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#仏教

仏弟子たちのダメダメ事件簿 知られざる律蔵の世界①

仏弟子たちのダメダメ事件簿 知られざる律蔵の世界①

パーリ三蔵読破への道 連載第二回
佐藤哲朗

●日の当たらない「律蔵」パーリ三蔵中の律蔵(ヴィナヤ・ピタカ)は、ちょっと「不遇」な仏典です。専門的な研究書は数々ありますが、原典の全訳は旧漢字・旧仮名遣いの『南伝大蔵経』(一巻~五巻)のみ。律蔵は出家の領分だから、在家者が読んでも面白くないと思われているようです。でも、それって偏見ですよ。むしろ、読み物としてこれほど魅力的な仏典はないといっても過言で

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貞慶『法相初心略要』現代語訳(一) 三時教判について

はじめに 解脱房貞慶(1155〜1213)の作とされる『法相宗初心略要』(二巻、続一巻)は唯識初学者に向けた梗概書である。法相唯識のすぐれた概説書としては孫弟子にあたる良遍(1194〜1252)の『観心覚夢鈔』や『法相二巻抄』が知られ、解説を付した名著も出版されている[1]。しかし、『法相宗初心略要』は一般には知られていない。そこで本稿では、自らの唯識理解を深めるためにも試訳を成さんとするものであ

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環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その4

環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その4



1890年代のダルマパーラ

大菩提会の設立

 前回に引き続き、アナガーリカ・ダルマパーラという人物について見ていきたいと思います。1891年1月に、ダルマパーラはインドのブッダガヤ―(釈迦が35歳のときに「覚り」をひらいたとされる場所です)を訪れました。しかし、当時のブッダガヤーは、シヴァ派のヒンドゥー教徒によって管理されていました。

 以前も触れたように、13世紀のはじめにイスラム勢力

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環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その2

環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その2



仏教は「こころの科学」? 前回に続いて、今回扱ってみたいのは「仏教はこころの科学である」という仏教観です。

 仏教はこころの科学である――これは現代の日本で時々見られるフレーズです(ここで言う「こころ」とか「科学」といったことばが、一体何を意味しているかは必ずしも明らかではないのですが)。このフレーズが何を意味しているのかはともかく、およそ「宗教」と呼ばれる文化現象のなかで、仏教ほど人間の心

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環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その1

はじめに
 さて、前回の最後に私はこう申し上げました。

 そういうわけで、己の仏教観をどのように訂正したのかを、へっぽこ勉強を続けつつ書きためておったのですが、書き進めるうちに、話が当初の想定どおりに進まなくなっていきました。

 というのも、私は当初は、自分の仏教観の修正は部分的なものにとどまるだろうと浅はかにも思っていたのですが、勉強を続けるうちに、自分の仏教観を根本から修正しなければならな

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環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その3

環流夢譚――「ほんとうの仏教」という神話 その3



「合理的」で、「初期仏教」に忠実な上座部仏教? 前回に引き続き、「“ほんとうの”仏教」という観念に含まれている問題点について見ていきたいと思います。巷で時折見かける仏教観に、次のようなものがあります。

〇釈迦が説いた元々の教えは、「非合理的」な呪術や儀礼などを説かない「合理的」で「論理的」で「科学的」なものだった。宗教というよりも生き方の哲学だった。“ほんとうの”仏教は宗教ではなく哲学である

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