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10-6 異形


YANO

キャラ (9)

『お、俺がやるのかよお……』



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「そんな話、勝手に……!」


キャラ (11)

「開始前に確認したはずだ。プレイアブルキャラクターは福岡ファイターと。ヤノもれっきとした福岡ファイター。参加資格がないとは言わせん。そして、私は参謀として好きにしていいと言われた。だから、操作をやらせてもらう……ルールにはまったく抵触していないと思うが?」


e_47_boss_サユリ

「そんなのズルい! 卑怯ものっ!」


ササー

「いいことを教えてやろう。ズルい卑怯は敗者のタワゴトだ」


「くううううううう! ハラ立つ!!」

 なんだかよくわからんが、ササハラはサユリを完璧に言い負かしたようだった。

 俺は、ササハラから受け取ったヘッドギアをかぶり、武闘場へ進む。


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「まあいいわ……いまさらヤノくんひとりがどうだって言うの!? それとも、ヤノくん相手なら、ワタシが手加減するとでも?」


キャラ (11)

「……しないだろうな。だがそれはこちらも同じこと。私が操作するヤノは、優しくないぞ」


 ササハラの糸目がギラリと光る……。この雰囲気……この顔……格ゲーのとき何度も見た……本気のササハラ。

 こんな顔をしたときのササハラは、手がつけられなかったものだぞお……。


ROUND FIGHT!


 流されるまま、武闘場で敵と相対。

 悪意との戦いは慣れているが、こうして舞台で敵と一対一に向き合うと、正直、怖い……。

 だが、ガチガチに緊張しているはずの俺の身体が、いきなり軽やかに動いた!


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 ぐん、と敵に背中を向けるくらいに身体がねじ曲げられる。

 みちり、と拳が握られた。

 ぐぐぐぐ、と全身の筋肉がはち切れんばかりに膨張する。

 腕が、一升瓶のように肥大化していた。

 フッとそれが一瞬軽くなった。俺の身体は、巨大なバネ仕掛けのように勢いよく回転し、発射された大砲のごとく拳が撃ち出された!

 ドッコオオオオオオオオンンンン!!!

 武闘場に氷雪の嵐が巻き上がる。

 それが晴れると、悪意ライフセーバーは、武闘場に頭からめり込んでプスプス煙を出していた。

YANO Win!

キャラ (9)

『わ、ワンパンKO……? なにがどうなってんだよお』


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「な、な、な、な、な、な……」


 サユリが口をパクパク。 

「なんじゃコリャーーーーーーー」

 こ、これは……俺のレベル3必殺技【魔神のハンマー】!


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ナミによると、当たれば痛烈な大打撃を与えるが、命中率が悪く、使いこなすのは至難という大技……。事実、ふだんの悪意との戦いでは、うまく当てられず、空振りばかりだった……。

 ササハラが使いこなすと、こんなに強力なのかよお……!


キャラ (11)

「まずはひとつ」


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「………………………………」


 サユリがギリッと歯噛みする。


ササー

「どうした? ヤノの本気に驚いたか? だいたいお前はヤノのカノジョだったのだろう。最大の理解者であるべきなのに、過小評価しすぎだ」


e_47_boss_サユリ

「だまれだまれだまれ!」


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 サユリが次の悪意ファイターを出す。日焼けした氷属性のサーファーだ。

 ROUND開始そうそう、サーファーはうつ伏せの姿勢で、冷気の波に乗りながら、突っ込んできた。

 ササハラはガード。この速攻……嫌な予感が頭をよぎる!


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「ヤノくん相手には使いたくなかったけどね……!」


 まさかまた投げハメっ……!?

 思った通り、敵サーファーは俺の身体をガシッとつかみ、倒そうとしてきた。


キャラ (11)

「甘い」


 ササハラの目がキラーンと光る。

 俺の身体が勝手に動き、サーファーの顔面を引っつかむと、ワシづかみしたまま、ブンブン振り回し、おもむろに投げ捨てた!


e_47_boss_サユリ

「ウソ! 投げ返し!?」


キャラ (11)

「当然だ。ヤノの握力は推定300キロ以上。そんな筋力の持ち主に投げなんて効くか」


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「く、くっ! もう一度!」


 再びサーファーが突っ込んでくる! ガード! サユリはまたも投げハメを仕掛けてくる!

 だが、結果は同じだった。

 俺は、自分からむしり取るようにサーファーの身体を引っつかみ、軽々と振りまわした挙げ句、空き缶でも捨てるように放り投げた。

 サーファーは人間魚雷のように飛んでいき、キランと星になった……。

YANO Win!

