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11-3 クリハラ10番勝負!3

風景 (5)

メインキャラ (33)

 血のように赤い空。

 影絵のような黒い木。

 あちこちで反響する嘲笑。

 火のついたライターが、クリハラ・メモに近づけられていく……。


キャラ (7)

『や、やめろっ!』


e_30_シミズ

『その口のきき方はなんだって聞いてんだろおがよォ? やめて欲しかったら、やめてくださいだろうがっ』


pクリハラ

『や、やめて……ください……』


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『チッ……なさけねーヤツ』


「やめて欲しかったら、これに顔つけて土下座しろや」

 犬のフンを指差し、男がおれに命じた。

 おれは、悔しさと情けなさで嗚咽しながら、言われるままにひざまずき、顔を……


『その必要はねえぜ。クリハラ』


 力強い声が響く。

 そこに立っていたのは……


pハヤト


e_30_シミズ

『だ、だれだ!』


キャラ (1)

『名乗るほどのモンじゃねえさ……。だがな、俺の仲間にずいぶんとナメたマネしてくれるじゃねえか』



 ハヤトさんは、素早くダッシュして、有無を言わさぬ必殺パンチ!

 ドゴッ!

 男がぶっ飛び、手に持ったライターがカランと転がった。

 ハヤトさんの手には、魔法のようにクリハラメモが。


pハヤト

『クリハラ……よくひとりで耐えてきたな。けど、もう大丈夫だからな。あとは俺に任せとけ』


 ハヤトさんは優しく微笑むと、おれの手にクリハラ・メモを渡してくれた。


e_30_シミズ

『て、テメエ! い、いきなりなにしやがんだよおおおっ!』


 真っ赤に腫れた頬を押さえて、男が身を起こす。

 ハヤトさんはまたダッシュして、電光石火の一撃をお見舞いした!

 ぎゃん!

 犬のような悲鳴を上げて、男は転がる。


pハヤト

『ん? なんか言った?』


『……ぐぎぎっ。て、テメェ……こんなことして……た、ただで済むと思って……』

『あのなあ。それが目上のモノに対する口のきき方か?』

 快活に笑うハヤトさん。でも、その笑顔の奥には、必殺の怒気が見え隠れしていた。


キャラ (1)

『あなたさまは、このようなことをして、本当によいと思っているのでしょうか、だろ? 返事はもちろん『当たり前だ、このタコ野郎』だがな!』


 ドガッ! バキッ! グシャッ!


e_30_シミズ

『ぐひいいい……な、なんなんだよ、なんなんだよアンタはああああ』


 何倍にも顔を腫らした男は、泣きべそをかいた。

『お前、俺の言ってること、理解できねーのか? バカなのか? 口のきき方治すためのお仕置きがもっと必要か?』

 ハヤトさんは男に見せつけるようにギュッと拳を握りしめる。


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『お、おい! なにやってんだよっ』


 そこへあのボクサーが現れた。

『あんた、クリリンの仲間かよっ? この俺様に勝てると思ってんのか?』

 男がファイティングポーズをとる。


pハヤト

『へっ。ボクサーか。ま、厳冬流にゃ、チョロい相手だけどな』


 男は素早いフットワークでハヤトさんに肉薄する。

 そこへハヤトさんの鋭いローキック!

 ムチのようにしなる左足が、重心を落としたボクサーの右太ももを打った!

 顔をゆがめ、動きを止める相手に、猛烈な右のミドルキック!

 相手はたまらずガード。

 だが、ボクシングの片手ガードでは、重たい厳冬流の蹴りを受け切ることはできない!


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『ぐうっ』


 苦悶の表情を浮かべる男。

 だがそこは、天才ボクサー。それでも、返しの右フックをハヤトさんの顔面に入れ込んできた。

 鋭い右フックが、ハヤトさんの顔面を撃ち抜く!

 ……と思った瞬間、ハヤトさんの身体がぐんと前に沈み……

 そのまま回転した!

 爆発的な回転力を与えられた右後ろ回し蹴りが、男の後頭部から襲いかかる!


pハヤト


 男は、後ろからハンマーで殴られたように、地面になぎ倒された。

 ハヤトスペシャル…………それは、一瞬の出来事だった。

 しゃがみこんだハヤトさんは、ヒクヒクしているボクサーの髪をひっつかんで、乱暴に顔を持ち上げた。


キャラ (1)

『おーい。聞こえてるかー? お前、歯ごたえなさすぎるぜ? これに懲りたら、俺たち福岡ファイターには二度と逆らうなよ? 言っておくが、クリハラが本気出したら、この俺より強えんだぜ?』


 男は、カニのようにブクブク泡を吹き、白目をむいている。

『チッ。聞こえてやしねえ。……あとなー。そこの姉ちゃん』

 ハヤトさんは、後ずさりするハズキを見ないまま、怖い声で言った。


pハヤト

『あんまり男ナメないほうがいいぜ。そのうち、痛い目見るかもよ?』


 スクッと立ち上がり……

 静かにハズキに詰め寄って……

『……………………………………』

 ハヤトさんは、怯えるハズキの顔にゆっくり自分の顔を近づけると、射抜くような目でにらんだ。


キャラ (1)

