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彼女に内緒でミスコンに応募してみたらなぜか笑いの神様が降りてきた

大学4年生のときに付き合っていた彼女がいた。

彼女は僕と同じアルバイト先に勤めていて、僕はシルクスクリーンの型枠づくり、彼女は同じ事務所の2階で型製作のトレースの仕事をしていた。

まだ、二人が付き合い始めてそれほど経っていないときだった。


京都きもの組合主催、
浴衣クイーンコンテストを開催します。


という告知のポスターが事務所に貼られているのが目に入った。

「そういえば、彼女。芸術系の短大を出て、着物の絵付けの仕事をした経験もあって、この会社にトレーサーとして転職してきたんだったよな。」

と、思いながら、さらにポスターを見ていると、ある文字のところで目が留まった。

『自薦、他薦を問わず。』

さらに、
『書類審査通過の参加者全員に浴衣を贈呈します。』
『書類審査通過者は鴨川夏祭りの会場で最終審査を行います。』

彼女と初めての夏。
運が良ければ、浴衣姿の彼女といっしょに夏祭りデートだ。

と、彼女に内緒で、応募書類を作り始めた。

ただ、困ったのは、審査用の写真。

付き合い始めて間もないため、そんなに写真を撮っていない。
だからといって、いきなり決めポーズの写真を撮らせてください。というのも、キモいといってフラれるかもしれない。

しかたがないので、手持ちの数少ない写真の中から2,3枚を選んでとりあえず送ってみた。

それが、なんと書類審査通過。

マジで?。。

彼女に伝えないと。

ちなみに彼女、大の人見知り。人と話すのが苦手なので、アルバイトですら、接客業は避けて、工場とかを選ぶくらいだ。OKしてくれるだろうか?

書類審査通過の連絡を受け取ってからしばらく考えあぐねた結果、正面突破でお願いしてみたところ、意外とあっさりOKしてくれた。

のんびりした性格の彼女。

後から思うに、何かを事前に深刻に考えるということがないため、コンテストの本番について、とくに何も考えていなかったようだ。
そういうところ、僕と似ている。


そして、夏祭り当日。

彼女と一緒に浴衣クイーンコンテスト参加者の集合場所に向かい、入り口で別れて、待っていると、しばらくして、悲壮な顔をした彼女が飛び出してきた。

今から、私服審査があるんだって! ステージの上で!!

そのときの彼女の姿。ショートパンツに白いポロシャツ。

どちらかというと、私服というより、部屋着に近い。

彼女さん、ほんとうにごめんなさい。
僕が勝手に応募しちゃったばっかりに。

そういう事態も想定して、きちんとした服装で来るべきだったよね。
っていうか、いくら浴衣もらえるからって、これって一応デートだよね?

そして、何の手を打つ時間もなく、私服審査。

恥ずかしそうにショートパンツでステージに上がる彼女とそれを申しわけなさげに見守る僕。


アクシデントはあったが、このステージを終えれば、浴衣に着替えての最終審査だ。そして、最終審査までの間、浴衣姿の彼女とデートだ。


そこに、次の試練がやってきた。


コンテスト参加者は、この後の最終審査まで、それぞれ夜店の屋台をお手伝いしてもらいます。

いやいや、それ聞いてないって。彼女、人見知りするんですけど。

ところがである。

運のよかったことに、彼女が手伝う夜店は、アルバイト先のシルクスクリーン会社のスタッフが運営するフランクフルト屋さん。

アルバイト先の会社も組合員だったので、主催者さんが気を利かしてくれたみたい。
おかげで人見知りする彼女も会社の同僚と、楽しく夜店を切り盛りしていて、見ているだけでほほえましい。

ほほえましい? 

夜店をいっしょに見て回るはずが、なんで彼女が夜店の中にいるんだ?

こうして、理不尽にも、浴衣デートのチャンスを失った僕。。


なんか、いろんな番狂わせがあったものの、いよいよ、最終審査だ。

ここで僕は再び不安になった。

他のエントリーした女性たちは、歌やダンス、中には浪曲を披露する人もいるが、彼女にそんな特技があったっけ?

今さらながら、本当に申し訳ない気持ちになってきた。
浴衣デートができないばかりか、彼女に心苦しい思いをさせてしまったのではないだろうか。
内緒で応募したことに後悔している僕の耳に、彼女のエントリーナンバーを告げる声が響いた。

エントリーナンバー17番。〇〇さん、どうぞ。

舞台の中央に進み出る彼女。

そして、彼女が発した言葉がこれだ。

『みなさん、歌とかダンス。すごいですね! 私は何もできないのですが、このコンテストのために着物屋さんに襦袢を買いに行ったとき、店員の方が私を見て、きれいなうなじですね。って言ってくれたんです。』

『だから、今日は、何もできないですが、私のうなじをお見せします。』

といって、振り向きざまに、彼女のうなじを見せた。


そう。浴衣クイーンコンテストの最終審査でうなじを見せたのだ。


一瞬、会場の空気が固まった。

そして、すぐ横を流れる鴨川の流れも一瞬止まった。

かのように僕には思えた。

ところが、次の瞬間。

会場がどよめいた。


ウケてる。 とんでもなくウケている。


今まで、ミスコンでうなじひとつで勝負に出た参加者がいたであろうか。

そのとき、僕はとんでもない女性を彼女にしたことに気付いたのだ。


そして一通り、全参加者の芸の披露が終わった後、浴衣クイーングランプリの発表だ。


勘のいい読者の方は気付いたかもしれませんね。

彼女が浴衣クイーングランプリに選ばれました。


ここは、R-1か、THE Wか、IPPONの審査会場か?


心配になって、最前列から後ろを振り返った僕の目に映ったのは、はち切れんばかりに拍手する会場のみなさんの満足げな顔。

僕は安心した。安心したと同時に、誇らしい気持ちが頭をもたげた。

『舞台の真ん中でトロフィーを抱えている彼女!僕の彼女なんです!』

と大声で叫びたい僕の耳に、舞台上のスピーカー越しに届いた司会者と彼女との短い会話。


司会:『浴衣クイーングランプリ、おめでとうございます!』
   『今日はどなたとお越しですか?』

彼女:『友達ときました。』

僕: 『...』

あとで彼女に問いただすと、
彼女:『あの場で彼氏と来ましたっていうと、興ざめかなって思って。』


浴衣クイーングランプリの審査にはほんの少しばかり疑問が残ったが、審査員はさすがだったと今となって、つくづく思う。

四半世紀が過ぎた今も、彼女は家の中で、クイーンの座に君臨しているのだから。


あの夏祭りから半年後、僕の大学卒業を待って、彼女と結婚しました。
今も人見知りは相変わらずですが、彼女のお笑いのセンスはグランプリ級です。


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