キャラ (9)

『お、おいおい……あのサーファー大丈夫なのかよお……』


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「こ、こ、こ、こ、こ、こ……」


キャラ (11)

「これでふたつ」


「こんなことってええええええ!!」


ササー

「これが本気のヤノだ。人間離れした腕力を持つ反面、ヤノには常に相手を気遣うこころの優しさがあった。それが足かせとなり、真価を発揮できずにいたのだ。優しくない私が使えば、ご覧の通り」


e_47_boss_サユリ

「ぐぎぎぎぎぎぎ」


「これが我らの奥の手だ」

「ま、まさか……電波使いはブラフ!?」

 ササハラがニヤリと笑う。


ササー

「今さら気づいても遅い。こっちは最初からヤノが切り札だった。ヤノを止めるには、有利な風属性を強引にぶつけるしかないが、もう風のカードは残っていまい。その瞬間、詰みだったのだ。もっと言うなら、最初に風のヤギハラをこちらが出したとき、このゲームの筋道はほぼ決した」


e_47_boss_サユリ

「………………………………」


「お前が勝ちに走り、こっちに有利な属性をぶつけてくることは読めていた。つまり、どう攻め、どう動いてくるか、事前に予想できたということだ。ならば、戦略を練るのは容易い」

「………………………………」


キャラ (11)

「……これがハヤトなら」

 ササハラはほんの少し皮肉げな笑みを口元に浮かべた。

「勝ちに走ったりなどせず、どうすれば楽しいか、対戦が盛り上がるかで、ファイターを選んでくるだろう。そんな相手は読めない。だからこそ、面白い! ハッキリ言わせてもらう。お前とのゲームはつまらん。退屈だ。ハヤトとの対戦のような、ワクワクがない」


 サユリは、鼻で笑った。

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「……ご高説どーも」


 長い、長い、溜息。


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「ハイハイ。じゃあ次の試合。さっさと終わらせよ」


 投げやりな様子でサユリは手をヒラヒラ。


キャラ (11)

「どうした? 最後まであきらめず、全力であがかんのか?」


「……こっちの最後のファイターは、ヤノくんに不利な属性の炎……どーせなにやってもムダでしょ」

 最後に出してきたサユリの悪意は、言った通りの炎属性……。


メインキャラ (64)


キャラ (11)

「…………つまらん」


 ササハラは、魔神のハンマーで、あっという間に倒してしまった。

 色々あったが、とにかくこれで俺たちの勝ちなのかよお?


キャラ (11)

「しまらん最後だったが、福岡ファイターの勝ちだな」


メインキャラ (12)

「ハヤトの解毒剤は!?」


ササー

「渡してもらおう」


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「ワタシに勝てたら、と言ったはずだけど?」


 サユリの紅の目がギラリと輝いた。

 パラパラッパッパッパー


 軽妙な効果音がとつぜん響いた! 


Here Comes a New Challenger!!

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「切り札を残しておいたのは、なにもアナタたちだけじゃない!」


 そしていきなり現れたのは、まさに異形としか言いようのない、異様な風体の男だった……。

 こ、これは……乱入!? しかも、この相手……人間……なのか……?


キャラ (11)

「……まさか……そう来るとは……」



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「ヤノくんの参加でそっちは10人。なら、こっちにも一人追加しないと数が合わないでしょ。てことで、格闘ゲームのトリにふさわしいキャラを出させてもらう!」

???

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『………………………………』


ササー

「ヤノ……負けるかもしれん」


 ササハラが固い表情で俺にささやいた。いつも自信に満ちているササハラが、戦う前にこんなことを言うなんて……。



 そしてROUNDが開始された……。

 異形の男は、静かに腰を落とし、構える。

 俺はハヤトみたいに格闘経験はないが、その構えだけで、相手が本物中の本物の格闘家であるとわかった……。


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 予想に違わず、今までのどんな相手とも違っていた。

 それはササハラの戦い方にも現れていた。

 一発狙いの大技は出さず、小刻みに、出の早い通常技で牽制する。

 それは我ながら、お手本のような『ヤノの使い方』……。

 これまでの俺は、ただ腕力にモノを言わせ、ブンブン振りまわすだけだった。

 だが、人並み以上の腕力を持つ俺は、そんな力んだ攻撃を仕掛けなくても、相手に致命打を与えられる。

 むしろ、力より、技や正確さに重点を置く戦いをするべきだったのだ。ササハラの操作は、俺にそれを思い知らせてくれるものだった。

 だが……


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 放たれた俺の拳を、異形の男の鋼のような拳が撃ち落とす。

 神速の抜き手が俺の頬をかすめた。

 フンガッと相手の肩をつかみ、投げようとする。

『ぬん……ッ』相手の気合と共に、腕は外された。

 その一瞬の隙を狙って、完璧とも言えるタイミングでササハラは魔神のハンマーを放った!


pヤノ


 しかし、異形の戦士は、それをアッサリとかわし、腰を落とし充分に引きつけたアッパーカットで、カウンターを狙ってきた!

 ブオオオォォッ!