『……返事は?』


chara6 (3) - コピー

『……は、ハイ……ごめんなさい……』


 ハズキは気圧されてよろよろと尻もちをついた。そして、股間のあたりから、チョロチョロと湯気のたつ水があふれ出した。

 羞恥に顔を染めるハズキ。

 ヒクヒクと無様に痙攣するボクサーの男。

 泣きべそをかきながら「スイマセン」を連呼している手下。

 微笑むハヤトさんの勇姿。

 それらが、ぼんやりとにじんで、暗転し……


キャラ (7)

「!!!!!!!!!!!!」


 ……そして、目が覚めた。

 目が覚めるまで、おれは、それが夢だとは気づかなかった。

 起きたときの気分は、これまでで最悪だった……。

 アイツらへの復讐……。

 それを、自分ではなく、ハヤトさんにやらせる……。

 なんて夢なんだよ……。

 これが、おれの深層心理に刻まれた、本心なのか……。

 だとしたら、おれは……おれは…………。



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キャラ (6)

「……よし。今日はここまで」


 いつもの高宮八幡宮の朝練。スパーリングの途中で、コミネさんが言った。


キャラ (7)

「……え? でも、まだそんな時間では……」


「……クリハラよ。集中していない状態でのトレーニングは無意味だ……」

「………………………………」

「どうしたのだ? 今日はずいぶんと散漫になっているようだが。練習熱心なクリハラらしくないではないか」

「………………………………」


pコミネ

「このコミネ、戦友《とも》のためなら、相談に乗ることもやぶさかではないぞ……?」


pクリハラ

「……コミネさん。実は、ずっと考えていることがあるんです」


「……聞こう」

「おれの作ったランキングのことなんですが」

「クリハラ・ランキングか」

「ランキング1位はコミネさんで間違いありません」

「……ふむ。クリハラにはそう見えるという話だったな」

「……それでは、コミネさんはハヤトさんの強さをどう見ますか?」

「……ハヤトか……」


キャラ (7)

「おれは、正直、ハヤトさんの力に疑問を持っています。厳冬流の兄弟子でもあり、無敗の白帯の異名をとるほどのひと……。でも、最近のハヤトさんは、戦力として、精彩を欠くように思えてならないんです。正直に言って、カムラやカワハラより劣るとすら思っています」


キャラ (5)

「………………」


「だけど……だけど、それでも、おれはあのひとが弱いとは思えない。クリハラ・ランキングで最下位だと決められないんですよ」

「…………そうだな」


pクリハラ

「コミネさん……強さってなんなんでしょうか? どうしたら、おれは、今より強くなれるんでしょうか?」


 ……おれは、もうひとつの肝心な質問をはぐらかした……

 ―― おれは、クリハラ・ランキングで、何位くらいでしょうか? ――


キャラ (5)

「……このコミネ、強さというのが何かは、正直ハッキリはわからぬ。クリハラ・ランキングの順位も、ハヤトの持つ強さの正体も、おまえの本当の疑問の答えも、な」


 コミネさんがすべてを見透かしたように唇を曲げた。

「……だからクリハラよ。こういうのはどうだろうか。仲間と一度本気でぶつかってみるのだ。名付けて、『クリハラ10番勝負』!」


キャラ (7)

「く、クリハラ10番勝負……!?」


「そうだ。おまえ自身が仲間全員に戦いを挑む、本気のスパーリング。それがクリハラ10番勝負……! そうすることで、何かしら得るものがあるはずだ……」

「ムホホ……それは面白そうですが、しかし、属性はどうなるんですかねえ? 風属性のおれは、氷系のカムラやカワハラには強いですが、炎系のカスガさんやシモカワには不利ですよ?」


pコミネ

「負けるがいい……」


pクリハラ

「……ムホ? い、いま、なんと?」


「クリハラよ……このクリハラ10番勝負。なにも勝つためにやるのではない……。仲間に全力で挑み、戦うことで、おまえ自身が成長するのが目的だ。負ける戦いもまた、きっとおまえの成長の助けになるだろう……」

「……こ、この天才に負けろと?」


キャラ (5)

「もしそうなるのなら、それも運命《サダメ》……。戦う順序はおまえ自身が定めるといい。なんなら、おまえの考えるクリハラ・ランキングの強さの順で相手を選び、一番強敵と思う相手をラストに据えるというのも一興」


 負けるのを覚悟のうえで、不利な属性の相手も含め、福岡ファイター全員との勝負……。

 そうすれば、おれは、今の自分に足りないものを見つけられるのだろうか……?

 強さの本当の意味がわかり、今度こそ、自分を変えることができるのだろうか……?


キャラ (7)

「……ムホホ。それは、過酷な10番勝負になりそうですねえ……。わかりました。おれ、やってみようと思います!」


風景 (29)


 おれとコミネさんはさっそくカタギリ家へと向かった。

 そして、驚く福岡ファイターとナミさんに、10番勝負の挑戦状を叩きつけたのだった……。


メインキャラ (33)






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