・モデル、それらを実装するためのプログラミング言語について、改めて学び直してみました。

私の場合は、JDLA(日本ディープラーニング協会)のE資格(AIエンジニア向けの資格)の受験を通じて勉強を行いました。一応、先日試験を受けて合格しましたが、想像以上に大変でした…。でも、非常に良い勉強になりました。AIはとってもおもしろいテクノロジーなので、何か新しいことを学んでみたいと思っている人がいたら、オススメです!

話を戻すと、”AI”には、さまざまな手法・モデル、そして用途があります。

大きく手法を分けると、機械学習(マシンラーニング)、深層学習(ディープラーニング)、強化学習があり、例えば深層学習の中には、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)、GAN(敵対的生成ネットワーク)など、いくつかの手法があります。

さらに、例えばCNNという1つの手法の中にも、AlexNet、GoogLeNet、ResNet、MobileNetなど、性能の異なるさまざまなモデルがあります。世界中でものすごいスピードで研究が進められており、新たな研究論文やモデルがどんどん出てくるので、きちんとアンテナを張っておかないと、せっかく資格を取っても、一瞬で取り残されてしまいそうなレベルです。泣

一方で、AIの用途やユースケース(AIが解くタスク)としては、シンプルな数値データに基づく予測・分類、画像データに基づく画像認識・物体検出・画像生成、テキストデータに基づく自然言語処理、音声データに基づく異常検知など、AIがさまざまなタスクを解けるようになっています。

そもそも、デジタル化された“データ”が無いことにはAIは何もできない、という点が1つのポイントだと思いますが、金融、小売、製造など、IT化やデジタル化が進展し、データを蓄積してきた(蓄積しやすい)業界を中心に、世の中のあらゆる産業において活用が進んでいます。

それでは、建設業界においては、どうでしょうか。建設業界はとても裾野の広い産業であり、たった1回のnoteでは説明しきれないくらい、AIには多くの可能性があると思っています。

そこでまず今回は、土木分野におけるAIの活用状況と、その活用先の1つである“AI道路点検”というテーマに絞って、ご紹介させていただきます。

土木分野におけるAIの活用

近年、土木分野において、AIの研究開発が盛んに進められています。

土木学会では、AI活用に関する委員会が新しく立ち上げられ、取り組みが加速しています。投稿論文を拝見すると、土木インフラの維持管理における調査・診断にAIを活用するという研究テーマが多く見られます。
(※ちなみに、論文はWeb上で読むことができます)

また、内閣府が率いる戦略的イノベーションプログラム(SIP)や、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)においても、同様のテーマが多く見られます。

その他に、洪水時の河川水位を予測するAIなど、防災・減災のためにAIを活用する動きも見られますが、現段階では、インフラ維持管理を目的としたものがもっとも多いと思います。

意識的に目を向けないとなかなか気づかないものですが、私たちはさまざまな土木インフラに囲まれて生活をしています。道路、橋梁、トンネル、下水道、公園など、日本国内には、先人たちがこれまで築きあげてきた土木インフラが、もの凄い数で存在しています。

残念ながら、土木インフラは人間と同じで不死身ではないので、老朽化に対する適切な処置や維持管理が必要なのですが、一方で、建設業界全体の就労人口がどんどん減っているため、人手が不足する中でどのように効率的・効果的な維持管理を実現していくか、ということが業界全体の大きな課題となっています。

このような社会的背景を踏まえると、これまで人手で行っていた調査・診断作業にAIを活用して効率化する、というのはとてもシンプルな動機ですし、調査・診断のような画像情報に基づく解析的な作業や、データが大量にある場合の繰り返し的な作業は、AIのほうが人間より得意なため、AIが活躍できる余地が多く存在すると思います。

そして現段階では、道路・橋梁やコンクリート構造物の損傷箇所の検出、鋼材の腐食箇所の判別など、画像認識や物体検出を行うAIが、土木分野で最もホットなテーマです

もちろんまだまだ研究開発段階の技術も多いとは思いますが、早期の実用化が期待されます。

AI道路点検とは?

そんな中、AI道路点検とは、AIの物体検出技術を用いて、道路の点検にAIを活用するというものです

スマートフォンのカメラ等を使って道路の路面状況を動画撮影すると、AIがその画像データに基づいて道路のひび割れやポットホール(穴ぼこ)などの損傷を検出してくれる、といったかたちです。さらに、インターネットに繋げれば、AIが検出した損傷箇所の情報をクラウド上に一覧化することも可能です。

地域建設業おいて、従来の道路点検は、“目視”が基本的な方法であり、自治体の職員が車で道路を走りながら損傷を目視で把握し、それをメモに書き残すというかたちでした。とても労働集約的な方法のため、人手が不足している自治体では、定期的な点検は行っていないのが実情かもしれません。

目視以外の別の方法として、高速道路会社が行っているような、GIS(地理情報システム)、レーザースキャナや3次元点群データ(簡単に言うと3Dデータ)といった最先端技術をフル活用した3D点検もありますが、高額な点検専用車両を用意する必要があり、地域のインフラ維持管理においては、コストメリットを出すことが難しいのが正直なところ。

それに対して、道路点検AIは、アプリをインストールすればすぐに使えて、費用対効果を出しやすく、地方自治体においても、効率的・効果的な点検を実現し得るソリューションだと思っています。

