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11-2 クリハラ10番勝負!2

メインキャラ (33)

 

……また夢を見ていた。

 今度は夢だとすぐわかった。その邪悪な女の顔を見て……。


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「……クリハラクン。話ってなあに? こんなところに呼び出したりして……」


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キャラ (7)

「は、ハズキさん!」


 ……やめろクリハラ。それ以上話すな! その女は、おまえが思っていたような女じゃないんだ!

 ……今のおれはそう叫ぶが、中学生のおれに、その叫びは聞こえない。


pクリハラ

「は、ハズキさんも、ちっ、筑紫丘高校に、受験するって聞いて、その…………いっしょに、勉強とかできたら……いいな、って思って……」


e_ハヅキ

「…………え。クリハラクンも、筑紫丘、受けるの? ほんと?」


 ヒグラシの鳴く放課後の神社。

 ハズキという女生徒は、花が咲いたような笑顔を浮かべる。

「は、はいっ。ウチはあまりお金がないから、できれば公立に行きたいと思ってて……それで」

「それで、ワタシと一緒に勉強したいの? ……クリハラクン、もしかしてワタシのこと……好きなの?」

「ええ!? ………あ、いや、その……」

「こたえて?」

 ハズキは小首をかしげてニッコリ笑う。

 ずっと憧れていたクラスのアイドル。野間中学校でも指折りの美人だけに、その笑顔は、眩しく光り輝いているようだった。


キャラ (7)

「……おれ……と、と、友達になれたら……と思って」


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「……はあ? バッカじゃねーの、おまえ」


キャラ (7)

「……………………え?」


 ギャハハハハハハハハ!

 あふれる嘲笑が響き、下卑た表情の男たちが、物陰からぞろぞろ出てきた。


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「…………オイオイオイ。クリリン。身のほどをわきまえろって。ハズキも筑高も、おまえみたいなゴミクズが狙っていいわけねーだろ?」


 タバコに火を着けながらクククと笑うその男。

 クラスでも、いや中学校でも一番有名な不良だった……。

 素行の悪さにも関わらず、スポーツ万能、成績はトップクラス、親は福岡でも指折りの大会社の社長で、教師も誰も手が出せない男……。


キャラ (7)

「……………………」


 口をパクパクさせながら、おれはハズキを見た。


e_ハヅキ


 意地の悪い笑顔を浮かべたハズキが、その男のそばにタッと駆け寄る。

 入れ違いで、手下ふたりがこっちに近づいてきた。ガタイがよく、クラスでも札付きのワルどもだ。


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「…………親のしつけが悪ィ犬には、『お仕置き』が必要だな」


 アイツが言うや、ワルふたりはおれの腹を蹴った。

 おれは地面をのたうちまわる。

「おまえんち、親が離婚して母親だけなんだって? ダメだねエ、片親は。金がねーと、子供もマトモに育てられないなんて、貧乏人ってのぁ悲惨だよなあ」

 くわえたタバコを上下させながら、アイツはおれを見下し、哀れっぽく笑った。

 おれの頭の中がカッと爆ぜた。


キャラ (7)

「……母さんを、侮辱するなあああああああ!!!!」


 夢の中の中学生のおれは、猛然とその男に突き進んだ。

 薄ら笑いを浮かべる男の顔面めがけて拳を振り上げる。

 拳はあっさり空を切った。男は余裕の笑いを浮かべたまま、おれのパンチをかんたんに避けた。


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「……しつけがなってねェばかりか、ずいぶん反抗的じゃねーの」

 男がプッとタバコを吐き捨てた。

「……二度と噛みついてこねェように、調教してやらないとね」

 ドゴンッ!

