又吉直樹『劇場』を読む

 ようやく、読んだ。
なかなか複雑な話で、一度読了しただけじゃ、完全に理解できない話だなと思った。
 前作『火花』を読み、又吉さんの言葉選びの独特さが好きになった。
 他の人にはない斬新で深みのある言葉が詰まっている。
 この人でなければ書けないお話だと思ったからだ。

貧乏学生には、単行本は高級品だ。

 だから、滅多に単行本は買わない。
 それに、文庫本の方が鞄選びに苦がないからね。
 だけど、10月に発売する『人間』は読むぞう。

閑話休題。

以下無意識でネタバレするかもしれないが、自己責任で読んでね。

『劇場』のあらすじを振り返る。

高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった――。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞『火花』より先に着手した著者の小説的原点。             《公式HPより》

ひたすら、東京のどんよりとしたグレーな空気の中、話の場面が巡る。
エンターテイメントの小説ではなく、自分の内面と向き合って、自分の目を背けたい部分や猜疑心をさらけ出した小説。
小説の世界に浸るんじゃなくて、小説の登場人物に怒りさえ感じる。
けっして、「面白くて一気読みしちゃう!」と思えない。笑い顔で読めない。『人間失格』が精神がよろしくない時に読んではならないような、心をしっかりと立たせる精神状態じゃないと読めない内容。

恋愛小説ではあるけれど、恋愛要素は、少ない。
どちらかというと、ボーイミーツガールして、二人の人生に影響を与えるような感じ。
「好き」とかの言葉を伝えることなく、
いつの間にか恋愛が始まって、恋愛の火影が消えかかり、、取り直そうとするが、再起不能になっていた。
だから、二人の男女がお互いのことが好きで「きゃっきゃうふふ」することはない。どちらかというと気の合う男女が街を散歩している感じ。
恋愛でも、性的な描写がなく、純潔さを感じられる。


率直には、前作『火花』の方がわかりやすかった。

場面変換と時間経過が早い。数行で数ヶ月くらい経過する。
まるで、脚本のように、感じる。場面変化が早いから。
心象描写よりも、登場人物の行動について書かれたト書きが多いからかもしれない。

どうなんだろうなぁ。

私は、今回の『劇場』も好きでした。
相変わらずの、又吉さんの文才が発揮されていましたし。
永田と沙希の会話にそれが遺憾無く発揮されてました。

永田が、とんでもなくクソ人間である。
自分のことを「くそ」だと思っているクソ人間だから、最高にクソな感じ。
・付き合ってまもない年下の彼女の家に居候する。(ご飯も)
・沙希に違う男の匂いを感じたら、とにかく怒る
・とにかく自分至上主義。絶対に、自分を前提に置いて他者を見ている。いわゆるジコチュー。

対して、沙希が理想の女性なほど、魅力的で、献身的。
正直こんな聖母みたいな女性は小説の中にしかいない。
永田のクソさを全て肯定している。こんなの小説の中か、戦前の亭主関白の良妻賢母みたい。

それほどまでに、沙希が永田の作品と人柄に惚れてしまったのだろうか
ほら、よくいうじゃん、
ヒモ男ほど、女は母性本能くすぐられて惚れてしまうって
そんな感じ

三分の一を読んだところから、永田に対しての怒りしか感じなかった。
なんやこいつ、自分に折り合いつけろよって。
沙希も、そろそろ自分の素の気持ちに気づきなさいよって

だけれども、

沙希が東京を離れると言い出した時に、なんともいえなく、
胸がぎゅうっと絞られる気持ちになった。

この二人が離れたら、この二人の人生に色づきがなくなると感じた。
いつから、この二人の心の距離ができてしまったのだろう
いつの間にか修復できない心の溝ができていた
沙希も永田も、大人びているので、それには気づいているが、
心の溝をしっかり感じてしまえば、
二人だけの、時間の浪費でしかないが、色づいている日々を壊してしまうことは明らかだったから、
気づかないふりをしていた。
特に永田はおどけていた。


「恋愛」小説のはずなのに、まったくキュンキュンしない。
それどころか、いつのまにか恋が始まっていて終わっている。
不発の恋というべきか、そんなところ。

大人同士で愛して、同棲までしているのに、全く性的な匂いもしない
ただ、ただ、無機質だ。

以上が、私の感想だ。
難しかった!
自分の内でもいまいち理解できてない箇所がある。
難解なんだけど、味わい深い作品だった。
再読必須。また読む。

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