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【小説】 鳥 第2話

第2話

私の彼は、モデルの仕事をしている。けれど彼はいつも自分の容姿に対して無関心だ。いや、正確には無関心とかではない。なんていうか、特別な贈り物だという事を自覚していない。最初から持っている人には、羨ましい人の気持ちは多分、本当の意味ではわからない。

彼といると、沢山のものを持っていて羨ましいなと思う。
美しい顔の作りも、優しくて思いやりのある性格も。
自分自身が求められる働く場所も。

……私の持っているものは何だろう。


ソファに座り、窓から見える鳥を眺めた。

どこまでも続く空を飛ぶ鳥は、自由で楽しそうだ。


鳥が羨ましかった。

——何で人間は、こんなに頑張り続けないといけないんだろう。私のゴールって何なんだろう。


ある時、彼に尋ねた。

「人生は、ずっと走り続けないといけないマラソンの様なものだと思わない?」

「急にどうしたの? どういうこと?」

「疲れて走るのをやめると、どんどん後ろから追い抜かれて行って、また走り出しても追いつけなくなっちゃう。それでもう、走るのが嫌になってくるの」

——まるで人生みたいだ。

「多少休んでも追いつけるよ」

……足に自信のない人の気持ちは、分からないんだ。
当たり前の様に、そう言ってしまえる彼に少しイライラした。

「それは足に自信のある人が言えるセリフだよ」

——必死に食らい付いている人だっている。

「そうかな。僕だったら疲れたら休むし、周りの景色も楽しみたいかもね」

——だから、それが出来ない人もいるんだってば!

「……マラソンはそんな悠長にするものじゃないよ。タイムだって測ってるし」

「別にタイムはどうでもいいよ」

——いい評価を受けるのが当たり前になっているから。

こう言う人に限って、周りからの評価とか気にしないとか言うの。

「……私はみんなに置いて行かれるのが嫌だから休めない」

「だから大丈夫だって。君は何でも頑張り過ぎだよ」

「だって、必死じゃないと置いていかれちゃうから。私は常に走ってないと不安よ」

——だって、結果を出した人ならいくらでも言ってもいいかもしれないけれど。そうじゃない人は、そんなこと言ってたらダメなんだって!

「意外だね。君はネガティブに物事を考えそうにないから」

彼はそう言って、優しく笑った。

「そう? ……結構ネガティブよ」

私は笑って、また空を見上げた。








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