 腹に砲丸でもぶつけられたような衝撃。喉元までゲロがこみ上げる。

 冷たい笑顔を張り付かせたまま、男はおれを殴り続ける。

 地面に倒され、身体中が砂と小枝まみれになり、あちこちに痛みが走り……

 おれは泣きながら、必死に許しを請うて……


pクリハラ

「…………ご、ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」


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「バーカ。ゆるさねーよ」


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「……なさけーねーやつ」


キャラ (7)

「ああああああああああああああああああああああ!!!」


 そして。目が覚めた。

 ……思えば、あのハズキという女生徒に手紙を出し、神社に呼び出してからが、おれの悪夢のすべての始まりだったかもしれない……。



 今朝のロードワークは、気づけば20キロ走っていた。

 高宮八幡宮が近づいてくるころには、すっかり日も高くなっていた。

 コミネさんのことが気になったけど、おれの姿がなければ、すぐに帰っただろう。

 セミの声の中、石段を一気に駆け上る。

 20キロ走ってもぜんぜん疲れなかった。アリバで肉体が強化されたせいで、ふつうのトレーニングでは追いつかなくなっている。

 一礼するのも忘れて、鳥居をくぐった。そしておれの顔面が引きつった。


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 夏の緑があふれる境内に座るその姿。

 制服は変わっても、その毒を秘めた可憐な顔は、忘れようがない。

 ハズキは、おれの知っている男と境内に座り、笑いながら何かを読んでいた。男は中学時代さんざんおれをイジメたグループのやつだ。

 ふたりが読んでいるのは……

 ……隠しておいたはずの……クリハラ・メモ!!


e_ハヅキ

「あ」


 ハズキが呆然と立ち尽くすおれの姿に気づいた。


e_30_シミズ

「おおーっと。ひさびさのクリリンとうじょー。やっぱこの手帳、おまえのかよ」


 男がクリハラメモをヒラヒラ振って見せた。


pクリハラ

「か、かえせっ!」


 身体がすくんでしまっているのが自分でもわかった。


e_30_シミズ

「クリハラ・メモなんて表紙に書いてあるからそうじゃねーかと思ったけど、すげえね、おまえ。なにこの『いつか殺してやるリスト』? ヤベエやつとは思ってたけど、おまえぜってーそのうち犯罪起こすだろ」


 クリハラ・メモに書いておいたのは、じつは福岡ファイターの情報だけじゃない……。

「しかも、なんだこの【栗崎悪太郎】って? おまえのペンネーム?」

 全身から血の気が引いた。

 誰も知らない、知られてはならない、その名前……。

 それは、おれがパソコン通信上で使っているハンドルネーム。その名前でおれは、ずいぶんとBBS上に罵詈雑言を書き込み、憂さ晴らししてきた。

 けれど、そんなのは、アリバに目覚め、福岡ファイターとなるずっと前のこと。おれは変わったのだ……。


pクリハラ

「か、かえせっ……」


e_30_シミズ

「ああ? やんのかコラ?」


e_ハヅキ

「もう……やめときなって。クリリンなんてほっといて、行こうよ」


 困り顔のハズキが、形ばかり男を止める。

 男は一般人だ。アリバでも悪意でもない。おれが毎日戦っている悪意どもに比べれば、お話にならないくらい弱い。それはわかっている。

 なのに……


e_30_シミズ

「クリリンのくせに、イキがってんじゃねえ……オオッ!?


 そのひと言で、蛇ににらまれたカエルのように身体がすくんでしまった。トラウマが、おれを縛りつけ、完全に萎縮させてしまっていた……。

「そーいや、おまえけっきょく東和にしか入れなかったって? せっかくチマチマ勉強してたのにな? アタマ悪いと、努力なんて報われないもんだなー。東和とか、バカしか通ってねーだろ」


キャラ (7)