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キャラ (11)

「………………………………」


 だがササハラもすごい。俺だったら確実に食らっていたその必殺のアッパーをなんとかガードした。

 防いだとはいえ、腕がそのままモギとられるんじゃないかというほどの破壊力……!


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「…………さっきまでの威勢はどうしたのかな!」


ササー

「………………………………」


 ふだんなら負けじと言い返すササハラも押し黙っている。


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 この敵は、なんなんだ……次元が違いすぎる……。コイツも悪意なのか?

 ……だとしたら、俺たちと『敵』との戦力差は、どれだけ……。

 ササハラの善戦も虚しく、もはや勝負は決する寸前。


e_47_boss_サユリ

「さあてトドメ。やあっとフィナーレだね!」


 サユリが決めに来る……!

 だが…………敵の異形はとつぜん動きを止めた。

 武闘場に立ったまま、電池が切れたかのように動かない……?


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『……フワッハッハッハッ! 面白い戦いでした。ですが、今日はここまでにしましょう』


 とつぜん異形が口を開いた……!? しかもその口調は、見た目のおそろしさに反し、紳士的とも言える丁寧なもの。


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「なに!? 動かない!? なんで! なんで操作がきかないの!?」


 サユリが筐体をバンバン叩きながら、金切り声を上げる。


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「サユリさま」


 異形がくるりと振り返る。

「私が信徒に対してできる助力はここまでです」

「!?」


キャラ (11)

「どういうことだ? お前は教団の命令でここに来たのではないのか」


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「私は個人的な意思で今日この場に立ち会いました。福岡ファイターをぜひこの目で見てみたく……特にヤノさま、あなたを」


キャラ (4)

「お、俺……?」


「今の戦いの呼吸をお忘れなく。あなたはもっと強くなります。あなたがあなたの持つチカラすべてを使いこなせるようになったとき、今日の続きをいたしましょう」

「なんで俺にこだわるんだよお……!? ……お、俺は……ちっとも強くなんて……ないぞお!」

 思わず本音をこぼした。


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「あなたはお強い。その出し方に気づいていないだけです。……強さを引き出すコツは、『おのれの持ち味を活かすこと』……あなたが強いと感じるひとをご覧なさい。その意味がわかるはず」


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pヤノ


「……おまえはいったい何者なんだよお……」


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「私の名は【異鬼院】……三法王がひとり。…………ナミさま」


 『いきいん』と名乗った男は、ナミのところに静かに歩いた。


メインキャラ (12)

「………………………………」


 ナミは、荒い呼吸のハヤトを守るように、ギュッと抱きしめる。


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「ハヤトさまの毒は致死性ではありません。あと1~2時間もすれば快方するでしょう。しかし、今すぐ苦痛を和らげたければ、この解毒剤を」


 異鬼院が差し出した小瓶をナミは乱暴に引ったくる。

「今回の件は、信徒であるサユリさまだけが引き起こしたこと。教団やアシラギさまは関与しておりません」


pナミ

「………………………………」


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「ですが、時は動き出しています。決戦の日はもう間もない。ナミさまもゆめゆめ準備を怠らぬよう」


 異鬼院は、誰に対してかわからない馬鹿丁寧な礼をすると、ものすごい跳躍力で動物園の森の向こうに飛び去っていった……。


キャラ (1)

「…………くっ…………うう」


メインキャラ (12)

「ハヤト!」


 異鬼院の解毒剤で、ハヤトは意識を取り戻したようだった。

「…………ぐっ……なんだ……? 俺は……サユリのヤツに……?」

 サユリ? その一言で、あわてて俺はサユリを見やった。


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「…………フザけてる…………ほんっとフザけてる…………どいつもこいつも……ワタシを裏切ってばかり……ワタシを傷つけてばかり! ……この世界は、どうして、こうも、敵ばかりなの……? 敵……てき……敵敵敵敵敵!」


 ゾッとするくらい暗い口調でサユリはブツブツつぶやいていた。

 そんなサユリが突然ダッと走った。その先には、ピンク色のボウケース

 サユリは、愛用のリカーブボウを取り出す。素早く矢を弓に装填する!


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「こうなったら……ソイツだけでも!!」


 殺気と共に、サユリは弓をハヤトに向けた……!

 無意識だった。

 俺の左腕に冷気が集った。それは、弓の形状を形作った。

 洗練された流れるような動作でサユリが弓を放つ。

 凄まじい速さと正確さで、それはハヤトの胸目がけて飛来する。

 俺もまた、冷気で作ったボウを引き絞り放っていた。

 サユリの放った矢目がけて。

 ナミの顔が凍りつく。ハヤトは気づいていない。ササハラが何かを叫んでいた。サユリは泣いていた。

 俺の放ったアリバの矢が、サユリの矢を撃ち落としていた。


pヤノ



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