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約34億円の教育効果は?

 令和4年全国学力・学習状況調査の結果が7月28日(木)に公表されました。小学6年生の調査のために約16億円、中学3年生の調査のために約18億円、合計約34億円もの費用をかけて行っている全国的な調査は、果たして生かされているのでしょうか。中学校の調査結果をもとに考察します。

正気ですか?と問いたくなる質問事項

 まず驚いたのは前回の投稿で考察した補充的な学習に関する質問事項が削除されている点です。これはどういう意図なのでしょうか?
補充的な学習を必要とする児童・生徒に対して効果的な方法が見出せたという理由であればわかりますが、私の素人分析でもそうは思えません。

それに対して

・ICTを活用した校務の効率化を通じて,生徒の出欠・遅刻に関する事務
 は軽減しましたか
・ICTを活用した校務の効率化を通じて,家庭への調査等に関する事務 
 (個人面談等の日程調整や学校評価アンケートなど)は軽減しましたか
・ICTを活用した校務の効率化を通じて,学校からのお知らせ(学校通信
 等)は軽減しましたか
・ICTを活用した校務の効率化を通じて,教職員等会議に関する事務は
 軽減しましたか
・ICTを活用した校務の効率化を通じて,教職員の書類作成等その他の
 事務は軽減しましたか

令和4年度全国学力・学習状況調査クロス集計(中学校),国立教育政策研究所

というような質問に対する国語、数学、理科の正答率をまとめていました。ICTの活用によって職員会議の事務が軽減したら、学力が向上するという仮説を立てて、この質問を実施したのでしょうか。そうであったとしても、これらの質問内容と生徒の学力はあまりにもかけ離れており、相関がないであろうことは容易に予測できます。実際の調査結果も正答率にほぼ差はありませんでした。

全国学力・学習状況調査クロス集計(中学校),国立教育政策研究所

 事務が軽減することで、教員に余裕が生まれ、教材研究等の時間が十分に取れるから学力に相関が生まれると考えているのであれば、首を傾げざるを得ません。事務を軽減したからといって、余裕ができた時間すべてを学力向上に向けての研修などに充てるとは限らないからです。
子どもたちにゲームを禁止したとしても学力向上に結び付きにくいのは、その禁止した時間を勉強に充てるとは限らないからと同じです。

 補充的な学習の質問を削除してまで上記のような調査をする有用性は感じず、本気で学力向上の要素を探ろうとしているとは到底思えません。

また、

調査対象学年の生徒は,授業では,課題の解決に向けて,自分で考え,
 自分から取り組むことができていると思いますか
調査対象学年の生徒は,学級やグループでの話合いなどの活動で,自分の
 考えを相手にしっかりと伝えることができていると思いますか

令和4年度全国学力・学習状況調査クロス集計(中学校),国立教育政策研究所

などの、生徒が主語となっている質問内容も、あまり意味がありません。
なぜなら、生徒が課題解決に向けて自分で考え、自分から取り組むことができるから正答率が高かったという結果を見ても、「でしょうね」という感想しか生まれないからです。自分で課題解決できる力があるのであれば、好成績を収める傾向になるのは調査するまでもなく当然の結果です。
 そんなことよりも、どうすれば課題解決に向けて自分で考え、自分から取り組むようになるかということを知りたいはずです。

 34億円に値する質問事項としてふさわしいのか甚だ疑問に感じました。

学校現場における調査結果の活用

 毎年、全国学力・学習状況調査の結果が出ると、各中学校で調査が実施される国語、数学の担当教師(令和4年度は理科も)を中心に、統計的な専門知識をもっていないにも関わらず、データを分析して授業改善などを立案し、教育委員会に提出するよう指示されています。その結果、毎年同じような質問事項に対して、同じような正答率の傾向になっている状態なので、学校独自の分析では学力向上の効果は生まれにくいと言わざるを得ません(数学の教師であった私も同じように分析し、同じような結果でした)。

令和4年度全国学力・学習状況調査クロス集計(中学校),国立教育政策研究所

 業務改善、34億円の費用対効果を考えるのであれば、分析、立案は統計の専門家に依頼して委ねるべきだと思います。今のままでは、毎年の恒例行事として終了しているだけで、教育の発展はありません。せっかくのビックデータなので、行動経済学の専門家などに学力と教育・指導法の因果関係を見出してもらいたいというのが私の本音です。

 約34億円、私には想像できないくらいの大金ですが、日本の教育のために本気で活用してもらえることを切望します。

 お詫び。前回の投稿で全国学力・学習状況調査の結果が毎年秋ごろ発表されると書いてしまいましたが、7月28日(木)に公表されました。思い込みではなく、きちんと事実を確認した上で慎重に投稿したいと思います。

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