「…………東和をバカにするなっ……おれの友達を……バカにするなっ……!」


 萎縮しきったおれの身体の奥底で、小さな炎が灯った。

「は? おまえ、俺に逆らうの? クリリンの分際で?」

 ソイツのひとにらみで、小さな炎はすぐに勢いをなくした……。

 またも目をそらし、うつむいてしまう。


e_30_シミズ

「こりゃお仕置きが必要だな」


 嬉しそうに男が口にした『お仕置き』……

 コイツらのリーダーだったあのボクサーの口癖だ……。中学時代、『お仕置き』と称して、あらゆる暴力を受けた記憶が、フラッシュバックした。

 シュボッ。

 男が百円ライターで火をつけた。

 それを、ゆっくりクリハラ・メモに近づけていく……。


pクリハラ

「や、やめろっ!」


e_30_シミズ

「その口のきき方はなんだって聞いてんだろおがよォ? やめて欲しかったら、やめてくださいだろうがっ」


「や、やめて……ください……」


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「…………チッ」


 ハズキが嘲るような目でおれを見下す。

「やめて欲しかったら……そうだな……おっ。ちょうどいいモン見っけ」

 男の視線の先には、地面に転がる茶色い物体。

 全身が一瞬で硬直した。それは、中学時代のおれが無理やり食わされた、あの忌まわしい汚物……。


e_30_シミズ

「……コイツに顔つけて土下座しろや」


 冷酷に男が命じた。細胞レベルで恐怖に支配されたおれは、それを拒否できなかった。


pクリハラ

「…………ううう………」


 犬のフンの前にひざまずく。

 ハズキが何かつぶやくのが聞こえた。


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「……なさけねーヤツ。強くなけりゃ、男って言えないでしょ」


 ……ハズキの言う通りだ……おれは……おれはどうしようもなく弱くて……ダメなやつで……

「フフフ……女子よ。男の強さには、いろいろあるのだぞ……?」

 とつぜん聞き覚えのある声が響いた。こ、この声は……!


キャラ (7)

「こ、コミネさん!」


キャラ (6)

「たまたまこの近くを通りかかってな」


 コミネさんが、いつのまにか立っていた。

 その普通じゃない姿を見て、さすがに男とハズキがひるむ。


e_30_シミズ

「な、なんだよオッサン! おまえ誰だよッ」


pコミネ

「……コミネ。そこに居るクリハラの戦友《とも》にして、コミネ神拳の伝承者……ついでに言うと、オッサンではない……大学生だ……」


 コミネさんは、ゆっくりおれたちに近づいてくる。

「な、なんだよ……も、文句あんのかよっ! やんのか!? オオッ!!

 コミネさんの迫力にすっかりビビった男が虚勢を張った。その手には、まだ火のついたライターとクリハラ・メモが握られていた。


キャラ (5)

「そのメモはクリハラの大切なもの……返してはくれまいか?」


 次の瞬間、おれは我が目を疑った!

「…………このとおりだ」

 コミネさんは、ゆっくりひざまずき……

 犬のフン目がけて……

 ためらいなく顔を下ろしたのだ!


キャラ (7)

「コミネさん!!」


 自分で命じたその男も、ハズキも、あっけにとられていた。

「コミネさん! やめてください! 顔を上げてくださいっ!」

 おれは叫ぶが、コミネさんはそんな声が聞こえないかのように、土下座を続けた。

 そして、汚物にまみれた、けれど涼やかな顔を上げて、ひと言……。


キャラ (5)

「これでも足りぬなら、ほかになんでもしよう……食えと言われれば、喜んで食うが……?」


 気負いのない静かな声だった。しかしそこにはまぎれもなく、巨大な巌のような圧倒的オーラが満ちていた。


e_30_シミズ

「……ケッ。見かけ倒しだな、オッサン!」


 手を出してはいけない本能的な恐怖を感じとったのだろう。

 男は、コミネさんの静かな迫力から逃げるように背を向けると、戸惑うハズキの手を引いて、足早に神社から去っていった。


pクリハラ

「こ、コミネさん! どうして……」


 ガックリとひざをついたおれのノドから、声が絞り出された。

「コミネさんなら、あんなやつ、指先ひとつで……」


pコミネ

「……フフフ。クリハラよ。我ら福岡ファイターは正義の使徒。コミネ神拳は悪を討つ牙なのだ。このコミネ、一般人に向けて振るう拳は持っておらん……。この頭を下げてクリハラ・メモが取り戻せるなら、安いものだ……」


キャラ (7)

「こ、コミネさん……あなたというひとは……」


 男の中の男……。そう思ったとたん、涙があふれてきた。コミネさんを尊敬して本当によかった……。


キャラ (5)

「フッ。ハヤトでもきっと同じことをしたと思うぞ?」


「………………………………」

「さあ、クリハラ。顔を洗ったら、今日も始めるぞっ。おまえの怒りは、トレーニングにぶつけるのだ!」

「ハイ!」

 そしておれは、今日もコミネさんとスパーリングをするのだった。

 もし、ハヤトさんだったら……はたして、コミネさんと同じことをしただろうか……?

 ……そんなことを頭の隅で考えながら……。


メインキャラ (14)


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