道路点検AIは、ニチレキ×NTTコムウェア、福田道路×NECなど、建設会社とAI開発会社がタッグを組むかたちで、共同開発が進んでいます。

そのような中、当社は、東大関連ベンチャーで同技術を開発するアーバンエックステクノロジーズ社のプロダクトをトライアルさせていただきました

アーバンエックスの前田社長は、東京大学生産技術研究所の関本研究室にてベースとなる技術を開発されており、関本准教授も取締役として同社の事業を主導されています。

また、会社設立が2020年と、できたてほやほやの会社ですが、同社の研究開発プロジェクトがIPA未踏アドバンスト事業に採択されたり、NVIDIAのパートナー企業に認定されたり、三井住友海上と実証実験を行ったりなどなど、高い技術力無しには実現できないような素晴らしい話題が盛りだくさんで、将来がとても楽しみなスタートアップです!

地域建設業の何がおもしろくなる?

ここで、地域におけるインフラ維持管理の現状について触れてみます。

市区町村に無数に存在する土木インフラの維持管理は、地域建設業ならではの仕事であり、市町村などの自治体が、日々パトロールや維持管理業務にあたり、当社のような地域建設企業が、自治体からの発注を受けて施工を担っています。

維持管理業務の中には、①災害復旧、②維持、③修繕、の大きく3つの業務が存在します。対応方針として、①災害復旧は有無を言わず緊急で応急復旧を行い、また、②維持については簡単な作業であるものの比較的緊急性が高いものが多く、問題が生じれば都度対応していきます。一方で、③修繕については、優先順位を判断して対応していくものになります。

そして、③修繕には、大きく2つのタイプが存在します。

1つめは、一定区間に渡る全体的な修繕で、幹線道路などの主要なインフラが主な対象です。これらは、事前に入念な点検や診断を行い、修繕計画に基づいて工事が行われています。工期も数か月にわたり、工事の発注も入札によって行われます。

一方で2つめは、各所に点在するような部分的で小規模な修繕。こちらは、生活道路や自宅周辺で主に発生し、住民からの要望に基づき、緊急性や優先性を都度判断して実施しています。そして、市町村では、そのような小規模な修繕に関する要望が非常に多く寄せられ、対応に追われています

具体的には、年間1,000件を超える要望、つまり、インフラの局所的な問題が市内の至る所で発生しており、市役所の職員や市内の施工会社がともに、他工事案件を兼務しながら、予算制約や人員制約を抱える中で、何とかマンパワーで対応している状況です。

そんなとき、道路の維持管理については、住民要望に基づく事後的な対応ではなく、AI道路点検によって道路の損傷状況を事前に把握しておくことができれば、もっと効率的で効果的な対応ができると考えています。

道路点検AIなら、今まで面倒で大変だったものが楽になるはず。パトロールの際に目視よりも人手の工数を減らせますし、何より、損傷箇所を即座にデータベース化できるのが大きいと思います。オフィスに戻って紙やエクセルに記録するのでは、そこでまた多くの作業時間が取られてしまいますよね。時間がたくさん取られることが分かっていたら、そもそもパトロールすること自体が嫌いになりそうです。

また、損傷箇所を先んじて把握しデータベース化しておくことは、修繕工事を優先順位付けしたり、適切な工事管理を行っていくうえで、とても重要なことだと思います。

そして、トライアルを通じて、そのような点だけでなく、維持管理の仕事がおもしろくなる、という効果も期待できると感じました。

トライアルの感想

まず第一に、操作がめちゃくちゃ簡単です。車のダッシュボードにスマホを取り付け、アプリを起動してスタートボタンを押すだけです。

建設業界にも色んなICT関連製品が出ているものの、最初のうちは操作が結構難しくて、それが普及の足枷になっていたりするのですが、道路点検AIは超シンプルです。

そして、運転しながら、”あ、あそこひび割れ酷いな…”とか思っていると、実際にスマホのアプリ画面で、AIが損傷箇所を緑色の枠で囲い、きちんと検出してくれます。

緑色の枠で検出された損傷候補の中から、サーバー側で損傷かどうかを最終判断するという仕組みのようなのですが、運転中にどんどん検出してくれて、そしてそれが目視の感覚とマッチしていて安心感もあり、何だかおもしろくなってきます。オフィスに戻れば、専用Webサイトで、結果をすぐ確認することができます(もちろん、AIに誤判定があれば修正もできます)。

やはり、効率性も大事だけれど、仕事が楽しくなる仕掛けってとても大事。そういう意味では、良い意味でのゲーム感覚というか、業務の相棒として愛着の湧くAIだと思います

これから世の中にどう普及していくかという点で、1点だけ悩ましいのは、建設会社の立場からすると、パトロール業務は基本的に自治体側の仕事のため、建設会社側では道路点検AIが宝の持ち腐れになってしまいがちな点です。最近では自治体によっては、パトロールも含めた維持管理業務の包括的委託というケースも見られますが、それはAI道路点検の普及とは次元の異なる課題があります。

アーバンエックステクノロジーのプロダクトは、千葉県千葉市、石川県加賀市など、既に複数の自治体に導入されているようです。まずは、日本国内の多くの自治体において、このAI道路点検が普及することを期待しています。むしろ、普及に向けた働きかけをしていきたいと思っています。

今回は内容が少し長くなってしまいました。今後も適宜、AIに関するトピックを紹介していきたいと思います。最後までお読みいただきまして、どうもありがとうございました。


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