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大事な話があるの【八〇〇文字の短編小説 #5】

ペンション・マリエのベッドに横になりながら、アンディは「チェスキー・クルムロフ」とつぶやき、まじないの言葉を唱えているような気分がした。ティナはシャワーを浴びている。アンディは天井をぼんやりと眺めながら、雨が降っているみたいだと思った。

ダブリンからチェコまでの小旅行。二人とも夫婦関係が壊れていた。アンディのもとからはビリンダが去り、ティナはニールから離れた。どちらも離婚はしていないけれど、アンディとティナが関係を持ってから一年ほどが経っていた。二人でダブリンを出るのは今回が初めてだった。

プラハを二日間観光し、長距離バスでチェスキー・クルムロフにやってきた。中世の町並みが残る世界遺産を訪れようと言い出したのはティナだ。「滞在中に三十三歳の誕生日が来るから、盛大に祝ってね」とうれしそうに言ってきた。明日、ささやかなバースデーパーティーを開いてあげよう。アンディは煙草を吸いに外に出たいと思いながら、そう考えていた。

バスローブのティナが「夕食は何にする?」と聞いてきた。長い髪は濡れたままで、どしゃ降りにあったみたいに見える。

アンディは「何でもいいよ。ペンションの外にいくつかレストランがあったね」と答えた。「できれば、地元ならではのものを食べたいな。ビールも楽しもう」

実のところ、アンディはティナとの関係に無条件に満足していたわけではなかった。ビリンダとの夫婦関係は冷え切っていたけれど、二人の息子に申し訳ない気がしていた。それでも、ずるずるとティナとの付き合いを続ける自分の弱さを情けなく感じていた。

「大事な話があるの」とティナが言った。アンディは黙ってうなずいた。

長い沈黙のあと、ティナが告白する。「実は私、あなたの子どもができていたの。でも、いろいろ考えて堕ろしたわ。いいでしょ?」

アンディは何も答えなかった。自分の手が震えているのに気づいた。現実を変えるまじないの言葉があればいいのにと思った。

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