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美術展観賞記録

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展覧会に行ったときの感想文。Instagramに投稿しているものと文章はほぼ同内容ですが、写真および作品解説を追加していることがあります。
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2023年12月の記事一覧

「深掘り!浮世絵の見方」(太田記念美術館)

「深掘り!浮世絵の見方」(太田記念美術館)

 通常、錦絵(木版多色刷りの浮世絵)は絵師のみで完結することはなく、絵師の指示をもとに版木の制作を行う彫り、そして摺りの二つのプロセスを経て世の中に流通します。今回はその技術的側面にスポットライトを集めたもの。

 初心者でも楽しめる内容ですが、今回の展覧会内容の全てを「知ってるよw」と通り過ぎることのできる鑑賞者は相当のベテランか本職(研究者・コレクターetc.)かでしょう。化学染料のベロ藍につ

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「吉田博 木版画の100年」(MOA美術館)

「吉田博 木版画の100年」(MOA美術館)

 吉田博が木版画制作を本格化するきっかけとなった外遊から今年で100周年とのこと。吉田は全版画集を持っているぐらい好きな画家の一人で、MOAのコレクションが群を抜いて優秀なのも承知しているので(版が若く線がシャープで、画面のクリアさが段違いです)、今回は音声ガイドを使用しました。BGMなし、淡々と語る男性ナレーターの音声が非常に心地良いです。

 吉田が特に重要視したのは対象に対する「体験」。(吉

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「なぜか忠臣蔵 藤沢のヒーロー小栗判官と江戸歌舞伎」(藤沢市藤澤浮世絵館)

「なぜか忠臣蔵 藤沢のヒーロー小栗判官と江戸歌舞伎」(藤沢市藤澤浮世絵館)

 現在歌舞伎等で上演される「仮名手本忠臣蔵」は太平記を下敷きにしたもの。当時は武家に関する時事的内容の上演が禁止されており、あくまでフィクションだという「形式」を保つため、このような形式が取られていました。

 ここらへんの話は歌舞伎に強くない私でもなんとなく見聞きした記憶があるんですが、太平記が下敷きになる以前、小栗判官を下敷きにした「忠臣蔵」があるというのは完全な初耳。
 展示室でメモった情報

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「楊州周延-明治を描き尽くした浮世絵師」(町田市立国際版画美術館)

「楊州周延-明治を描き尽くした浮世絵師」(町田市立国際版画美術館)

 戊辰戦争時代は「神木隊」を結成して新政府軍と交戦、重傷を追った経験があり、そして明治以降は浮世絵師として、新版画が登場するまでの過渡期を支えた男、楊州周延(本名、橋本直義)。

 周延の師匠に粗相をした河鍋暁斎に刀を抜いたというエピソードもあるなど、そのマインドは非常に武士的。しかし戦争画を描いても血みどろ絵・無残絵を描かないなど、暴力を残酷性に結びつけない独特の倫理観を感じるのも確かです。「明

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