katagiri‐project
世紀末の福岡市を舞台とした仕組まれた物語「福岡ファイト!」
『アタシはいまから語ろうと思う。 福岡市を守って人知れず戦った、11人のフツーの男たちの物語を。 彼らは、ヒーローというには、ちょっと無理がある、頼りない、でもすごく優しい男たちだった。 『敵』は悪意。ひとの心に棲まう闇。 アタシたちの武器はアリバ。心の力、アリバ。 アタシたちは、アタシたちの中にある、勇気を、愛を、信念を、夢を、希望を、優しさを、正義を、努力を、矜持を信じて、大切に育んで、力に変えて、悪意と戦った。 そしてもちろん、友情を信じて。 「
クリハラ10番勝負とかいう、くそメンドくさいのが、やっと終わった……。 いきなり撃たれたクリハラも結局無事で、ハヤトさんやナミさん、シンジローや他の仲間たちも、和気あいあいとしたムードになっている。 そんな雰囲気に嫌気がさし、俺は、高宮八幡宮の裏手にひとりポツンと居た……。 ヤギハラに続いて、クリハラまで強くなってしまった……。あいつらはこっち側だと思っていたのに……。 「………………………………」 「カムラー」 「ば、ばっか! いきなり話しかけるなっつー
「く、クリハラアアアアアァァァァァーーーーーーーーー!!!」 コミネさんが絶叫する。 心臓のあたりに灼けた鉄の棒をねじ込まれたみたいだ……。 致命傷だ、と自分でもわかった。 凄惨にいじめられた中学時代、おれは何度も何度も死にたいと思った。だけど、実際にその瞬間が訪れたとき、おれは心の底から思った……。 死にたく……ない。 「……おねがいっ……間に合って……!」 必死な形相のナミさんが、おれの傷口に手のひらをかざしている。 ぼんやりとだが、意識
不敵な笑みを浮かべ、悠然とおれを見つめるハヤトさん……。 そのまわりに、数人の人影が駆け寄った。 「は、ハヤトー」 「ハヤトさん……」 「あ、アニチぃ。大丈夫なのかよお……」 「ハヤト……クリハラくんのアリバはどんどん高まってる……このままだと、真のアリバに目覚めるよ」 「……ヘッ。そいつは結構じゃねーか」 「聞いて! ボクのアリバが戻りつつある! つまり、ハヤトに宿っているチカラはもう消えはじめて……」 ナミさんが鋭い声を出すが、そのあとは小声で聞
仲間全員とのガチ・スパーリング『クリハラ10番勝負』…… 五人と戦い、0勝5敗と全敗だ……。おまけにここから先は、クリハラ・ランキングAランク以上の強者との戦い……。 「クリハラくん。いい調子だよ。クリハラくんのアリバ、どんどん高まってきてる」 インターバル。回復ドリンクを差し出してくれながら、ナミさんが言った。 「……いい調子? だっておれ、無様に負けてばかりで……」 「負けて得られるものだってきっとある。失礼な言い方に聞こえたらゴメン。でも、とくにクリ
―― 福岡ファイターフルメンバーに、ナミさんササハラさんを加えた総勢13人が、高宮八幡宮の境内に集まっていた。 「……戦う順はクリハラがそのつど指定。そして、審判はこのコミネがつとめさせてもらう。以上だ」 「……………………」 おれは、コミネさんの説明を遠くに聞きながら、もくもくとアップする。 いよいよだ。おれと仲間全員との、ガチンコスパーリング『クリハラ10番勝負』……。 「クリハラ……」 目を上げると心配そうなシンジローが居た。 「……おまえ、い
夏の鴻ノ巣山の朝だ。 空気は清々しいが、あいにく、朝の散歩としゃれこむ気分にはならないぜ……。 「……なあ、ナミ。アイツ、本当に来るのか?」 「……わかんない。一応、打診はしてみたけど、彼の行動は、教団上層部でもはかりかねているから……」 クリハラの野郎が突然【クリハラ10番勝負】とか言い出した翌日。 俺とナミは、鴻ノ巣山に来ていた。どうしても、会わなければならないヤツが居るからだ。 「……ったく。だいたい、アイツ、なにモンなんだよ」 「………………
血のように赤い空。 影絵のような黒い木。 あちこちで反響する嘲笑。 火のついたライターが、クリハラ・メモに近づけられていく……。 『や、やめろっ!』 『その口のきき方はなんだって聞いてんだろおがよォ? やめて欲しかったら、やめてくださいだろうがっ』 『や、やめて……ください……』 『チッ……なさけねーヤツ』 「やめて欲しかったら、これに顔つけて土下座しろや」 犬のフンを指差し、男がおれに命じた。 おれは、悔しさと情けなさで嗚咽しながら、言わ
