シナリオ【 HERO 】
この雨はいつまで続くのか…朝めざめるたびに疑問がよぎり、寸前に見た夢が現実になる。繰り返される悲劇を防ぐために彼は立ち上がる。
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●地方都市・遠景(朝)
強い雨が降っている。
●雨樋
雨水が流れ切らず溢れている。強い雨音。その奥からスマートフォンのアラームが聞こえ、
●スマートフォン
アラームと共にバイブレーションが作動している。男の手がとめる。
●佐山家・和樹の部屋
主人公の佐山和樹(24)がベッドで顔をしかめる。
N「(和樹の声)あーいつまで降ってんだよ雨」
●洗面所
妹の愛里(16)が高校の制服で来て歯ブラシを取ろうとするが和樹が顔を洗っていて、
愛里「もう邪魔」
和樹「(無反応で洗顔を続ける)」
●ダイニング
母親が和樹の朝食を並べている。和樹は寝ぼけた顔のままテレビをリモコンでザッピング。
母「5分早く目覚ましかけたってその分ボンヤリしてんじゃ意味ないでしょ。早く食べなさい。また遅刻よ」
愛里「(雨合羽姿で走って通過し)いってきます」
母「自転車?」
愛里の声「バスなんて来ないよこの雨じゃ」
母「危ないでしょ。バスにしなさい(と玄関へ。声小さくなる)」
愛里の声「だからそれで遅刻したって言ったじゃん昨日」
母の声「母さん車で送ってあげるから」
愛里の声「いいよ私は。早く会社行かせなよ。いってきます」
母の声「もう、気をつけるのよ」
N「(遠くなった母親と愛里の会話にかぶせ)はぁ。やっと静かになった」
テレビが天気予報に変わる。
気象予報士のおじさん「よく降りますねぇ。3日間も降りっぱなしというのはこれまでなかった記録的なことで」
和樹、テレビを見ている。
N「3日じゃきかんだろ。1週間ぐらい降ってんじゃねーか?」
気象予報士の声「地盤が緩んでますので土砂災害への十分な警戒が必要になります」
テレビをぼんやり見ている和樹の前にドンとご飯の碗が置かれ、
母「早く食べなさい。会社クビになっちゃうよ!」
●佐山家・表
ワイシャツネクタイ姿で肩掛けのカバンを下げた和樹が玄関から出てくる。傘をさして道路へ。
N「別にね、クビになったっていいんだ。なんもおもしーことない」
●和樹の営業活動・モンタージュ
まがい物のキャラクターグッズを文具店や雑貨店にセールスしている。どこに行っても頭を下げている。
N「あってもなくてもいいような仕事で。いやむしろない方がいい。人口増えすぎてムリクリこさえたような仕事だよ。毎日毎日ウンザリしてんだ」
●駅・改札口
和樹が自動改札を入る。そばにホームの中を窺っている津川美知(32)がいるが和樹は気にしない。
N「(直結で)前にやってた牛丼屋のバイトの方がずっといい。まだ役に立ってた」
●電車内
ドアがあく。ホームから和樹が乗車。入ってすぐの席に座る。
N「こんな生活するために生まれてきたんじゃねーよ。彼女はできねーし。4年もいねーし」
●ホーム
発車した電車が雨の中に進んでいく。
●走る電車内
席で揺られている和樹が一方に目をとめる。
ランドセルをしょった小学生、津川真斗(6)がいる。開襟シャツと半ズボン。背を向けてドアの窓から外を見ている。その横顔に、
N「このぐらいの頃は可能性のかたまりだな。なんにでもなれそうな気がする」
和樹、見ていて何かに気づく。
N「あれ? この子はこの電車でよく見かけるな。前もこんな向きで――いや待てよ。あの制服は私立小の。学校は逆方向だ。なんでこの電車に? 乗ってる? おかしい。て言うか俺がよく見かけたってのもおかしい」
和樹、思い出そうとすると電車が大きく揺れる。
真斗がふらつき、さらに急ブレーキがかかって和樹の前に倒れ込む。
和樹がやはり急ブレーキでバランスを崩すなか真斗を抱きとめ床に手をつき、次の瞬間大きな衝撃で転がる。宙に浮く。
●佐山家・和樹の部屋
和樹がベッドでビクッと目を覚ます。
●地方都市・遠景(朝)
相変わらず強い雨が降っている。
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