……また夢を見ていた。 今度は夢だとすぐわかった。その邪悪な女の顔を見て……。 「……クリハラクン。話ってなあに? こんなところに呼び出したりして……」 「は、ハズキさん!」 ……やめろクリハラ。それ以上話すな! その女は、おまえが思っていたような女じゃないんだ! ……今のおれはそう叫ぶが、中学生のおれに、その叫びは聞こえない。 「は、ハズキさんも、ちっ、筑紫丘高校に、受験するって聞いて、その…………いっしょに、勉強とかできたら……いいな、って思っ
……また中学時代の悪夢を見た。久しぶりにあいつの顔を見たせいだろう。 おれをさんざんイジメたあの男……。 母子家庭の冴えない中学生から、いろいろなものを奪った恵まれた男……。 『クリリンよお』 いじめグループのリーダーであるその男は邪悪な笑顔で言った。 『いつもお前の弁当捨てちまって悪ィと思ってさ。今日は俺が特別に弁当作ってきてやったんだ。ホレ』 教室のおれの机の上に、異臭を放つ汚物が置かれる。 クラス中に、好奇と嫌悪と嘲笑が走る。 『ほら。食え
「はい」 「…………はいって、母さん……なにこれ?」 サユリとのゲーム騒動が終わった夜。 家に帰るなり、意味深な笑顔で近づいてきた母さんが、俺の手にそっと五千円札を握らせてきた。 「なにって、軍資金よ。ぐ・ん・し・き・ん」 「軍資金? なんの?」 「今日は大池公園の花火大会でしょ? ナミちゃんや高校生の子たちにゴチソウしてあげなさいよ」 「あ。今日だっけ……」 福岡市の晩夏の風物詩【大池公園夏祭り】。毎年必ず行くんだが、今年は悪意との戦いに明け暮れて
……ずっと、強いって、なにかわからなかった。 そして憧れていた。 俺から見て強いと感じる人間に惹かれたのも、それが理由かもしれない。 ハヤト。 ササハラ。 そして……サユリ。 初めてサユリと出会ったときのことは鮮烈に覚えている。 二つ年下のサユリは、高校生の頃からアーチェリーでならし、東西大学に進学が決まったあとも、期待のホープとして部に迎えられた。 「悪いけど、自分、馴れ合うつもりないんで。ていうか、今のままじゃ、ワタシも、みなさんも、東
YANO 『お、俺がやるのかよお……』 「そんな話、勝手に……!」 「開始前に確認したはずだ。プレイアブルキャラクターは福岡ファイターと。ヤノもれっきとした福岡ファイター。参加資格がないとは言わせん。そして、私は参謀として好きにしていいと言われた。だから、操作をやらせてもらう……ルールにはまったく抵触していないと思うが?」 「そんなのズルい! 卑怯ものっ!」 「いいことを教えてやろう。ズルい卑怯は敗者のタワゴトだ」 「くううううううう! ハラ立つ!!」 なんだ
―― サユリの挑戦状【QUEEN OF FIGHTER 9X】―― 激闘の末、残る味方は電波のヨシオただひとり…… だが、敵は、まだ四人も残っている! これはもう、ダメかもしれん……。 弱気にササハラをうかがうと、口元に不敵な笑みを浮かべていた。 「ササハラ、おまえまだあきらめてないのかよお……?」 「諦める? まさか。ようやく盛り上がってきたところだろう」 ……まったく。コイツといい、ハヤトといい、こういう局面で絶対に勝負をあきらめない連中のメンタ
ハヤトの解毒剤を賭けたリアル格闘ゲーム……【QUEEN OF FIGHTER 9X】……。 サユリの操る悪意ファイターは二人倒したものの、福岡ファイターもすでに四人やられ、旗色は悪い……。 そして、炎属性であるシンジローを選択したあと、サユリが出してきたのは、見るからに強そうな氷属性の悪意だった。 「ヤノ……相手の悪意だが、実は見覚えがある」 「ええ?」 「私の筑紫丘高校の後輩で、直接の面識はないが、有名な生徒だ。10年にひとりと言われる逸材の天才ボクサ
「げ、ゲームだとお?」 「そう! 悪意になって、故障していた腕は治った! あとはヤノくん、アナタとの関係の決着だけ。だから、ワタシとアナタで、勝負がしたい!」 そういえば、アーチェリー以外でたったひとつ、サユリが好きなものがあった。 対戦格闘ゲーム……。 「どういうゲームだ?」 ニヤリと笑ったサユリが指を鳴らすと、地震のような地響きがして、動物園の敷地内に、とつぜん妙な舞台がせり上がってきた……! それは円形の闘技場。まるでジャンプの大人気漫画に出てく